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公爵家の女たちは男運だけがない  作者: たくみ


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19/72

19.遅い!?

 校舎の出入り口にてリリベルとマルコは向かい合う。


「リリベル、今日約束していた新しくできた喫茶店に行く件なんだが――」


 またまた見聞きした光景。


 リリベルもそして前回前々回のやり取りを見ていた生徒の心は一つになった。はてさて今日はどんなお言葉が出てくるのか。幾人もの喉がゴクリと鳴る。


「セイラが寝不足のようでな。一人で寝るのは怖いと言うので側にいてやろうと思ってね。喫茶店はまた次の機会にしよう」


 なんだそのしょうもない理由は。


 セイラ嬢は幼子か!?


 というか怪我でも病気でもないただ寝ている妹の傍に侍るとかキモすぎる。


「左様ですか。致し方ありませんね」


 今日は特に物申すでもなく淡々と対応し別方向に歩き出すリリベル。周囲の者たちは何度も繰り返されるドタキャンに呆れるのも当然だと瞬時に興味が薄れる。


「リリベル」


「あらウィリアム様御機嫌よう」


 背を向けたばかりなのに再び興味津々に視線を向けてくる周囲にいる生徒たちに苦い笑いがこみ上げるリリベル。なんとも皆自分に素直である。


「またあいつは義妹を優先するようだな。もし時間があるならまた街に出かけないか?君の好みは把握したからな、今度は何かしら気の利いたことくらい言えると思うんだ」


 ちょこっとハリス、レイチェル、リナリーにリリベルの好きなもの、好みのタイプなどを聞いたらもうこれでもかと延々と詰め込まれたのだ。


「あら、ではせっかくですし……」


 デート!?


 再チャレデートだ!?


 ウィリアム様頑張って!


 ……皆様鼻息が荒くてよ。盗み聞きは静かにやらなくては。こちらを窺う生徒たちの目は爛々と輝いておりちょこっと怖いかもしれない。さっさとこの場を離れよう。


 校門に向かう2人の足があるものを視界に捉えて同時に止まる。


『ちょっと』


『どういうこと』


 そんなざわつく声が2人の耳に届く。



 リリベルとウィリアムの目がすっと細まる。




 なぜこんな光景が目の前にあるのか。



 そんなことを思ったものの彼女の燃え盛るような嫉妬の炎を宿した目を見て理解する。



「リリベル様ぁ遅いですよぉ。本当人のことを考えて行動できないですよねぇ」


 舌っ足らずの甘えたような声を発する女性。もちろんそんな声を聞かせたいのはリリベルにではなく隣にいるウィリアムにだろう。


「リリベル。せっかくセイラがお前を待ってやっているのになぜ早く来ないんだ?セイラの身体が冷えてしまうだろう?」


 彼らの目の前に現れたのは帰宅したはずのセイラと冷たい視線をリリベルに向けるマルコだった。


「さっきまで眠たかったんですけど、目が覚めちゃってぇ。たまにはリリベル様と一緒に出かけてあげようかと思ったんです」


「セイラは優しいな。人が待っているのに急ぎもしない女とは大違いだ」


 優しい風がリリベルの頬を撫でていく。


 ああ私の心を癒してくれようとしているの?うれしい。でも残念ながらそんなもので心の平穏が訪れるはずもない。


 待ってやっている?誰が頼んだ?

 そもそもドタキャンしたのは誰?


 急ぎもしない?

 帰ったはずの人間が待っているなんて誰が思う?


 セイラと大違い?

 もちろん、違いますよー。そんな女と私は違いますよー。


 心の中で溢れる不満。出してもいいだろうか?口から出してもいいだろうか?


「先程彼女との約束を取り止めたのは君だろう?義妹の発言を諌めるどころかリリベルを責めるとはどういうつもりだ?自分が言っていることがいかに理不尽なことか理解していないのか?」


 リリベルが口を開く前にウィリアムが彼女を守るように一歩足を踏み出す。横から口出しされたマルコは不快そうな顔をしたものの口は開かない。


「あ、あらウィリアム様もご一緒だったんですね。一緒に参りましょう?」


 咎められているというのに空気を一切読まず頬を赤らめながら上目遣いでウィリアムを見上げるセイラ。


 彼が目的でここで待っていたのに白々しい。リリベルの胸がムカムカとしてくる。


「こいつは何を言っているんだ?」


 彼女の企みなどガン無視でウィリアムがリリベルに身を寄せ耳元に口を寄せ彼女にだけ聞こえる声音でボソリと呟く。


「さあ自分の思いに忠実な獣といったところではないでしょうか」


「違いない」


「ちょ、ちょちょちょリリベル様あなたはお義兄様の婚約者なのに他の異性と話すなんて浮気じゃないんですかぁ?はしたなぁい。そう思いませんか?ウィリアム様ぁ」


 こそこそと話す二人が気に入らなかったのであろうセイラがこめかみに青筋を浮かべながら口を引き攣らせている。


 その顔を見てリリベルは少しばかり意地悪がしたくなった。




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