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公爵家の女たちは男運だけがない  作者: たくみ


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41.宣戦布告

 確かにどんなに良い人でも嫁姑という間柄で何も問題や感情がわかないなんてことはないかもしれない。まして自分たちは貴族であり、家の仕事を共にしたり責任を負っていく立場だ。意見の衝突など当たり前にあることだろう。


 だが…………


 顔合わせを思い出すリリベル。



「はっはっはっはっはっ、本当に母君に負けず劣らずお美しい!なあナタリー」


「ええ、同じ女として羨ましい程」


「マナーも剣術も頭脳も全てトップの成績を収めているとか。いやあエレノア様とそんなところも似ておりますなあ。なあナタリー」


「ええ、私は何一つかないませんでしたわ」


「いやあまさか倅がリリベル様と結ばれる運命にあるとは思いもしませんでしたなあ!なあナタリー」


「ええ、縁とは不思議なものにございますね」


「うんうん。私とエレノア様は残念ながら結ばれなかったからなあ」


「ええ、婚約者候補筆頭たる私のことは放置でエレノア様のことを追いかけ回していましたわね」


 リース公爵よ、もうやめてくれ。


 これ以上夫人を刺激しないで頂きたい。


 リリベルとウィリアムはだらだらと身体中から汗を流す。


 リース公爵が先程からエレノアがいかに素晴らしい人間だったか、その娘たるリリベルのことも目茶苦茶褒めてくる。まあ自分も母もそう言われるにふさわしい人間だから仕方ない。


 仕方ないが夫人から立ちのぼるオーラがユラユラと不機嫌に揺らめいており怖い。


 ご機嫌に笑うのはウィリアムの父であるリース公爵である。彼が名を呼ぶナタリーというのは夫人だ。公爵の言葉に頰も口角も上がり笑みを浮かべながら答えているのに目は全く笑っていない。


 最初からちょっと変だなとは思ったのだ。リース公爵の顔がデレデレしていたから。


 どうやら彼は昔母のことを好いていたよう。


 間違いなく昔と言い切れるのは彼が夫人を見る目がとても暖かく優しいからだ。


「リリベル様……いえ、義娘になるのだから呼び捨てでも構わないかしら。ああ、私のことはもちろんお義母様と呼んで構わなくてよ」


「もちろんですお義母様」


 先程から夫の言葉にええ、ええ言っていた夫人の目がぐるりとリリベルを捉えた。うおおおおおお、なんか怖い。地味に怖い。


「ではリリベル。先に言っておきたおことがありますが私はあなたの母が嫌いです」


「…………はい」


 でしょうね。


「エレノア様が何かしたわけではありませんが彼女の存在が私を苦しめたのです。かつて侯爵家の娘であった私は夫を射止めるべく家族皆で努力しておりました。その甲斐あって婚約者候補筆頭にまで躍り出ましたがエレノア様に彼は心を奪われました。エレノア様に殿下という婚約者がいるにも関わらず彼は猛アピール。私はエレノア様に彼を奪われるのではないか、そして殿下に何かされるのではないかと心休まらぬ日々でした」


 ほ、ほお。


「エレノア様ははっきりと彼を振り、無事私は彼と婚約、そして婚姻にまで至りました。されど完璧なエレノア様に彼が惹かれたことは私の心に影を落としました。エレノア様のようにあらねば……と思ったもののそんなこと不可能なわけで劣等感に苛まれました」


 は、はあ。


「ですので彼女は悪くないのですが私はエレノア様が嫌いです。そしてその娘たるあなたのことも恐らく好きにはなれません。あなたが申し分のない女性であればあるほど私はあなたを嫌いになるでしょう」


 それは……どないせえっちゅうの。


「ですが私はリース公爵家の女主人。あなたに完璧を求めます」


 嫌われる人間になれと?


「きっとあなたがウィリアムと揉めたときはウィリアムの肩を持つでしょう」


 義母とはそういう生き物なのだろうか?


「花嫁修業、リース公爵家の仕事全てにおいて必要以上に指導をするでしょう」


 必要以上はおかしくない!?


「あなたは逃げ出したくなるかもしれません。それでもあなたはここに嫁ぎますか?」


 うおっ!目力強っ!


「母上脅すのもいい加減にしてください」


 ガタンと音をさせて椅子から立ち上がったウィリアムが責めるかのように母に向かって声を上げる。


 が


「お黙りウィリアム。これは私の心の問題です。リリベルもお嫁に来て厳しくされたらなぜかと不安に思うでしょう。だから今はっきりさせておくのです」


「なんだそれは……」


 言っていることが無茶苦茶である。幼き頃から自分にも人にも厳しい母がこんな支離滅裂なことをいうとは。


「構いませんわウィリアム様」


 オロオロとするウィリアムを安心させるかのようにフワリと笑うリリベル。その力強い笑みにウィリアムは再び腰掛ける。


 リリベルはちらりと自分の家族を見るが、皆我関せず顔だ。なんならちょっと面白そうに目を細めている。姉と妹は仕方ないにしても、こんなことを言われているのは母のせい……いやまあそうとも言えないのかもしれないが、無関係ではないのにここまで素知らぬ顔ができるとは……。


 まあ自分に降り掛かった火の粉くらい自分でどうにかしろってことよね。


「お義母様」


 身体ごとナタリーの方を向き真正面から視線を向けると、2人の視線がしっかりと交わった。


「なんでしょう」


「お義母様のお気持ち理解致しました。なんの問題もございません。そもそも嫁姑とは相容れぬもの。それをはっきりと言葉にされただけで不安に思うなどと滅相もございません。それよりも私を過剰評価していただいたようで大変恐縮でございますわ。お義母様に一層嫌われるように邁進していきたいと思います」


 最後ににこっと見たものを魅了するような笑みはエレノアの笑みと瓜二つ。夫人にとっては宣戦布告にしか見えない。それは腹が立つと同時にひどく頼もしくもある。


「流石はエレノア様の娘様。では私も遠慮なく」




 2人の間に火花が散ったのをウィリアムを除く面々は面白そうに口元を綻ばせ眺めていた。

 

 




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