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公爵家の女たちは男運だけがない  作者: たくみ


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15.デート

 校舎の出入り口にてリリベルとマルコは向かい合う。今日は先日行くことになっていた喫茶店に改めて行く約束をした日。


「リリベル、今日約束していた新しくできた喫茶店に行く件なんだが――」


 え、何これリプレイ?


 もしかしてドタキャンしたことを忘れているのだろうか。先日と同じ台詞にリリベルは呆れるばかりだ。


「セイラが体調が悪いと言うのでまたの機会にしよう」


 ここは違った。


「あ、そう。セイラ嬢なら先程猛スピードでウィリアム様を追いかけていたけれど。急にお悪くなられたのね」


「君と違ってセイラは繊細なんだ」


「君と違って……ね」


「ああ、戦場で剣を振り回したり、男をコテンパンにするような粗暴な君にはセイラのような楚々とした可憐な令嬢のことは理解できないだろう?」


「そうね、あなたと出かけようとするたび毎回毎回邪魔してくる女の気持ちなんてわからないわ」


「話にならない。たかが喫茶店に行けなくなったくらいで不機嫌になるなんてちょっと器が小さいんじゃないか?わざわざここまで言いに来てやったのに不愉快だ。馬車にセイラが待っているから失礼するよ」


 とても不愉快そうな顔をして背を向けたマルコの背中が遠ざかっていく。


 ヒュウと少し肌寒い風が吹く。


 ああ……ありがたい。怒りで燃え上がる身体の熱が下がる……気がする。もっと冷たい風をプリーズ。


 粗暴?国の為に戦うのが?


「器が小さい?じゃあお前はピーーーが小さいんじゃない?」


 絶対そうに違いない。心の根っこが腐っているからきっと……。


「……んんっ………リリベル」


「うおっ!」


 背後から気配もなく声をかけられ心も身体も跳ねる。


「外でそのような発言は少々はしたないんじゃないか?」


「あら、口に出ておりました?」


 コクンと頷くウィリアムの耳が真っ赤だ。


「ホッホッホッホッ、器が小さいなんて勝手に判断されたものですから、私もヤツのジュニアが小さいと勝手に判断いたしましたの」


「わかったわかった。わかったから一度それの話は止めよう」


 今度は顔まで真っ赤になっている。


 ちょっと面白いかもしれない。


 がこれ以上は湯気が出そうだからやめておこう。


「何か御用でしょうか?」


「あ、ああ一緒に出かけないかと思ってな」


「私とですか?」


「俺は高貴な令嬢に誰かへの伝言を頼むようなことはしない」


「失礼いたしました」


 リリベルは自分の失言を素直に詫びた。



~~~~~~~~~~




 学園近くには様々な露店が並ぶ通りがある。今日も飲食やらアクセサリーやら衣服やらと様々な店が出て賑わっている。


「どうですか?似合いますか?」


 アクセサリーを取り扱う露店で足を止めたリリベルは花を模した髪飾りを手に取ったあと髪の毛にあて、ウィリアムを見上げる。


「ああ」


 ちらりと一瞬だけ見て視線をそらすウィリアム。


 微妙だろうか。では……キラキラとした石のついた髪飾りをあててみる。


「こちらの方が良いでしょうか?」


「うん?いや……あ、ああ、そうかもしれない」


 これも微妙なのかしら。


 というよりもどこかそわそわとして落ち着かなさげだ。


「お嬢さんどちらも本当にお似合いですよ!」


 店主が声をかけてくるが、少し気分が沈む。そんなに似合ってなかっただろうか。見た目にはそれなりに自信があったのに。とはいうもののせっかく外に出てきたのだ。このまま帰るのは勿体ない。


「……どこかで飲み物でもいただきましょうか?」


「あ、ああ是非そうしよう」


 明らかにほっとした様子のウィリアムに思わずリリベルまで安堵してしまった。






 のだが


 入ったカフェには顔を引き攣らせるリリベルと頼んだ紅茶を優雅に飲むウィリアムの姿があった。


「あの……ウィリアム様」


「なんだ?」


「店を変えましょうか?」


「気に入らないか?」


「いえ、そういうわけではないのですが。男性の数も少ないですし、その……ウィリアム様が視線を一身に浴びているようなので」


 カフェは主に女性客で賑わっている。そんな中に極上の男がいればその女性たちの視線は彼に注がれるわけで。


 居心地が悪くないのだろうか。


「ああ別に構わない。視線を向けられることには慣れている」


 なんと。モテ男は言うことが違う。


「君だってそうだろう?」


「確かにこの絶世の美貌で男性陣の視線は集中砲火しますが、今はあまり男性がおりませんので」 


「………………」


「やだぁ冗談ですよ」


「そういうことではなく………いや、なんでもない。気にしないでくれ」


 乗りの悪い男である。まあ戦場において指揮を執る立場なのだから真面目さは大事である。へらへらしていたら引き締まるものも引き締まらない。


 目の前に置かれた果物がたくさん乗ったタルトをフォークで一口サイズに切り、口に運ぶ。


 あ、甘酸っぱくて美味しい。


 そんなに会話することもなさそうだし…………


 モクモクととりあえずタルトを食べることに専念する。だから気づかなかった。ウィリアムがじーっと観察するように自分のことを見ていることに。




 ――今は男性があまりいない?


 確かに少ない。だが今いる全ての男の視線は彼女に向かっている。先程など店員がリリベルに見惚れて転んでしまい、ケーキは地面に落ち、皿は割れてしまった。


 男だけではない。女性からの視線も浴びていることに気づいていないのか?彼女は自分に視線が集中しているというが、とんでもない。多くの人々が彼女を見ている。


 人の美醜を論じるは失礼なことだが、


 美というものはやはり人を魅了する。


 


 剣を振るっているときも思ったが、やはりリリベルは文句無しに美しい。舞い踊るかの如く軽やかな身のこなし――冷たくも熱い真剣な眼差しはいつまでも向けられていたいほど甘美だった。


 先程もマルコに対する怒りだろうか。瞳には炎が揺らめき美しかった。少々お口はお下品なようだが。


 今だって……


 甘いものが好きなのだろうか。それとも果物が好きなのだろうか。


 嬉しそうに微かに頬を染めて、瞳は輝き目尻が少し下がっていて可愛らしい。守りたくなるような、思わず触れてしまいたくなるような。


 テーブルに置かれていたウィリアムの人差し指がピクリと動く。


 いかんいかん。


「ウィリアム様、どうかなさいましたか?」


 じっと見つめてくる瞳はまっすぐで吸い込まれそうだ。


 なぜあの男は彼女の瞳を真っ直ぐに見ないのか。


 きっと見れば彼女の虜になるはず。


 彼女を手放そうなどと思わないはず。




 しかし……なぜ彼女はあの男から離れようとしないのか。




 まともに目も見ないような、


 他の女を追いかける男などさっさと捨ててしまえば良いのに。



 彼女に魅了されない、彼女の価値がわからないような男に彼女はもったいない。



「なぜさっさとあんなクソ野郎と婚約破棄しない?」



 気づけば口から言葉がこぼれ落ちていた。





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