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公爵家の女たちは男運だけがない  作者: たくみ


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21.お宅訪問

 ガタガタと揺れる馬車の中で向かい合って座るリリベルとウィリアム。馬車の中は温かく程よい硬さのクッションが疲れた心を癒してくれる。


 暫く心を落ち着かせるかのごとく無言だったウィリアムが口を開く。


「すまないリリベル」


 急に頭を下げるウィリアムにリリベルは不思議顔だった。


「え?」


「あの女が君を待ち伏せしたのは俺のせいだと思う。相手にしなかったというか、存在を無視していたから君と出かける時に自分もと思ったんだろう」


 セイラに話す気はないと言った日からも何度も何度も彼女はウィリアムの元に押しかけてきた。だが一切返事はしなかった。触れようとすれば躱してきた。


 諦めの悪いあの女はリリベルを利用しようと考えたのだろう。


「お気になさらず。ウィリアム様も大変ですね」


「無視というのも疲れるものだな」


「お疲れ様です」


 苦笑いしながらリリベルはちらりと悩ましげにため息を吐くウィリアムの顔を盗み見る。セイラの言動は無茶苦茶であるが彼女が夢中になるのもわからなくはない。


 だってとぉっっっっっっっってもイケメンだから。


 おっと危ない涎が……口をきゅっとしめゴクンと飲み込む。


「リリベル?」


「ちょっと涎が……お気になさらず」


 涎??????


 不思議顔のウィリアムにリリベルは笑みという力技で誤魔化しを図る。


「お話とは何でしょうか?セイラ嬢のことでしたら私にもコントロール不能ですのでお力になれることはあまりないかもしれません。一番オススメは物理的に首チョンパかなと思うくらいですわ」


 でもこれだと揉み消すのが大変かもしれない。セイラの背後にはマルコやタバサ伯爵夫人がいる。絶対に騒ぎまくる。


「やるなら伯爵家全員の首を――」 


 馬車の中に殺気が満ちる。一家暗殺となれば婚約破棄の汚名は免れる。冗談のつもりで言ったが意外とありかもしれない。


「気持ちはわかるが、彼女の話ではない」


「あら失礼いたしました。最近うざさが増してきているものですから」


 ほほほほと笑うリリベルから殺気は消えるが何やらドロドロとしたオーラが立ち昇っているように見える。


「…………少しあいつらのことは忘れられないか?」


 俺のことをもっと見て……考えて


 ――なんて言葉には出せないが浮かんだ思いに笑いそうになる。


「そうですねせっかくウィリアム様のイケメンフェイスがあるというのに苛つくものを思い出すなんて勿体ないですわね」


 冗談なのか本心なのかわからないが穏やかな笑み付きで言われた言葉にドキリとする。


「……この顔が好きならずっと見ているといい」


 ボソリと呟かれた言葉は軽く開けた窓から聞こえる風にさらわれ、リリベルの元には届かない。彼女の反応を見てそれを察したウィリアムは自分の意気地のなさにくくっと喉を震わせる。


「ウィリアム様?」


「なんでもない。少しのどに違和感があっただけだ。話というのは君の家に隣国の軍法書があると聞いてな。よければ貸してもらえないかと思ってな」


 隣国の軍法書?


 ああ。あの親父様が昔隣国とやりあった時に敵将から奪ったとかいうものか。隣国は今や帝国の属国になっているものの20年程前まで戦争をしていたのだ。


 若きイカれ親父が兵を率い圧勝を収めた。隣国から娘を愛人に差し出すから賠償金の減少を願われた父はブチギレてそれにビビった隣国が国家秘密が載っていると言って渡してきたやつだ。


 敗戦国の軍法書など何に役立つのかと思っていたが、読みたい者が目の前にいた。


 普通に書庫にあったはず。たぶん。


「構いませんよ」


 いや、待て自分よ。返事をしたもののあることに気づく。


「では申し訳ないが持ってきて「あの」……?」


 リリベルが言葉を遮るなどと珍しい。リリベルを窺い見ると何やら汗をかき目が泳いでいる。


「え…………と……ウィリアム様はその本の形とか題名とかおわかりになります?」


「あ、ああ。確か濃い緑色で題名は軍法書だったと思うのだが……それよりも大丈夫か?顔色が悪いが」


「なんて特徴のない普通の本なの」


 ?????


