11.予想外
今日も無事学園の授業が終わり、帰宅する者、学園内に残る者、遊びに行く者、各々好きに過ごしていた。そしてリリベルは現在校舎出入り口にて婚約者のマルコと向かい合っていた。
「リリベル、今日約束していた新しくできた喫茶店に行く件なんだが――」
「ええ、あなたと行くのをとても楽しみにしていたの。ケーキがとても美味しいという噂で紅茶と「また今度にしよう」」
うきうきと心躍る気持ちを全開にしたリリベルの言葉はマルコによって遮られた。楽しみにしていた感を出せば優先してくれるんじゃないかと思ったのに。
なんてね。
何度もこの手は使っているが、一度としてマルコが悪びれた様子を見せたことなどない。無駄だとわかっているのに何度もやってしまう自分に呆れてしまう。
「セイラが行きたいと言うから彼女と行くんだ」
「じゃあ一緒に行けばいいじゃない」
「いや、公爵家の姫である君といるとセイラは気疲れしてしまうから遠慮してくれ」
「そう」
マルコよ。悲しげな笑顔を浮かべる私のこめかみに青筋が浮かんでいるのが見えているか?気疲れとはなんぞや?いつ君の愛する義妹君が私に気遣いなどというものをしたのだろうか。
そもそも気遣いができるやつは、予定がある人を誘わない。
君たちが今から行こうとしている場所は本来なら私とマルコが行くはずだった場所。付いて行きたいならまだわかるがお前は来んなとは……イジメか?イジメなのか?
ちらりとマルコの腕にしがみつきながら彼の背後にいるセイラに視線を移す。バチリと目が合うとニヤリと笑う彼女に2本目の青筋が立つ。
ぎゅっと彼の腕を強く握るセイラ、彼は彼女の顔を心配そうに見つめた後リリベルに言う――
「セイラをそんな怖い顔で睨むのはやめてくれないか?君には優しさというものが欠落しているようだから気をつけなよ」
それだけ言うと一言の謝罪もなく去って行く2人。
いつものことだ。
でも胸が苦しい、寂しい、虚しい
――なんて思ったのはいつのことだっただろうか。
今ではただただ腹立たしい。
毎回のことだというのになぜこんなに腹が立つのだろう。
そう、結局いつもこうなるとわかっているのに――。
「フライア公爵令嬢」
いや、今日はいつもと違った。
「少し話す時間をもらえるだろうか」
そう今日から自分には彼がいるのだった。
「……もちろんです。リース公爵令息様」
振り向いた視線の先にいたのはウィリアムだった。
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学園内にあるカフェ。
放課後はいつも皆思い思いに過ごしガヤガヤと賑わうそこは現在静まり返っていた。生徒たちがいないわけではない。むしろある席の周りを除き満席である。
固唾を飲みつつも耳をダンボにする生徒たち、いやなぜかそこにいる教師たちの注目する先にはもちろんこの2人。
リリベルとウィリアムが向かい合って座っていた。
2人は飲み物を注文してからずぅぅぅぅっと沈黙を貫いたままだ。美男美女がカフェで固まる様は異質でありながら一枚の美麗な絵画のようであり、うっとりとするもの多数。
興味津々の視線の先でリリベルは涼しい顔をしていたが内心はダラダラと汗をかき、頭の中はぐるぐると渦を巻いていた。
これは、何を話せば良いのだろうか?
2人はハリスとレイチェルからお互いに納得したと説明されていた。
何やら変なことにまきこんでしまったことを謝罪するべきなのか、協力してくれることに感謝するべきなのか、今後の作戦でも共に練るべきなのか、いやでもなんか皆見てるしそんな話はしてはいけないような……。
何が正解なのかわからない。
「……リ、リリベルと呼んでも構わないだろうか」
は!とその言葉で思考の渦から浮上したリリベルは正面からウィリアムの顔を見据えた。
そこには自分と同じように明らかに固まり緊張する美麗な男の顔。
あ……なんか力が抜けたかもしれない。
「ええ、勿論です。私もウィリアム様とお呼びしても?」
「もちろん」
言葉を発して力が抜けたのかウィリアムの表情もどこか明るくなった気がする。
「先日の君の剣技は素晴らしかった」
「武を誇るリース家のご嫡男であられるウィリアム様にそんなことを言っていただけるなんて光栄ですわ」
「学業も1年次から首位を逃したことがないと聞いている。多くの貴族が通う中で実に優秀だ」
「スパルタな母が怖いもので猛勉強しております」
「見目も比類なき美しさを持ち、家の力も申し分ない」
「……褒め過ぎですわ」
ん?なぜそんなに褒めてくるのかしら。
戸惑う中じっと力強い瞳に見据えられドキリとするリリベル。
「リリベル、華闘でその強さに美しさに心奪われた」
あ……
「気になって君のことを聞いて回ったのだがどれも皆素晴らしいもので尚更心奪われた」
なんだろう……
「君に婚約者がいることは知っている。だが彼は君を蔑ろにしている。そんな君を一人にはしておけない。だからどうか卒業するまで最も親しい友人として君の側にいさせて欲しい」
……この心に響かない早口の棒読み告白は。
というかなんの脈絡もなくいきなり告白とか。
いやたぶんマルコに危機感を与えるため、これから一緒にいる理由づけとしてウィリアムがリリベルに惚れた設定にしたのだと思う。
これなら伯爵家も浮気云々とは言いづらい。
家で一生懸命考えてきてくれたのだろうか記憶を呼び覚まそうとでもしているのか眼力が半端なく強いものだから、そのチグハグさにとてつもない違和感を覚えてしまう。
思わずゴクリと唾を飲み込む。
ん?
周囲からフゥーーーー!と口笛が飛び交うのを信じられない思いで見回すリリベル。
え、今ので盛り上がっちゃう感じ?
え、泣いてる子もいる。
え、え?え!?今の棒読みで!?内心はよくわからないけれどとりあえず機械的な棒読みでしたけど!?
確かにイケメンにまっすぐに見つめられて愛の告白されたらトゥンクとするけれど――棒読みよ!?
「リリベル様ー!ウィリアム様の想いを受け止めて差し上げて!」
一人の女生徒の声がリリベルの耳にすっと入る。
「あ、はい」
はいって言っちゃった。
しかも超事務的に。
「うむ。では距離感の近い友人としてよろしく」
OKの返事に一切喜びを感じているようには見えないウィリアム。
私たちにマルコを嫉妬させるような恋愛ごっこは無理かもしれないと思うリリベルは気づかなかった。
ウィリアムの心臓が現在生まれてから最も早鐘を打っていることに。




