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公爵家の女たちは男運だけがない  作者: たくみ


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3/12

3.皇后は万民の母である?

 その場にいた全ての者たちが一斉に頭を下げる。


「ご機嫌よう陛下」


 この場で最も高位の公爵であるエレノアが代表して挨拶を述べる。


 彼らの目の前に立つのはサラテナ帝国皇帝と皇后だった。皇帝はフライア公爵家と同じ色合いである光り輝く金髪にエメラルドグリーンの瞳を持つ色気あるお顔をした美丈夫。皇后は柔らかなクリーム色の髪の毛とスカイブルーの瞳を持った美魔女だ。


「ああご機嫌ようエレノア。皆も頭を上げよ。エレノア昔から変わらぬ「んっ!」……若い頃から「んんっ!?」……今日も美人ですね!」


「ほほほほほっ、ありがとうございます。陛下も目の下にクマができていても素敵ですわ。宰相のスピーチ内容のチェックでお疲れのご様子なのかしら」


「はははははっ、夜中に突撃してきたものでな。どいつもこいつも敬意というものを身に着けてほしいものだ」 


 ほほほほほ、はははははと笑う皇帝とエレノアの周りにはブリザードが吹き荒れる。


「さて、若さに執着する妖怪ババアはさておき私の可愛い姪たち。いや可愛いではないな。女神も嫉妬する美しさを誇る私の姪たち。今宵も息を呑むほど美しい」


「私にそっくりでございましょう?」


 三姉妹に視線を移した皇帝の視界にエレノアがヒョイと顔を出す。


「黙っていろエレノア」


 青筋を浮かべながら笑みを浮かべる皇帝。伯父と母親のやり取りに軽く苦笑した後口を開く3姉妹。


「「「ご機嫌よう陛下」」」


「ああご機嫌よう。真に女の子は良いものだな皇后。そなたが贈ったドレスがとても似合っている」


「はい陛下。私たちには生意気でむさ苦しい息子しかおりませんものね。ですからマーシャ、リリベル、キャシーを私は本当の娘のように思っておりますの。あなたたちも私を第二の母と思ってくれているかしら?」


「「「身に余る光栄なお言葉にございます皇后陛下」」」


 ふわりと微笑み合う皇后と三姉妹に周囲の者たちはその美しさに見惚れつつ、微笑ましい光景にほっこりと心が温まる――


「私も!私も皇后様のことを母と思っております!」


 ――セイラが一歩進み出て頓珍漢なことを言うまでは。


 先程までの春の陽射しのような暖かい空気はどこへやら極寒の空気に苛まれる場。


 皇后の顔は笑顔を貼り付けたまま完全に固まっている。


「皇后様は万民の母でございましょう?即ち私の母でもあるということですよね?」


「流石私の娘!セイラは頭が良いわぁ。そうよね!皇后様は万民の母なんだものね。ということは私のお母様とも言えるわけね!」


「「「ヒッ……!」」」


 皇后と同年代のオバハンが皇后をお母様呼び!見た目的にも無理がある。


 周囲で見守っていた人々から堪えきれぬドン引きと言わんばかりの喉を引きつらせたような悲鳴が漏れる。


 セイラも母親も間違ってはいない。皇后とはまさに万民の母である。しかしそれは皇后の心構えであって皇后が家臣や民と向かい合う時や忠臣が何か進言するときに使うものであり、血縁関係や姻戚関係でもないその辺の一伯爵夫人や娘が今言うことではない。


「ふふん」


 セイラがリリベルに向かい誇らしげに笑う。


 その顔は娘だと思われているのはあんただけじゃないのよ。調子に乗るんじゃないわよとでも言いたげである。


 お、おお。


 得意満面なところ申し訳ないがなんか関わりたくないからこちらを向かないで欲しい。完全に意味を履き違えている非常識娘に悔しいなんて思いを抱くはずもなし。


「お母様、リリベル様たちは皇后様からドレスを頂いたのよね?では私たちも頂けたりしちゃうのかしら?」


「えー……流石にそれはないと思うわ。リリベル様たちは公爵家のご令嬢だから皇后様もおべっかをつかわないといけないのよ」


「まあ!皇后様がお可哀想!」


 !!!!?


 な、ななななななななななななななんと無礼な!


 皇后陛下に可哀想などと……

 可哀想なのはお前たちの頭だ!!!!

 

 皇后は血の繋がりはなくとも夫の弟の娘である公爵家の姪っ子たちを心から可愛がっているのだ。それにフライア公爵家はドレスごときで忠誠心を左右するような家ではない。


 長い歴史から見てもそして現在の公爵家の態度を見ても皇家に対する忠誠心は本物である。エレノアとて口は悪いが彼女の国に対する献身は明白、有事の際に自分を盾にして皇帝や皇后を守る姿を人々は何度も見かけている。


 国のトップレディたる皇后と筆頭貴族であるフライア公爵家という2代巨頭を侮辱するような発言を繰り返す様に怒りのオーラを立ち昇らせる貴族がちらほら出始める。


「で、でもぉ……」


 伯爵夫人がちらりと上目遣いで皇后を見ながら口を開く。


 こ、今度は何を言う気だ。聞いているだけで心臓に良くない。皇后が口を開かない以上自分たちに発言権などない。皇后が聞かなかったことにするのであれば自分たちも何も聞いていないふり、それが当たり前。


「皇后様は公平なお方だから私たちにもチャンスはあるかもしれないわよ?」


「やっぱりそうよね!楽しみだわ!」


 楽しみだわじゃねぇよ!


 そんな時は一生来ねぇよ!


 というかここまで女衆が暴走しているというのに男衆はどうした?確か伯爵とその息子がいたはず。


 彼らは……


 笑っている!?


 幼い子供を見るような微笑ましげな顔で笑っている!?


 笑っている場合ではないだろう!?ここはさっさと叱責して彼女たちを引っ込めねば!これ以上はこちらの心臓がもたない。


「あのぅ……皇后様ぁ」


 今度は娘のセイラが上目遣いで皇后を見つめながら口を開く。しかもじりじりと少しずつ近づきながら。


「私ドレスの色はピ『バキッ』」


 バキッ?


「あら嫌だわ。私としたことが皆様失礼致しました」


 音の発生源に視線を向けた人々は口を押さえた。


 そこには折れた扇子を強く握り込み手に血を滲ませたリリベルがいた。



 


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