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公爵家の女たちは男運だけがない  作者: たくみ


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1/12

1.フライア公爵家

 サラテナ帝国皇帝主催で開かれた第二皇子ハリスの生誕パーティー。


 会場である王宮の広間の天井には見事なシャンデリアが光り輝き、花瓶には美しき花々が咲き乱れている。心が踊る優雅な音楽、一流のシェフが用意した目で見て楽しく口に入れて感動する料理の数々。


 そして盛大に着飾った人、人、人。


 皆楽しそうに談笑し、音楽や料理を楽しんでいる。


「フライア公爵家のご入場です!」


 そんな声が広間に響き渡ると同時に人々は入場してきた金髪にエメラルドグリーンの瞳を持つ4人の女性に注目した。


 カツンカツン――広間に響く4つの足音。


「なんとお美しい……」


 広間に感嘆のため息が満ちる。

 

 じっとりとまとわりつくような視線も感嘆の声も当然のものの如く享受しフライア公爵家の女たちは颯爽と歩く。立ち止まった後も彼女たちに向けられる熱い視線はなかなか減らない。


 彼女たちは近づいてきた王宮の使用人から飲み物を受け取ると軽く喉を潤す。


「はあ」


「あらリリベルお姉様ため息なんて出したら幸せが逃げちゃうわよ」


 妹キャシーの言葉にリリベルはすぅーーーーーと思いっきり息を吸う。


「……キャシー出したものを吸ったけど何も変わらないわよ?」


「子供か!?」


 公爵家次女リリベル御年17歳と三女キャシー御年16歳は静かに睨み合う。


「まあまあキャシー。リリベルは愛しの婚約者にエスコートをドタキャンされてショックなのよ」


 2人を諌めるのは長女マーシャ御年19 歳。


「ショックなんか受けてる暇があるならさっさと婚約破棄して慰謝料がっぽり頂けばいいじゃない。もちろん理由は不貞行為によりってね」


 ちらりとキャシーが視線を向ける先には高価な服を身に着け互いの腕を絡め合う若き男女。男はこちらに面倒そうに手を振り、女は優越感という笑みを浮かべている。


「あらあら、腕に女をぶら下げて婚約者に手を振ってくるなんて正気かしら」


「わぁお、厚顔無恥ぃ」


「「これは婚約破棄一択ね」」


「うるさいわね!しないわよ!お姉様はともかくキャシー、あなた私まで婚約破棄したらまともな婚約なんて出来やしないわよ!?」


 仲良くハモる姉妹にリリベルは吠える。


「ともかくって何よ!?」


「3回も婚約破棄されて、4回目ももう秒読みでしょ。お姉様の愛しの婚約者は初恋の君に夢中じゃない」


「失礼な!お相手が有責の婚約破棄よ!お陰でウッハウハ!今の婚約者からも破棄になったらがっぽり頂いちゃうんだから!ふふふ……ふふふふふふふふふふ」


「「いやいやいやいや、怖いんだけど」」


 ドロドロとした不吉なオーラを纏い低い声で笑う姉は何かに取り憑かれているようで普通に怖い。


「と、とにかくキャシー!お母様もお姉様も最悪の男運って言われてるのよ?私まで何かあったら一家全員問題ありと思われちゃうわよ!?」

 

「大丈夫よリリベル。他の女にうつつを抜かす婚約者を持ってる時点であなたもお母様と私のお・な・か・ま」


「リリベル姉様。い・ま・さ・ら」


 イエ~イと盛り上がる姉妹にイラッとくるリリベル。


 ドレスの中で足を振り上げまして~


 姉の足の甲目掛けて振り下ろすー

 

 お次に妹の足の甲目掛けて振り下ろすー


 残念ながら彼女のヒールが捉えたのは姉妹たちのドレスの裾だった。


「チッ」


「「いやチッ、じゃないわあ!」」


 ギャイギャイと騒ぐフライア公爵家の娘たちに広間にいる者たちは苦笑いだ。なんとも汚名になりそうな婚約事情なのだが、このあっけらかんとした自嘲により社交界で彼女たちを蔑むものは非常に稀だ。


 いや、違う――


「あなたたち煩いわよ」


 ゴォーと音が聞こえてきそうな燃え上がる怒気を背後に纏いながら彼女たちを叱責するのは母親エレノア御年ピー歳だ。見た目は自称25歳、頭脳と心だけ永遠に成長し続けると豪語する女傑。


