20.醜い
す、と一歩踏み出したリリベルはセイラの前に立つ。
じ……と真正面から強い視線を向けられたセイラは思わず一歩後退りしていた。その様にくすりと笑った後口を開く。
「まあ私公爵令嬢ですのよ?誰かさんのように腕を組んでいるわけでもなし。様々な方と交流するのも大事なお役目の一つ。ましてウィリアム様は同じ公爵家ですもの。色々と協力するべきですのに会話をしては駄目だなどと言われては困りますわ。私完璧人間と言われておりますけれどあいにくテレパシーは使えませんの」
慌ててマルコの腕に絡めていた腕を外すセイラ。その視線はウィリアムの様子をうかがっているようだが、彼は見てもいない。
「な、自分のことを完璧人間だなんてよく言えますね!恥ずかしくないんですか!?」
「あら」
クスリと笑うリリベル。傲慢なその笑みは艶やかに咲く大輪の花のよう。
「だって私とっても美人でしょう?勉強だって学年1位を逃したことはなくってよ?皇家の血も引く絶大な権力を持つフライア公爵家の高貴な血統。これだけ揃えば完璧といっても宜しいでしょ?」
「性格は最悪よ!」
「まあ!あなたに言われるなんて。私婚約者に何度も約束をドタキャンされても声を荒げることのないなかなかできた人間だと思うのだけれど。あなた……見る目がないんじゃない?」
「そんなことないわ!あなた性格悪すぎよ!」
金切り声を上げぜえはあと呼吸するセイラ。どうせ彼女は自らの言葉を引っ込めるわけなし。
両腕を広げ自分たちに注目していた生徒たちをぐるりと見回す。
「皆さん!私の性格はそんなに悪いかしら?」
その場はシーンと静まり返る。
セイラは歓喜の笑みを浮かべる。ほら、この傲慢な女に同意するものなどいるはずない。
「ほら「滅相もございません!」はっ?」
惨めな様を嗤って罵ってやろうと口を開いたセイラの耳に一人の男子生徒の声が聞こえてくる。
「公爵令嬢であられるのに血筋に甘えることなく努力を続けていらっしゃるリリベル様は素晴らしいお方です」
「この前教科書を運ぶのを手伝ってくださったわ!とても気遣いのできる優しいお方です!」
「ちょこっと思い込みは激しいが、そんなところも愛嬌があってたまらない!」
「ていうかリリベル様になら踏みつけられてもいい!」
「僕は罵られたい」
「私は頬をはられたい」
「もういいわ!皆ありがとう!」
男女関係なしにたくさんの声が上がるが何やらどんどん話がそれていったので慌てて切り上げる。
ちょこっと変なものも混じっていたがまあいい。上々な評価だ。本音かどうかは別として……いいのだ、これこそ絶大な権力を持った公爵家という高貴な家に生まれたものの特権!
「あなたの評価も聞いてみます?」
「な!?聞かないわよ!卑怯よ!あなたは公爵令嬢なんだから皆媚を売るに決まっているでしょう!?」
ほっほっほっほっ!なんとでもおっしゃいなさい。それにしてもマルコやウィリアムが見ているのにそんなに髪の毛を振り乱して唾を飛ばして叫んで良いのかしら。
「あら。私が媚を売るべき存在だと理解していたのですね?それなのに喧嘩ばっかり売ってくるなんて……あなた頭大丈夫?」
「うるさいうるさい!」
そう叫びながら胸元で拳を握りしめ何度も何度も首を振るセイラ。
「あらま」
幼子のように首を振り、全てを否定する様はとても――――
「なんと醜い」
ボソリと呟かれたウィリアムの言葉が風に乗ってセイラの耳に入る。カッと頬を赤くした彼女はリリベルを睨むと猛スピードで駆けていった。
慌ててその後をマルコが追う。
「公爵家の人間に挨拶もなしで去って行くとはいつか頭と身体が離れる羽目にならないと良いがな」
薄っすらと笑うウィリアム。その表情は言葉と真逆の願いが込められているようだった。
彼はリリベルに向かい合う。その顔からは仄暗い笑みが消え、目はキョロキョロと動きどこか落ち着かなさげだ。
「デ、デデデデートという気分ではなくなってしまったな」
ああ、デートという言葉を発するのが気恥ずかしかったのか。先程までの不快な気分はどこへやらリリベルの口からくすりと笑みが浮かぶ。
「ふふ、そうですね。デートはまた今度に致しましょうか。ですがせっかくですしよろしければ一緒に帰りませんか?」
「あ、ああもちろん」
ほんのり赤く染まった顔を誤魔化すようにリリベルから視線を逸らし口元を抑えるウィリアムだったがふとあることを思い出し、彼女と向かい合う。
「リリベル、少し話しがあるのだが……」
「ええ、構いませんよ。では馬車で」
コクリと頷くウィリアム。
そして周囲からはフゥーという声が漏れ聞こえてくる。
リリベルがギロリと睨みつけると視線を外されるどころかニヤニヤと口元をニヤつかせながら温かい眼差しで見返される。
は、恥ずかしい。
足早に2人はリース家の馬車に乗り込んだ。




