23.見つからない
…………いや、見つからないんですけど。
残りはあと僅かだ。パッと見た感じそこに緑色の本があるようには見えない。とりあえず最後の一つまで綺麗にタワーに積む。
「………………」
「………………」
「いや、ないんですけど」
「ないな」
「うちにあるんですよね?」
「それはこちらが言いたい言葉だな」
「ですよね」
奇妙な沈黙が室内に満ちる。
「盗まれた……はないだろうから、見落としかもしれないな」
「マジっすか」
「ここまで整理してあれば一人で大丈夫だ。リリベルは休んでいるといい」
「んー……まあ一緒に探しますよ」
そう言って積まれた本の題名を確認し始めるリリベルにウィリアムは口が緩んだ。和んでいる場合ではない。自分も探そうと足を一歩踏み出すと開け放したままにしていた扉から一人の金髪美女が顔を覗かせた。
「あらリリベル何やってるの?」
「お母様。ウィリアム様が貸してほしい本があるって言うから探してたのよ」
「あら、リース家のお坊ちゃんお久しぶりね。いい男に成長しちゃって!へ〜2人っきりで本探しねぇ?ヒューヒュー」
囃し立てる様が先程の執事長と侍女長と似ていて思わず笑みがこぼれる2人。使用人は主人に似るもののようだ。
「なによ~いい感じじゃない……てリリベルどうしたのよ?」
その言葉にウィリアムはエレノアからリリベルに視線を向ける。彼女は表情を強張らせ固まっていた。声をかけようと口を開こうとした時彼女の腕がふるふると震えながら上がり、エレノアを指さす。
「ごら!人を指さすんじゃないわよ!」
そんな娘には育ててないだろうがゴルァと眉を寄せ怒るエレノアだったが彼女は気づく。よく見るとその指が自分に向けられていないことに。
その指の先を辿る。
ああこれ?
「やだぁ、もしかしてこの本を探していたの?」
エレノアの右手には緑色の本が抱えられていた。
「リース公爵が貸してくれって言ってたのよ。全くタイミングの悪い娘ねリリベル」
やれやれと軍法書を顎に当てたエレノアはちらりと部屋の中に綺麗に積み上げられた本に視線を移す。
「というかこの本たちの場所変えちゃったのね。どこに何があるか覚えていたのに。まあまた覚えれば良いだけだけれど」
その言葉にウィリアムは目を見張る。あの雪崩状態で覚えていられるものなのか?すごい量だったぞ。流石は万能公爵出来が違う。ウィリアムは軍法書が見つかった安堵やエレノアへの感心で頭が満たされていたようだがリリベルは違うようでぶるぶると震えている。
「全くリリベルあれくらいの量を覚えられなくてどうするのよ。ここにあるのはお宝なんだから上手く利用しなくちゃ」
「う、うるさいわね!なんの本があるかは覚えていたわよ!さ、さすがに場所までは覚えてなかったけど……。お母様みたいな化け物じみた記憶力は私にはないのよ」
母が言うことは正論なのだがなんだかこう認めたくないリリベル。
「まあリリベル化け物じみた記憶力などではないわ。私は努力して何がどこにあるか覚えていただけ。あなたはあの山を見て面倒で覚えることから逃げただけでしょ」
「おっしゃる通りですよ!」
ぷんと頬を膨らませ腕を組むリリベルは母親に反抗する娘らしくいつもより少し幼く見えてなんとも可愛らしい。
「綺麗に並べ直したから覚えてみせるわよ」
「あら駄目よ。さっさとさっきみたいに雪崩を起こしてちょうだい」
「は?」
「そうした方がどこに何があるかわかりにくいでしょう?盗みに入るものが呆れるくらい盛大にお願いね。ま、盗まれたところでうちは困らないものだからそのままでも良いけれど」
バチンと片目を瞑ったエレノアは部屋にささっと入るとウィリアムに近づき、父君に渡しておいてと本を押し付け部屋を出て行った。母親がいなくなった後も呆然と口を開けたまま動かないリリベルをウィリアムは心配そうに見守る。
やがて震え始めるリリベル。
「あ、俺がやっておこうか?『ドッ!』うわっ!」
ウィリアムは思わず声が出てしまった口を抑える。
いや、でもこれは仕方ない。
リリベルがタワーに回し蹴りを食らわしたのだ。倒れるタワーは地面に散らばっていく。ンガーと何やら怒りの声を上げながら暴れるリリベルはまるでゴリラのようである。
ウィリアムは目を覆う。
彼女の淑女らしからぬ行動から目を覆ったわけではない。
綺麗に放たれる回し蹴り。
それはとてもきれっきれで素晴らしい動き。
その為制服のスカートがひらっひらっひらっひらっとめくれ上がる。
その中身が見えてしまうのだ。
一応下着の上に短パンを履いているようだが、白く艶めかしい太ももをガッツリ見てしまった。
ウィリアムは目だけでなく予防として鼻も押さえることにした。




