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公爵家の女たちは男運だけがない  作者: たくみ


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5.婚約破棄はしたくない

 マルコとセイラが去った後、リリベルは衝撃のあまり固まっていた。


 え……?今……なんと言われた……?


 不注意?誰の為に自ら怪我をしたと思っているの!?


 あの時皇后が一言不敬と言葉を発すれば最悪首チョンパ、一家離散。叱責をされていれば他の貴族からどんな扱いをされていたかわかったものではない。


 皇后の言葉がなくても評判が下がったことは間違いないが、そこはまあ仕方ない。もともと彼らに良い評判などない。そもそも自分に不都合なことはスルーする気質のようなので不評など気にもならないだろう。


「何あれやばい奴等ね」


 内心怒り狂うリリベルの耳に美しい声が聞こえてくる。


「あらレイチェルにリナリーじゃない」


 振り返った視線の先にいたのは燃えるような赤い髪の毛と瞳を持つ気の強そうな美少女と淡い水色の髪の毛と瞳を持つ優しげな美少女。2人ともタイプは違うが超絶美少女である。


 赤髪の少女はレイチェル・ラミア公爵令嬢、水色の髪の少女はリナリー・シャレー侯爵令嬢だ。2人とも国を支える名家に生を受けたご令嬢にしてリリベルと同い年の幼馴染である。


 2人は先程までマルコとセイラが座っていた椅子に腰掛けるとリリベルと向かい合う。


「リリベル様お怪我の具合はいかがですか?」


「大丈夫よリナリー。少し血が滲んでるだけだもの」


「それは良かったです」


 ホッとしたのかリナリーの顔にはほんわかとした微笑みが浮かぶ。


 ああ癒される。


 そう思うのはリリベルだけではないようで近くに座っている男子学生たちの目尻が下がり鼻の下も伸びている。


「あんな人達といつまで関わっているつもり?」


「……私は婚約破棄をするつもりはないわよレイチェル」


「なんでよ?タバサ伯爵家にお嫁に行っても碌なことにならないってわかりきってるじゃない」


 あのマザコン、シスコンマルコとの婚姻となれば義母との同居は恐らく必須。もちろんあの義妹とも。毎日しょうもない喧嘩を売られることなど簡単に想像できる。あのマルコがリリベルの味方をするはずもない。


 そもそもタバサ伯爵家の評判は最近宜しくないのだ。高名な公爵家の姫君が嫁ぐに相応しくない程に。


「あなたが破棄を申し出ればそれで終了。散々蔑ろにしていたんだからあちらがごねても公爵家の威光で十分押し切れるわよ!」


 ごうっと気迫だけでなく身を乗り出して迫ってくるレイチェルにリリベルは背を仰け反らせる。


 だが負けてはいられない。


「わかってる。わかってるけど、私は婚約破棄したくないの!あ、マルコが相手だからとかじゃないからね?婚約破棄というものをするのが嫌なのよ!だってお母様もお姉様も男運最悪って言われてるのよ!?私は絶対に……ぜぇったいにそんなふうに言われたくない!」


 握り拳を作り力説するリリベルに呆気にとられる2人。


 いやいや、そんなことで自分の人生を棒に振るなよ。


「それだけの美貌、地位が勿体ないですわ。リリベル様なら他に良い方がいくらでもいらっしゃるはずです」


 リナリーがテーブルに置かれたリリベルの手を緩やかに握りながら言葉を紡ぐ。


「言い寄って来る人は確かにいるわ。でも、でもでもでもでも、次に選んだ人も変な人の可能性だってあるわけじゃない?そしたらまた?とかきっと言われるわ!リリベル様も男運が少々……とか言われたら――あーーーー!想像しただけでムカつくぅぅ!」


 いやいや、そんな外野の言う事などどうでも良いではないか。将来を共にする婚約者の今の態度の方がよっぽどムカつく気がする。


 友人に対し失礼だが、リリベルも頑固者というのか少々変わり者である。黙ってオホホと微笑みを浮かべていればいくらでも良い男が寄ってきそうなのに。


「あなたが婚約破棄したくない気持ちはよくわかったわよ。じゃあさー……」


 はあと息を吐くレイチェルは呆れた表情から一転していたずらっぽく笑う。


 周囲にいたボーイたちがざわついたのに気づくリリベル。綺麗だがきつそうな顔立ちのレイチェルの無邪気な笑顔にメロメロなよう。


 男とは実に素直である。


「ムカつく義妹の本命様を自分に夢中にさせるのはどう?」


「何それ?本命様?」


 セイラに本命?


「夫人はどう思ってるか知らないけど義妹ちゃんはあなたへの嫌がらせでマルコにベタベタしてるだけでしょ。マルコと結ばれようなんて考えてはいないわよ」


 まあ確かにセイラはマルコにくっついているのに彼の目を見ることがない。いつもセイラを優先するマルコにイライラしているリリベルの顔を愉しそうに見ている。


「ふふふふ厚かましくも公爵家のご令嬢の婚約者様にちょっかいを出す小娘がその辺にいくらでもいるような伯爵令息を狙うわけがありませんわ」


 お、おお……毒吐きリナリー降臨。穏やかなその見た目から吐き出される毒がたまらないというドM男子たちから女王様……と聞こえ、リリベルは顔を引きつりそうになるのを堪える。


「えっと……で、そのお相手って?」


 聞かなかったことにしておこう。そう決めたリリベルの問いにレイチェルとリナリーはアイコンタクトした後リリベルに視線を戻した後同時に口を開く。


「「ウィリアム・リース公爵令息様」」


「!」


 公爵令息とは大物狙いだ。皇子までは狙いにいかないところがマジっぽい。


「…………まあ素敵な人よね」


 主に顔が。


 ウィリアム・リース。


 サラテナ帝国にある公爵家は3つ。


 フライア公爵家・ラミア公爵家・リース公爵家。


 ウィリアムはその中のリース公爵家の第一子だ。


 年齢は彼女たちの一つ上で18歳、長身にして小顔、長足。艶々の黒い髪の毛と切れ長の黒い瞳。柔和さはないがキリリとしたハンサムガイである。イケメンフェイスに妙な色気もあり、非常に女性にオモテになる。


「ウィリアム・リース公爵令息様――――」


 お?レイチェルとリナリーの片眉が上がる。


 好みのタイプなのかもしれない。


 ……ニヤニヤとする口元を堪えきれない2人。




「私……








 めっちゃ苦手なんだけど」





 リリベルの言葉に友人2人は天を仰いだ。






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