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公爵家の女たちは男運だけがない  作者: たくみ


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33.自業自得

 それから2週間後。


「本当にめでたいわぁ!」


 女性がご機嫌にはしゃぐ声が邸宅に響き渡る。隣で騒ぐ女性――いや母を呆れた目で見るのはセイラだ。


 義兄の婚約破棄から2週間も経ったのにまだめでたいめでたいと喜んでいる母。そんなにあの女がマルコに選ばれなかったことが嬉しいのか。


 まあ自分だってあの女から義兄を奪えたことは心から嬉しい。母の気持ちもわからなくはない。


 だって勝ったのだあの女に。女として自分のほうが上なのだ。


 容姿も血筋も財産も何もかも持っているあの女に勝ったのだ。


 未だに義兄とあの女が自分のせいで婚約解消となったことを考えると全身に優越感という名の快感が駆け巡る。


 一人自分に酔っていると何やら母が自分を見て口を動かしていることに気づく。


「…………流石私の娘だわ!本当に誇らしい!公爵家の娘に勝つだなんて!私の教育がきっと良かったのね。あなたはあんな性格の悪い女の娘に生まれなくて良かったと思いなさいよ!」


 胸の前で自らの指と指を絡め頬を紅潮させる母。


 ああ、もう何度繰り返し聴いた言葉だろうか。毎日毎日何回も繰り返される言葉は耳にタコができそうである。


「でね、もうそろそろあなた達の婚約も進めようと思うのだけれどもちろんいいわよね?」


「え?」


 今なんと言った?


 娘と自分を褒め称える言葉をいつもは延々と繰り返しているのに……信じられない言葉を聞いた気がするが気のせいだろうか。


「あら、嬉しくて言葉も出ないのかしら?」


「え、あ、あの……婚約ってまさか私とお義兄様のじゃないわよね?」 


 顔を青褪め盛大に引き攣らせるセイラの心など知らぬとばかりに不思議そうな顔をするタバサ伯爵夫人。


「?他に誰がいるっていうの?平民の血を引くあなたが金持ちの伯爵家の息子を捕まえられるなんて奇跡よ?これも私があの人を落としたからよ。感謝するのよ?マルコにもあなたがいかに素晴らしい子か思い込ませたんだからね、私の功績を忘れちゃ駄目よ」


「え?え?だ、だってお義兄様は血は繋がってはいないけど兄で家族でしょ?」


「ああ、あなたはタバサ伯爵家の籍に入れてないから大丈夫よ。きっとマルコを落とすと思っていたからタバサ家の養女にはしなかったの」


 幼少期というよりも再婚後からなぜかマルコはセイラに執着していたのだ。


「は?え?じゃあ何?私って平民なの?」


「厳密に言えばそうだけど、ここであの人と私の子供として育っているんだから伯爵家の娘と言って大丈夫よ」


 先程から母の言っていることがよくわからない。理解できない。


「さっきから何を言っているの?セイラ、あなただってマルコを慕っているからあんなにベタベタしていたんでしょ?あの子を落とすためにぶりっ子してたんでしょ?目的は達成したのになんで先程から意味のわからないことを言っているの?」


 意味のわからないことを言っているのはお母様でしょ。


「私はただあの女が気に入らなくて、だからなんか邪魔してやりたくて」


 義兄の婚約者だと紹介されたのは自分が5歳の頃だった。お人形が動いていると思った。顔は欠点など見当たらなく、身に纏うドレスも靴も子供ながらに光り輝いていて眩しかった。


 会う人会う人に頭を下げられ、褒められ、可愛がられて、子供ながらになぜあんなに色々なものを持っているのか不思議だった。


 それから成長し婚約者というものを理解した時ただでさえ恵まれているのにとっても優しい義兄まで手に入れるなんて許せないと思った。


 義父が公爵家の令嬢に無礼を働くといけないからしっかり教育してから交流をさせたいと主張した為、2人が交流を持ち始めたのは義兄が17歳あの女が16歳のときだった。いや、交流をしようとしたというべきか。


 義兄はとにかく自分に甘かった。欲しいものはお金が許す限り買ってくれたし、我儘も聞いてくれた。最初はリリベルとのデートもキャンセルしてくれるかなと軽い気持ちだった。


 でも何度2人の時間を横取りしようと2人きりにしないように行動しても義兄は怒らなかった。誰もがちやほやする存在。その婚約者に優先されることに最高の快感を感じるようになった。


 義兄を奪うまでのゲーム。


 奪ったら終わり。


 自分はカッコよくてお金持ちの人と結婚し、 今以上の生活を手に入れる。

 

 義兄だって私に恋しているならそれを応援するはず。いや、するべきよ。


 お母様だって娘が高貴な人に嫁いだら鼻高々でしょ。自慢の娘でょ。


 なのになんで私とお義兄様と婚約することになっているの?


「私はお義兄様とは婚約も結婚もしないわ!私は……私はリース公爵家のウィリアム様と結婚するんだから!」


 きっと母親を睨みつけるセイラ。


 その視線を受けた夫人は身体を硬直させる。


 そしてすぐに――


「あっはっはっはっはっ!ばっかじゃないの!?」


 噴き出し大声で笑い始めた。


「な、何がバカなのよ!?」


「公爵家の方があなたなんか相手にするわけないでしょ?」


「そんなことない!」


「無理よ無理~貴族である私だって無理だったんだから。平民の血が混じってるあなたなんてあり得ないわよ」


「じゃ、じゃあお義父様の養女にしてよ!」


「マルコといずれは結婚するんだから正式な義娘になるわよ」


「違う!そういうことじゃない!お義兄様だって落とせたんだから落とせるわ!」


「私だって伯爵は落とせたわよ」


「お母様は私にもっと幸せになってほしくないの!?だって私は可愛い娘でしょう!?」


「伯爵と結婚できれば十分幸せでしょ?あなたの父親は平民なのよ。ちょっと図々しいわよ」


 眉間に皺を寄せ心底嫌そうな顔をする母親に頭に血が上る。


「それが母親の言うことなの!?」


「はあ?ていうか娘の分際で母親より幸せになるなんて生意気なんじゃないの?ああ、もしウィリアム様と結ばれても絶対に邪魔してやるから」


「酷いわ!」


「私より上に立とうなんて許せないもの」


 自分の味方だと信じていた母親の突然の言葉に驚きを隠せないセイラは言葉を失う。そんなセイラを愉しそうにニヤニヤと見やる夫人。


「ま、あなたが何を言おうとあなたとマルコの婚約と結婚は確定よ。伯爵家嫡男の言葉にたかが平民が逆らえるわけないでしょ。それにあんただって気のあるフリしてたんたから自業自得よ」


 それだけ言うと夫人は座り込むセイラを置き去りにして部屋を出て行った。



 






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