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公爵家の女たちは男運だけがない  作者: たくみ


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28.決意

 リリベルは目の前に座る男をじっと見つめながら話し始める。


「私考えたのだけれど婚約破棄をしようと思うの。でもその前にマルコと腹を割って話そうと思うの。彼って私以外の前ではいい子ちゃんじゃない?なんで私にだけあんな態度だったのか聞いてみたいのよ」


 そうかそれがいい。というよりもなぜ今までやろうと思わなかった。


「ほら私って公爵家の娘じゃない?相手はたかがドレスショップが繁盛しているだけの伯爵家の息子だから自分さえ黙っていれば婚約破棄にならないと思って彼の心と向き合おうなんて思わなかったのよ」


 そうか。君がとてつもなく傲慢なのはわかったよ。たかがとか失礼だろうが。


「失礼な物言いをしていることは自覚しているわ。婚約破棄しないことが大事で彼の気持ちなんてどうでもいいって思っちゃったのよね」


 ははははは、君はサイコパスか何かかな?


「明らかに気持ちはないことはわかっているわ。だけどそこに目を瞑ればほら私ってとびきりの美人じゃない?それに美ボディよ。お金も持ってるし、権力のある家の娘だし、性格だってサバサバしてていい感じじゃない?結婚して損することが一つもないじゃない?」


 ははははは、傲慢ここに極まれりだね。


「この前皇太子様と玉座に腰かけて王様ごっこしてたあなたに言われたくないわよ」


 おや、まるで心の声が聞こえているかのようだ。不思議だ。


「さっきから出ちゃってるから。全部口に出ちゃってるから」


「おやおや、出ちゃってたかい?」


「がっつりとね」


「そうか。でなんで僕のところに決心の話をしに来たんだい?そういうのは狙ってる男の前で言わないと。私、あなたの為にやつときっぱり別れてくるわ!と言いながらお目々パチパチすれば大抵の男はイチコロだ。は!もしやお前僕を狙ってるのか!?」


 ばっと腕をクロスさせ自分のお胸に手を当て防御姿勢をとる男。


「寝言は寝て言ってちょうだい。いや、寝言でさえ言わないでちょうだい。というか私の夢に出ないでちょうだい――――ハリス」


 リリベルの目の前にいるのはハリス皇子だった。2人がいるのは王宮の第二王子専用執務室


「はっはっはっはっ酷い言い方じゃないかリリベル。執務中だと言っているのにズカズカと部屋に入り込んだ君の話し相手をしている僕に」


 チラリとハリスが視線を向ける先には執務机があり、その上には大量の書類が積み重なっている。


「君の決心はわかったからさっさと帰ってくれるかい?」


 このままでは徹夜で仕事をすることになりそうだ。


 まあそもそも父親を怒らせた罰で大量の仕事が回されたのだが。


「でね、なんでウィリアム様じゃなくてあなたのところに来たかというと」


「さっさと帰ってくれ」


「あらあなたが先に質問したんじゃない。皇子様からの質問を無視するなんて畏れ多い真似私にはとてもできませんわぁ」


「何をおっしゃいますか天下のフライア公爵家の御息女様」


「理由なんだけど彼に言うのは照れくさいから。きゃっ」


「さっさと帰れ」


「わかったわよ」


 腰を上げたリリベルにやれやれと自らも腰を上げ執務机に戻るハリス。少々はしたないがどすんと座り目を扉に向けるとそこにはまだリリベルが立っていた。


 ん?と片眉を上げたハリスにリリベルはにっと笑う。


「あなたが一番私の婚約を心配していたし、誰よりも強く婚約破棄を望んでいたからここに来たのよ」


「一番?僕が?」


 皆も彼女の婚約に関しては心配していたと思うが。


「家族も友人もウィリアム様も心配なんかしてないわよ。皆呆れてはいたけど」


「僕も呆れていたぞ」


 お前の男運が悪いと認めたくないなんて強情には。


「皇家への貴族への態度も心配していたでしょ?そこは本当に申し訳ないと思っているわ。だからあなたは他の男を充てがおうとした」


「僕が言い出したと知っていたのかい?」


「もちろん」


 もともとレイチェルとリナリーは他の男をなんて考えていなかった。いつか彼女は自分の愚かさに気づくはずと。というかリリベルがマルコの態度に耐えられるわけがないと思っていた。


 彼の言動は公爵家を侮っている。セイラも伯爵も夫人も。巷では相手がどんな態度であろうと屈しないと公爵家を立てることを言っている者が多数だが、無礼を働いているのは確か。本来なら許されることではないのだ。


 皇家と密接な関係があるフライア公爵家への無礼は皇家への無礼とも言える。そんな状況を当事者たちは受け入れていたがハリスは静かに誰よりも怒っていた。


 彼はふざけているようでも皇家であることを誇りに思っている。リリベルにだって怒りを感じていたと思う。しかしリリベルの将来に関わることだから我慢が限界に達するまで黙っていたのだろう。


「皇家に迷惑をかけたこと本当に申し訳なく思っているわ」


「ははっ!何を言っている。僕と君のやんちゃぶりなど皇家にはなんの問題も与えないさ。んんっ。でもまあお前の強情さはやばばばだからな、もっと周りの意見を聞くことも大切だろうな」


 早口でまくし立てるハリスにじんわりと心が温かくなる。


 彼は皇家のことだけではない。リリベル自身のことも心配してくれていたことは十分にわかっている。


 幼き頃から共に過ごしてきたハリス。お互いに恋愛関係になることは御免被る、そんなことを言う奴は首チョンパしちゃうぞ!くらい対象外だが、大切な存在であることに変わりない。


 自分で気づかなかったらどうする!?


 このまま結婚したらどうする!?


 意外と面倒見がよく心配性の彼が誰よりもリリベルの将来に対し、ハラハラしていたのをリリベルは知っている。


「ふふっ」


 耳をほんのりと赤くしていることに気づいたリリベルは少しだけ笑うが、いつものようにからかったりはしない。


「ハリス皇子、ありがとうございました」


 さ、とドレスのスカートを摘み頭を下げるリリベルにハリスはなんとも気恥ずかしそうな表情を浮かべる。


「はっはっはっはっ!僕は優しい男だからな。惚れるなよ?」


 照れを隠すように大きな声を出すハリス。頭を上げたリリベルは黙って冷たい視線をハリスに向けていた。が少々あたふたと落ち着かないハリスは気づかなかった。


「感謝しているなら少し手伝っていくか?」


 どうせこの内容はフライア公爵家になら知られても構わぬことばかりだ。


「あ、結構でーす」


「ちょ、待てこら!」


 慌てるハリスの声などスルーし彼に背を向けさっさと扉から出ていくリリベルだった。

 



 

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