 リリベルは何を言っているんだ。ウィリアムの心配する声が届いていないのか、何やらぶつぶつと思案しているよう。


「リリ「ウィリアム様お時間があるならうちに寄っていきません?」」


「え?いや、それは」


 良いのだろうか。婚約者でも親戚でもない男がお家にあがるなど。でもちょっと行ってみたい。というかお誘いが嬉しい。


「……ご家族は大丈夫なのか?」


「ええ今日は特に母も姉も来客はないようですし、妹はデートだと表情を暗くしていたはず」


 デートなのに表情が暗い?どういう意味かと気になったが、それよりも優先すべきことがある。


「そ、そうなのか…………じゃあ、本をお借りするだけ……お邪魔させてもらおうか」


「……っしゃ……助かった」


 リリベルの口から小声で呟かれる言葉。


 ?????


 助かった?何が?


 疑問に思ったものの浮かれていたウィリアムはそれ以上詮索することはせず、フライア公爵家までゆったりと走る馬車に身を任せるのみだった。




~~~~~~~~~~



「………………………」


「………………………」

 

 馬車を降りた2人を出迎えた使用人たちを通り過ぎ邸宅に足を踏み入れるウィリアムとリリベル。今2人の前に立っているのは挨拶をした後ニコニコと堪えきれぬ笑みをこぼす侍女長と執事長である。


「どうしたのよ2人とも」


「リリベル様が初めて男性をお連れになったので嬉しいのです」


「幼き頃より比類なき美しさを誇るリリベル様の横に立つ男性はなんと不憫なのかと思っておりましたが、お似合いの方が見つかって嬉しゅうございます。外野がとやかくいうものではございませんが、やはり釣り合いがとれていないというのは揉める原因となりますので」


「……私マルコと婚約中なのだけれど」


「あらあら殿方の前で他の男性の名前を持ち出すものではございませんわリリベル様。嫉妬してしまいますわ。ね?ウィリアム様」


「ほっほっ私達はリリベル様の御心に従うまででございます。正直おっしゃいませ。あんな男よりウィリアム様の方がお好みでしょう?リリベル様の心を動かすべくウィリアム様グイグイいっちゃってください」


「こら!」


「「失礼致しました」」


「ウィリアム様ごめんなさいね。何か勘違いしてるみたいで……」


「い、いや……構わない。ちょっと嬉しかったりして……」


「え?」


 ボッと顔を赤らめる2人。


『ヒューヒューお似合いー』


『ヒューヒュー青春ー』


「な、な、な……!」


 動揺して言葉が出てこないリリベルは文句を言いたいが口を開けたり閉めたりすることしかできない。その隙に2人はささっと逃げるように退散する。


「では邪魔者は失礼致します」


 ピシリと背筋を伸ばし去って行くクールな印象のあの執事長からヒューヒューなどという言葉が出るとは……見た目とは違いなかなかお茶目な人物のよう。


「ウィリアム様はコーヒーよりも紅茶の方が宜しかったでしょうか?」


「あ、ああ紅茶の方が好みだ」


「承知いたしました。私も失礼致します」


 こちらもピシリと背筋を伸ばし去って行く侍女長。柔和な笑顔で見るものの毒気を抜くような見た目だが、いつの間に調べたのか他家の者の好みまでリサーチ済みとは……切れ者のようだ。


「ウィリアム様申し訳ありません。家族の……当家の者の前ではあのような態度ですがお客様にはいつも完璧なほど礼儀正しいのですが……」



 おかしいわねと首を傾げるリリベルは気づかなかったが、ウィリアムの口元は少しだけニヤけていた。



 家族――


 家族――か。


 リリベルと家族――なんとも素敵な響きだ。

 




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