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公爵家の女たちは男運だけがない  作者: たくみ


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4.怪我

 言葉の途中で遮られたセイラはリリベルの怪我など気にせず、口を尖らせる。


「なんですかリリベル様~邪魔しない「まあリリベル!手に傷が残ったら大変だわ!こちらへいらっしゃい」」


「申し訳ございません皇后陛下。御前で血を見せるなど大変な粗相を致しました」


 折れた扇子とケガした手を後ろに隠し皇后に頭を深く下げる。


「そんなことは気にしなくて良いのよ?あなたの手の方が大事だわ」


「恐れ入ります」


「ちょ……ちょっと……!」


「え……?え……?なんでぇ?」


 リリベルの背に自らの手を添え、控室へと共に向かう皇后にセイラと伯爵夫人が声を上げるが誰も彼もリリベルの心配ばかり。それに気を悪くしたのかセイラは頬を膨らまし、夫人は近くにいたエレノアをきっと睨む。


「ちょっとどんな教育を「エレノア」」


 エレノアを睨みつけたまま文句を言おうとした夫人の言葉を皇帝が遮る。


「はい、陛下」


「皇后が戻ってしまった故、私の隣から美しき花が失せてしまった。清らかで瑞々しく咲き誇る姪っ子たちを借りても良いだろうか?ああ、そなたもついてきて良いぞ?見た目は見目麗しい花だからな。花は花でも毒花だがな、一応花には違いない」 


「ええもちろん喜んでマーシャ、キャシー」


「「はい」」


 名を呼ばれた2人が軽く広げられた皇帝の腕に手を添える。


「皇后陛下の光り輝くお美しさには敵いませんが、私も同行させていただきますわ。あら?今宵の花の近くには蝶ではなくチクチクチクチクと人を刺す蜂がいるようですわね。マーシャ、キャシー気をつけなさいね」


「ははははは、マーシャとキャシーを刺すわけだろう。というか相手が皇帝だろうとチクチクチクチク人を刺しまくるそなたにだけは言われたくない言葉だな!」


 ほほほほほ、はははははと笑いながらその場から去っていく皇帝と公爵一家。彼らに存在がないものの如く完全に無視された伯爵母娘は呆然と口を開けたまま見送っていたが、はっと気づくと怒りから顔が真っ赤になる。


「な、なんなのあれは!?あれが嫁になる者の態度なの!?姻戚関係になる家の者の態度なの!?あなた、公爵家に抗議文を入れてよ!皇帝も皇后も何よあれは!公爵家と姻戚関係になる私たちになんて態度なのかしら!?」


「そ、そうだな……いや、どうしようか……困ったな……」


「酷い……酷いわ!お義兄様リリベル様を叱ってやってよ!」


「そうだね、今度会ったときに言わないとね」


「皆様もご覧になったでしょう!?私と娘に対する皇家と公爵家の態度を!酷いと思いませんか!?そうだわ!皆で抗議を……」


 騒ぐ伯爵母娘と同意する父子。


 が――


『おいおい嘘だろ』


『伯爵家如きが皇家と公爵家になんて言いようだ』


『処罰を与えてもおかしくないのになかったことにされたわ。皇后陛下はなんて慈悲深いのかしら』


『リリベル様のお陰だろう。陛下と皇后陛下がキレる前に手に怪我までされて引き離したのだから』


『流石フライア公爵家のご令嬢だわ』


『誰かさん達も少しは見習うべきだわ』




「お前達相手は皇家と公爵家なんだぞ!不敬だぞ!」  



 周囲の者たちが自分にまで非難の目を向けていることに気づくと慌てて妻と娘を叱り始める伯爵。


 しかし、皆は思った。


『今じゃないだろ!さっき止めろよ!』


 と。


 

~~~~~~~~~~




 パーティーから数日後、学園の敷地内にある喫茶店にリリベルとマルコそしてセイラの姿があった。


「リリベル聞いているのか?」


「はいはい、聞いてますよー」


「この前のパーティーでの義母上やセイラへの酷い態度は何だったんだい?特にセイラなんて泣いていたじゃないか。未来の義妹を泣かせるなんて恥ずかしくないのか?」


 ははは、酷い態度?恥ずかしくない?その言葉そのままそっくりお返しするわ。


「セイラは身体が弱いんだ。あのパーティーがショックでずっと寝込んでいてやっと今朝起き上がることができたんだ!」


「へー、それは宜しゅうございました」


 数日ぶりに起きたその日に学園に来れるとは、元気そうで何よりである。


「……それだけかい?」


「他に何を言うの?」


「謝罪するべきだろう!?君のせいでセイラは寝込んでいたんだぞ!?君も君だが皇家も皇家だ。せっかくセイラが話しかけているのに無視なんて『ダンッ!』」


 マルコは勢いよく大声を張り上げていたが、リリベルが思いっきり机に握り拳を振り落とした音に言葉が途切れる。


「大勢の観衆がいる中皇家の方が無視されるのには理由があるわ。義妹がどれだけ可愛いのか知らないけれどちゃんとその理由は考えたの?」  


 リリベルから怒りのオーラが立ち昇る。皇家の振る舞いに異を唱えるなど何様なのだ。


「か、可愛い義妹だなんて……!べ、別に僕はそんな普通の妹としか思っていなくて……!」


 そこに反応するのかい!!


 皇家に無視されたら普通不安にならないのだろうか。今後の行く末とか、社交界での立ち位置とか。義妹中心でしか物事を考えないその愚かな頭にはもう呆れるしかない。


「ねぇ、マルコ」


「ん?な、ななななんだい?」


 まだ動揺しているマルコを冷たい目で見つめながらリリベルは口を開く。


「今日は2人で話をしたいと言ったわよね。どうしてセイラさんがいるのかしら?」

 

「ああ、セイラが一緒に行きたいと言うものだから」


 婚約者である私のお願いよりも義妹のお願いが優先ってね。ごらぁ、マルコいい加減にしろよ。


「それに君はちゃんとセイラに謝罪するべきだと思ってね。君のせいでセイラは嫌な目にたくさん遭って寝込んでしまったんだから」


「私あの時怖くて怖くて。今もちょっと怖いんですけど……リリベル様が謝ってくれたらその気持ちも無くなると思うんです」


 どこに怖い要素があったのかよくわからないが、先程から物言わずぶるぶると震えながらマルコの背中にくっついていた演出がなんの為だったのか今理解できた。


「何も悪いことをしていないのに謝る必要などないわ」


「な!?」


「酷い!」


「セイラさんこそマルコのエスコートを横取りした謝罪は私にないのかしら?」


「話にならない!帰るぞセイラ」


 グイ、と義妹の指に自らの指を絡め引っ張っていくマルコ。その姿は誰が見ても恋人のよう。


「あなたは義妹の体調は心配しても私の怪我は心配しないのね?」


 リリベルの手には包帯が巻かれていた。パーティーの時に負った怪我だ。ポツリと呟かれたリリベルの言葉に立ち止まったマルコ。


 振り返ったマルコと彼を座ったまま見上げるリリベルの視線が交わる。


「何を言っているんだ?それは自分の不注意で負った怪我だろ?」

 

 マルコはそれだけ言うと、さっと視線を逸らし義妹と手を繋いだまま去って行った。 


 



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