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公爵家の女たちは男運だけがない  作者: たくみ


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47.挙がらない手

 その叫び声に皇太子もマーシャも微動だにしない。動くのはゆったりと瞬きする瞳だけ。


「近衛兵長が不在であれば副長が指揮を執るべきだと思います!なぜ兵士でさえないフライア公爵令嬢に指揮を任せるのでしょうか!?」


「そうです!副長にご命令ください!」


「私も同じ意見です!」


「私も同じ意見です!」


 一人の近衛兵の言葉を皮切りとして次々と私も私もと同意する言葉が飛び出してくる。再びゆっくりと皇太子が手を挙げ場を収める。


「うーん……皆にご指名されてる副長はどう思う?」


 その言葉に一人の男が一歩踏み出し、皇太子に強い意志を感じさせる視線を向ける。


「恐れながら申し上げます!此度の件我等の仲間は殺され近衛兵長は重傷を負わされました!可能であれば私たちの力で犯人を捕まえたいと存じます!」


 その声にそうだそうだと再び場はざわつく。


 皇太子は今度は場を収めようとはせず、そのまま言葉を発する。


「……マーシャ君はどう思うのかな?」


「私は皇家の忠臣にございます。皇太子のご命令に否を申すはずございません」


 決して大きくはなかったがよく通る声にその場はしん……と静まり返ると共になんともいえない気まずい空気が漂う。


 べ、別に否を申したわけでは……。


 そんな空気の中、副長が口を開く。


「私たちは意見を申し上げただけです。フライア公爵令嬢様におかれましては忠臣とはなんでも言うことを聞く者のことを示すのでしょうか?」


 挑発的な視線をマーシャに投げかける副長。マーシャは表情を崩さないまま彼に向き合う。


「誤った道をいこうとするならば命をかけてでも進言いたすこともございますが……此度の件は副長殿が指揮しようが私が指揮しようがどちらでも構いませんもの」


「「「なっ!」」」


 どちらでも構わないとは!?こちらは必死だというのに!?近衛兵たちのマーシャに対する怒りが膨れ上がっていく。


「そもそもあなたたちが自分が捜査したい、犯人を捕まえたいと言うのはあなたたちの欲でしょう?国のためを思ってのことではないでしょう?それを忠臣云々言われましても困りますわ」


「仲間のために何かしたいと思うのはいけないことでしょうか?」


「いけなくないわ。人の思いというのは強い力となるもの。ただ思いだけではどうにもならないこともあるというだけ」


「それは私達では力不足だということでしょうか?」


「………………」


 答えずに扇子を開きゆったりと扇ぐマーシャに多くの負のオーラがぶつけられていく。


「そのような言動をなさってこちらが言うことを聞くとでも?」


 ぎり、と怒りを堪えるように歯を噛みしめる音が聞こえる。


「あら、私やらかしちゃったかしら?ねえ皇太子様」


「やらかしちゃったかもしれないねぇマーシャ」


 2人は言葉とは裏腹に動揺するでもなく平然としている。徐に皇太子に近づくと何やら囁くマーシャ。それに皇太子は軽く頷く。


「副長に従いたい者は彼に従えばいいわ。私は名ばかりの近衛兵長代理ということで。ちなみに私の指揮下に入るという者はいるかしら?」


「「「……………」」」


「あらあら」


「おやおや」


 上がる手は一つもなかった。


  


~~~~~~~~~



 あ~~~~~~~~~~~。


 訓練中も休憩中も心に積もった靄が消えない。


 誰一人あげなかった手。誰一人……自分くらいはあげるべきだっただろうか。それなりに交流はあるのだし。冷たかっただろうか。


「あー!ムカつくなあ!なんであんな女の言うことなんか聞かなきゃいけないんだよ!?あの女の点数稼ぎの片棒なんか誰が担ぐかってんだよ」


「なんすかそれ?」


「あの女はフライア公爵家を継ぐんだろ?だから色々実績を上げさせたいってことだろ?皇家が貴族におべっかってなんだよ!これだから貴族は嫌なんだよ!」


「まあまあ結局誰にも受け入れられなかったし、副長の指示に従えばいいって言われたからいいじゃないか」


「そうですけど!そもそもあの女自身が話を受けるべきじゃないっていう話ですよ。結局兵長代理でしょう?俺らが犯人捕まえても手柄は横取りされるんすよ!手柄を横取りして恥ずかしくないんですかね!?俺たち平民や低位貴族はこつこつ努力してるっていうのに。ただ高位貴族ってだけで楽して出世って羨ましいよなぁ!ああ阿呆らしい!」


 訓練終わりにそんな声が聞こえてくる。かなりご立腹のようだ。


「俺たちには剣の達人の副長がいるっていうのによぉ。副長みたいに頑張ってる人こそ評価されるべきだよなあ!」


 そうだそうだと騒ぐ仲間たちに副長は苦い笑みを漏らす。


 昔は貴族中心だったが現在の近衛兵は実力主義の為貴族平民関係なしに剣の実力だけで採用される。副長はまだ若いがその剣の腕により他の近衛兵たちから非常に慕われている。


「皆やめるんだ。俺たちが今やることはマーシャ様は気にせず自分にできることを各自やることだろ。彼女たちに俺たちの力を見せつけてやろう」


「そうですね!そうだけど……手柄はあの女のものでしょ?あー!むしゃくしゃする!皆で飲みに行きましょうよ!?ねえ!?その後女でもどうっすか!?」


 その言葉におーと盛り上がる者とあー…と残念な声が同時に上がる。盛り上がった者達はわいわいと騒ぎながら訓練場を出ていく。


「お、ルシアン行かないのか?今日は夜勤ないだろ?」

 

「今日はやめておく。金もないしな」


「そうかじゃあまた明日な」


「ああ」


 今日は一緒に行く気分になれなかった。きっと彼らはマーシャの悪口で盛り上がるのだろう。特に知りもしない彼女のことを。


 彼らの話を止める度胸もないくせに自分でもなんだと思うが、そんなのを聞きたくなかった。








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