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公爵家の女たちは男運だけがない  作者: たくみ


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53.突然の来訪

「ルイス!ルイス!」

 

 自室で着替えていたマーシャの婚約者であるルイスは廊下から聞こえてくる母親の声にその手を止める。扉を見ているとノックもなく母親がすごい勢いで駆け込んできた。


「なんですか母上、今日はユリアと出かける予定なのですが」


「まあ!まあ!まあ!何を言っているの!?あなたの婚約者はマーシャ様でしょ!」


「わかってますよ」


 気持ちはどうあれマーシャと結婚するつもりだ。だって公爵家の仲間入りができるのだ。そりゃあ尻に敷かれるだろうし、家庭において最下層だろう。


 だが皇家を除く世の人々は皆自分に頭を下げるはず。


 自分より身分が高かったやつ、顔のいいやつ、金のあるやつ。自分に頭を下げることなど考えられなかったやつらが自分の足元にひれ伏すのだ。


 その時を想像すると顔がにやけるのを止められない。


「いつまであの女に執着するのよ!?あの女よりマーシャ様の方が素晴らしい方じゃない!何が不満なのよ!?さっさとユリアとは縁を切りなさい!ああ、そんなことを言っている場合ではないわ!マーシャ様がいらっしゃっているのよ!」


「え!?」


 それはいかん。ていうか何しに?愛しの愛しのユリアを待たせるわけにはいかないというのに。なんとかして帰ってもらわなければ。


「あら、もしかしてご迷惑だったかしら?」


 顔を顰めるルイスに美しい声がかけられる。


「め、滅相もございません!マーシャ様にご足労頂くなど畏れ多いことにございます!マーシャ様より優先する用事など我らにはございません!」


 我が物顔で勝手に邸宅を歩きルイスの部屋に来たマーシャだったがルイスの母は苦言を呈するどころか、ヘコヘコと頭を下げる。


「そのように畏まる必要はございませんわ……私達は家族になるのですから」


「ああ!なんて畏れ多いお言葉!」


 いくら公爵家が相手とはいえ大袈裟な反応をするルイスの母。それもそのはず彼女はエレノアの熱狂的な信者。だからこそエレノアは地位も金もないがマーシャ婚約者決めくじ引きにルイスの釣書もぽおいと入れたのだ。


「ルイス、急で連絡ができなかったのだけれど仕事に余裕ができたの。よかったら今話題になっている観劇を一緒に観に行かないかと思って」


「マーシャ、申し訳ないけど「もちろん!いつでもマーシャ様とお出かけできるように身嗜みには気を使っているのです。さあルイス今すぐお行きなさい!」」


 母が被せてきた言葉にぎょっとするルイス。


 いやいやいやいや、ユリアと約束があると言っているではないか。


「ではルイス行きましょうか」


 ふわりと微笑むマーシャの背後には行け行けオーラを立ち昇らせた母が仁王立ちしている。これは行かなければどんな目に遭うかわからない。


 出そうになるため息をなんとか堪え、マーシャに手を差し出す。重なる手は非常に美しく見惚れるほどだというのに心は全くはやらないルイスだった。





~~~~~~~~~~




 劇場に到着した2人を支配人とその部下が迎える。ゼーハーゼーハーと荒い息をなんとか整えようと苦心している姿を見れば彼らが全力疾走してきたのがわかる。


 これこそ権力というもの。自分だけではあり得ないことに口元が緩みそうになるのを堪える。


「いらっしゃいませマーシャ様!一番見晴らしの良い最上階を用意しております。ああ!お食事などは大丈夫でしょうか?何か軽食でもご用意いたしましょうか?」


「ありがとう大丈夫よ。素晴らしい劇を期待しているわ」


「「「はいぃぃぃぃぃ!」」」


 ふわりと微笑みかけられた支配人たちの目がハートに変わる。人を虜にするこの美しい女の婚約者、悪い気はしない。案内された席も椅子はふかふか、高価な果物も置かれている。芝居もよく見える。


 そして下には他の貴族たちがいる。


「お、お坊ちゃま……」


 こそこそと背後から聴こえてきた侍従の声。視線を向ければ恐る恐る柔らかなカーペットの上を震える足で歩いてくる。


「あ、あの方がまだなのかとお怒りです……」


 こそりと耳打ちされた内容に高揚していた気分は急降下し、さぁぁぁぁぁと顔を青褪める。厚い待遇に一瞬我を忘れてしまった。自分は今愛しい人を待たせているのだった。


 ちらりとマーシャを覗き見るルイス。


 侍従が耳打ちしようと一切表情も変わらぬ余裕を持ったその姿。彼女が自分に関心がないことを悔しく思うものの、だからこそ好都合というもので。


「すまないマーシャ……仕事で問題があったようだ。急ぎ向かわなければ……」


「あら、王宮で問題でも?私には何も知らせがないようだけれど」


 彼は一応王宮で仕事をしている。下っ端中の下っ端だが。


「は、ははははは!下々がするべき仕事で何か問題があったんじゃないかな?」


「そう……残念ね。ああそうだ私がどうにかするわ。上の人間が出れば即時解決よ」


「い、いやいやいやいや君の手を煩わせるまでもないよ」


「あなたは大切な婚約者だもの。困っているときに手を差し伸べるのは当然だわ」


「……えーっと、えーっと」


 汗を盛大にかきながら言葉を必死に探すルイスの姿はなんとも滑稽だ。


「……えーっと…………………そうだ!は、恥ずかしいじゃないか!君が優秀なのはわかっているけれど婚約者に助けられたなんて男として恥ずかしいんだよ」


「あら、私の婚約者を嗤う者がいるの?罰さなければ」


「いやいやいやいや、そんな者はいないよ。僕の心の問題なんだよ!あーーーーー!とにかくここで話している時間が勿体ない!私もこんな席で劇を観られるなんて楽しみだったのだが、残念だよ!ではまた!」


「………………………」


 結局マーシャからの行ってよしのお言葉がないままバタバタとはしたなく足音を立てながら劇場の廊下を走っていくルイス。その時ブーと開演の合図が会場に響き渡った。


 暗くなる劇場内。


 明かりを当てられるのは劇団員のみ。




 マーシャは暗闇の中盛られた果物に手を伸ばし、ブドウを一粒取る。ゆっくりと運ばれたその口元はゆったりと笑みの形を彩っていた。


 





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