 ――女帝エレノアを筆頭とした絶大な権力を持つ公爵家を蔑める者など愚者くらいといったところだ。


「ごめんなさいお母様。でも「あ?」」


「でも「あ?」」


「「あ?」いや、まだ何も言ってないから!」


「ここはパーティー会場よ?騒ぐのはおやめなさい?」


「「「イエッサー!」」」


 圧に屈した3姉妹はお口にチャックした。


「皇帝陛下、皇后陛下、皇太子殿下、皇子様の御なーりー!」


 そんな声の後に全ての参加者が口を閉じ、恭しく頭を下げた。


「頭を上げよ」


 暫くして重低音ながらよく通る声が広間に響く。彼らの目に入るのは壇上にある玉座とその前に居並ぶロイヤルファミリーだ。


「本日は我が息子第二皇子ハリスの為に集まってくれて礼を言う。今日で18歳になったハリスには~~~~~~~~」


 その後暫くごちゃごちゃ言っていた皇帝に続き第二皇子ハリスがごちゃごちゃ口上を述べる。


「本日は私のためにお集まりいただきましてありがとうございます。父や母、そして兄を支えこれからも一層~~~~~~~~」


 参加者たちはニコニコと笑みを浮かべながらも真剣に聞いていますと言わんばかりに目をギラギラと輝かせていて少し怖い。


「えー……それでは宰相である私からハリス様がご誕生されてからの歴史を~~~~~~~~~~」

 

 宰相がハリスの生誕パーティーということで、つらつらつらつらと彼の歴史を述べていく。


「……長すぎるわね」


「長っ」


「まだ5歳の話よ」


 ボソリと呟く3姉妹。


 ハリスの教育係も務めた宰相の話は並々ならぬハリスへの愛に溢れ、非常に長い。彼の手元には何もなく、ただただ彼の頭脳から言葉が生み出されていく。


 流石他国からも鬼神脳とあだ名をつけられ恐れられる帝国の宰相。素晴らしき頭脳である。


 才能溢れる宰相だが今の彼はカッと目を見開きハリスをじっと見据え、ハリスの動きを見逃すまいといわんばかりにほとんど瞬きもしない。その姿に畏怖を感じるもの多数。


 忠臣といえば忠臣なのだろうが、度が超えた忠義の心は人を恐怖に陥れる。おや、その愛を向けられているハリスの口元も若干引きつっているように見えるのは見間違いだろうか。


「……長いわ」


「……まだ10歳だよ」


「お母様宰相の頭どついて止めてきてよ」


「ヨボヨボジジイの頭をどついてぽっくり逝ったらどうするのよ」


「…………監獄暮らし?あ、でも仕事しなくて良いからラッキーみたいな?」


 ボカッ


「……っ!すみませぇん」


 リリベルに拳骨を食らわせギロリと睨みつけるエレノアに周囲の者はヒィと出そうになる悲鳴を喉の奥で堪える。


「あら、リリベル早く終わってしまっていいの?」


「従兄弟の歴史なんて聞いてても楽しくないじゃないお姉様。こちとらハリスのジュニア時代のジュニアも知ってるっつうの」


「リリベル…………あなた最近のモノは見てないわよね?」


「ヒッ……!気色悪いこと言わないでよ!見てないわよ」


 ハリスと姉妹たちは父親が兄弟ということで従兄弟という間柄。昔は遊び友達として王宮に上がり、お風呂も一緒に入った仲だ。


「それで?」


「……ああ、だってこれが終わったらうざぁい連中が来るじゃない」


 そう言ってマーシャが視線を向けるのは先程の男女。そしてその背後には彼らの親も控えている。


「あー……確かに面倒かも」


 うんざりとした様子で呟くリリベルはゆっくりと婚約者に視線を向ける。だがお相手の視線はすぐ横の女性――血の繋がらない義妹ちゃんに釘付けのようだ。互いの耳元で何やらこそこそこそこそと恋人のようにおしゃべりする様は――


 ミシミシミシミシ……


 リリベルの持っている扇子が悲鳴を上げる。


「ヒィッ」


 そんな声が公爵家の周囲から漏れ聞こえる。


 彼女の顔は深い笑みを浮かべているのに妙な凄みがあり、見たものは背筋に悪寒が走った。



 あら皆様御免遊ばせ?


 でも



 ――あまりにも虫酸が走るものですから……



 許してね?




 


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