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公爵家の女たちは男運だけがない  作者: たくみ


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32.解消の手続き

 ああ今日も侍女が淹れたお茶は美味しい。目の前のこの男さえいなければ心も晴れ晴れとしていただろうに。


 パーティーの翌日、フライア公爵邸にはマルコの姿があった。


「タバサ伯爵令息。なんとも早いお越しね」


 そう言うとリリベルはマルコに向き合うようにドカリと腰をおろし足を組む。


「ああ君だって婚約解消の手続きは1日でも早い方が良いだろう?」


「……あなたは嬉しくて嬉しくて仕方がないようね。とっても生き生きとした表情をしているわ」


 いつも何を考えているのかわからないような濁った目をして口角は横一直線だったのに今日はその目には隠しきれぬ嬉しさが浮かび口角は綺麗に上がっている。


「僕の感情はさておき、こういったことは決まった以上さっさと実行するに限るだろう?いつまたその心が変わるかわからないのだから」


「心は変わらないけれどあなたの言うことも御尤もね。だけどそういうことを言いたいんじゃないのよ?」


「ゲッ!超絶シスコン野郎じゃん。早っ!」


「おはようキャシー。君だって少しでも早く我が家とは縁を切りたいだろう?」


 部屋の前を通りかかったのはキャシーだった。2人の姿を認めるとズカズカと部屋に入ってくる。失礼な物言いをされたのにも関わらずマルコは気にした様子はない。なんならニコニコと穏やかに微笑んでいるので気味が悪い。


「当然!って……いやいやそういうことじゃないでしょう!?」


「リリベル、キャシー?何を騒いでいるの?え…………マルコ?随分と早いお越しね」


「少しでも早く手続きを進めたいと思い行動したまでですが皆様早い早いと仰る。そんなにご迷惑でしたか?」


 キャシーとマーシャはじろりとリリベルを見る。


 えー……私?


 はあと息を吐いたあとマルコに向き合う。


「ねえマルコ、私たちの格好を見て思うことはないの?」


「ああ流石公爵家だよね。その生地は最近他国から仕入れ始めたものだろう?生産者が愛国者で絶対に他国の者には売らないと言っていたけど我が国のデザイナーに惚れ込んでその人にだけ生地を卸すことにしたとか。量も少ないし値段も高額でなかなか手が出せないらしいね」


「ピンポンピンポーン。流石ドレスショップの息子ね。その通りよ。その通りなんだけど言いたいことは違うのよ?ねえ見て私たち………………まだ寝巻き姿なの」


「ああ恥ずかしいのかな。僕はセイラの寝巻き姿にしか興奮しないから心配無用だよ」


「でしょうね。じゃない!違うっつうの!来る時間を考えろって言ってるのよ!寝巻き姿で現れるような時間帯だということよ!」


 3姉妹はまだ寝間着姿のままだった。


 それもそのはず現在早朝の5時。


 緊急事態でもあるまいに約束なしにやってくるような時間帯ではない。円満な婚約解消をこんな時間にやるなんて聞いたことがない。


「嫌がらせなの!?」


「あははははは!嫌味のつもりで寝間着姿のまま現れた君にそんなことを言われるとは心外だね」


「最初からわかってたんじゃない!」


 マルコが来訪したと知らせがありながら着替えなかったのはこんな時間帯に来やがってという無言の嫌味。平然とした顔をしていたから気付いていないのかと思ったら理解した上で表情を変えなかったとは……尚更腹が立つ。


 ちなみにキャシーはお花を摘みに起きてたまたまここを通っただけ、マーシャは軽く仕事をしようと早起きしたら何やら声が聞こえて様子を見に来たのだった。


 2人はしょうもないやりとりにため息を吐くと部屋を退出していった。彼女たちの姿が完全に見えなくなるとマルコはす……とリリベルに手を差し出す。


 じろりとその手を睨みつけた後ベシッと無言でその手を叩く。


「いや、そうじゃない」


「わかってるわよ!ったく……これでしょう?」


「流石だ。後は署名だけだな」


「そうよ」


 マルコの手の上に乗せられたのは記入済みの婚約解消書類だ。既にリリベルの署名は済まされあとはマルコの署名を書き王宮に提出すれば婚約解消成立だ。


 マルコは内容を確認した後ペンを取る。


「提出は私がしておくわ。この後皇后陛下と約束をしているの。その時に早めに手続きをと念押ししておくわ」


「これ以上ないスピーディーな解消だ。素晴らしい」


 何が素晴らしいだ!いちいちムカつくことを言う男だ。



 だがこんなんでも一応は17年間婚約者だったのだ。


「ねえ――――」


 リリベルの静かな声にマルコは視線を彼女に向けた。






~~~~~~~~~~



「あらリリベル。マルコは帰った?」


 6時頃きちんと着替え朝食を食べに食堂へ向かうマーシャはリリベルがまだ先程の部屋にいることに気づき声をかける。


「…………あーうん」


「皇后様に会うのよね。書類もお願いしておきなさいよ。きっとすぐに陛下にお渡ししてくださるわ」


「…………あーうん」


 何やらぼーっとしており現実を見ていない。頭突きをしてやろうかと思ったがある閃きがマーシャに舞い降りる。


「……………………今日の朝食コーンスープですって。私好きなの。あなたの分ももらうわね」


「…………あーうん………………!?嫌よ、私も好きなんだから」


 チッ!


「ちょっとぉ!今舌打ちしたでしょ!?」


「ぼーっとしているからなんでもうんうん言うかと思ったのに」


「あっぶな……」


 全く油断も隙もない。


「で?」


「うん?」


「何をぼーっとしてたわけ?まさか……………マルコに未練?全く我が妹ながら女々しい女ね」


「違うわよ。ていうか私女ですから。女々しいなんてそれだけ女らしいということでしょう?お姉様見る目あるぅ」


「………………で?」


「ちょっとスルーしないでよ!恥ずかしいじゃない!」


「で何をぼーっとしていたのよ」


「お姉様酷い……まあいいけど。私ってマルコのこと理解していなかったんだなと思ってさ」


「ふーん」


 興味なさげな返事をするマーシャだったのでリリベルは気づかなった。彼女が再び遠い目をし始めた妹を感心したような目で見ていたことに。






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