34.倒産
更に2週間後
フライア公爵邸の庭園は庭師達の巧みな技術、努力によって優雅な美しさを誇る花々が見る人々を魅了するべく咲き誇っている。
そんな庭園にふさわしい見事な細工が施された真っ白なテーブルと椅子。その椅子に腰掛ける美しき彫像――
「………………」
――ではなくリリベルが手に新聞を広げたまま彫像のように固まっていた。
「リリベルお姉様息してる?」
そんな言葉とともに庭園にやってきたキャシーが口を抑え鼻をムギュッと摘まむが反応がない。
え、まじで息してるよね?確認のためにもそのまま口と鼻からの空気の供給を遮断し続ける。
「…………………………………っごっ!」
限界が来たリリベルの身体が空気を求め暴れ出す。
「良かったぁ!」
「苦しいでしょうが!」
バサリと新聞をテーブルに開いたまま叩きつける。
「だって瞬きもせずに固まってるから驚いたのよ」
「ったく」
一応キャシーなりに心配しての行動みたいなので閉口するリリベル。
「で、何固まってたの?」
「うん?ああ…………これよ」
そう言って新聞のある一つの記事を指し示すリリベル。キャシーはその指の先に視線を向けさっと読む。読み終えた彼女は
「へー……」
と愉しそうに呟いた。
~~~~~~~~~~
所変わりこちらはタバサ伯爵邸にある伯爵の執務室。
「これで僕たちは夫婦だね」
「………………」
ニコニコと笑うマルコと顔を青褪めさせ黙るセイラ。側には2人を黙って見守る伯爵の姿がある。
2人の視線の先には王宮から届いた婚姻許可証がある。
「手続きに1週間もかかるなんてね。皇帝陛下はお忙しいから仕方ないけれどこれが届くまでは本当に気が狂いそうだったよ」
1週間程前に王宮に提出した婚姻届。貴族は王の許可がなければ婚姻は認められない。実際よほどの事態でもなければ却下などないのだがマルコにとっては愛する者との婚姻がきちんと許可されるかどうか落ち着かない日々だった。
「………………」
とても甘やかな微笑みを浮かべ幸せそうなマルコを睨みつけるセイラ。
楽しそうでいいわね。自分は今発狂したい気分だ。
何を言おうと母はわかってくれない。ならばと義父に頼んでみたが母がマルコが望んでいるからと困り顔をするのみ。
マルコに至ってはなんでもうんうんと言っていたのが幻だったかのように優しげな微笑みはそのままに首は縦に振らない。聞いていたのかと思うほど見事なスルー。それどころか婚約期間などいらない。婚姻してしまおうとまで言い出し両親も大賛成。婚姻することになってしまった。
どいつもこいつも話にならなかった。
婚姻届に署名しなければ良かったのかもしれないが、それはできなかった。もし……追い出されたら?ここを追い出されたら行くところなどないのだから。
思い出したら胸がムカムカしてきた。
でも何を言っても何も変わりはしないのだ。
「じゃあ引っ越しの準備をしようか。ここは広いし維持するのも大変だからね」
「………………え?」
今まで黙っていたセイラがやっと口を開いたのと同時に扉がバンッ!と力強く開かれた。
「あ、あなた!これはどういうことなの!?」
駆け込んできたのは新聞を握り締めた夫人だった。新聞を床に叩きつけると青褪める娘には目もくれず新たに誕生した若き夫婦を穏やかな目で見つめていた夫の胸倉を掴み詰め寄る。
胸ぐらを掴まれた伯爵はその笑みを崩さない。
「その記事の通りだよ。読めばわかるだろう?」
「な!?わかるわよ!わかるけどそういうことじゃないでしょう!?なぜこうなったのかと聞いているのよ!」
どことなくそんなこともわからないのかと下に見られたような気がして頭にカッとくる夫人は胸ぐらをつかんでいた手を更に強く握る。
「なぜこうなったって……わからないかい?」
「わ、わからないわよ!あなたのお店は人気で売り上げも良くて!なのになんで倒産なんてことになるのよ!」
床にグシャグシャになって落ちている新聞にはタバサ伯爵家の経営するドレスショップが倒産とでかでかと載っている。
唾を飛ばしながら叫んだ夫人は自らが発した倒産という言葉に急に青褪める。今まで怒りで支配されていたが現実味を帯びてきたからだ。
「あの店はもともとマルコの母の店だ。彼女の優れたデザイン力が人気の秘訣だったんだよ?スケッチブックが残っていてそれを世に出していたんだ。だからそれが尽きた今うちの店の人気はガタ落ちなんだよ」
「そ、そんな………あ、で、でも他にもデザイナーはいるじゃない!?」
その言葉に伯爵は目を丸くして夫人を見つめた。




