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『猫の怨返し』    作者: Thomas F Knitter


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1/2

一匹の猫が、あなたの罪を忘れない――恐怖の夜に、怨返しが始まる。

彼女との約束、焦る心、夜の街を飛ばすタクシー。 完璧な夜になるはずだった。 あの不気味な運転手が、ゆっくりとこちらを振り向くまでは――。

男は焦っていた。


夜九時。彼女との約束の時間は、もう過ぎている。この時間では、もう彼女は待ち合わせ場所にいないかもしれない。

男は縋るような思いで、通りかかったタクシーに飛び乗った。


「どちらまで?」


間の抜けた運転手の声がもどかしい。


「急いでるんだ。悪いが、飛ばしてくれないか」

「……わかりました。大急ぎで行かせてもらいます」


無愛想で機械的な低い声とともに、タクシーは夜の街へ滑り出した。

ジャケットのポケットには、彼女へのプレゼント――指輪の小箱今夜、プロポーズするつもりだった。


窓の外、街の明かりが色とりどりに過ぎていく。

しかしその景色は焦燥感を煽るだけで、男の心を落ち着けはしない。


――その時だった。ガツッ――!


鈍い衝撃とともに、頭上を飛び越えていく女の悲鳴。

男は弾かれたように辺りを見回した。


リアウインドウの向こう、白いワンピースの女性が、スローモーションのように宙を舞い、遠ざかっていく。


事故だ。この運転手、人をはねやがった。

しかし車は一向に止まらず、夜の闇を突き進む。


「おい、今、人をはねたぞ!」

「ハイ、わかってますよ」

「止まれ! 警察か救急車を呼ばなきゃ!」


怒声を遮るように低い声が返る。


「だってお客さん、急いでるんでしょ?」


逆上した男は運転手の肩を強く揺さぶる。


「そんな場合か! 引き返せ!」


運転手は笑った。


「……あれぇ、おかしいなぁ、お客さん。私を轢いたときは、そんなこと言わなかったじゃないですか」

「……お前を轢いた?」

「そうです、ちょうど一年前の夜。覚えていませんか?」


ゆっくりと振り向いた運転手。

その顔は、白地に右目の周りだけが黒い毛で覆われた「猫」だった。

ギラリと光る青い目に、男は覚えがあった。


―― ちょうど一年前、彼女の誕生日の夜。男は約束に急ぎながら、路上で一匹の猫をはねた。

「どうせ猫だ」

そう思い、そのまま走り去ったのだった。

しかし今、あの青い瞳が目の前にある。


「やっと思い出していただけましたね。あなたが私を放置したせいで、この額はいまだに血が止まらないんですよ」


猫が帽子を取り、額の傷から鮮血が滴り落ちる。


「オ、オレをどうしようって言うんだ!」

「殺したりはしませんよ。それより、もっと『いいこと』があります」


猫は口角を歪めて残酷に笑った。


「今、轢いたのはあなたの彼女です……もう、助からないでしょうね」


後ろを振り返ると、暗闇だけが広がっていた。


「引き返せ!」


前を見ると、猫の声が追い打ちをかける。


「あなたが、彼女を殺したんですよ」

「何言ってるんだ! オレは運転していない!」

「ええ? これはあなたの車。ほら、フロントガラスに血もついている。……そして、あなたがハンドルを握っている」


気づくと、男は運転席に座っていた。スピードメーターの針は異常な速度を示す。


「フフフ、人殺し、人殺し、人殺し……」


猫の声が浮かんでは消える。

フロントガラスを三本の血の帯が流れ落ちた。


「ウソだ、やめろ!」


狂ったようにアクセルを踏んだ瞬間、視界は白光に包まれた。


ドォォンッ――衝撃が全身を貫く。

……そこは交番だった。薄れる意識の中、警官の顔がぼんやり見えた。


「しっかりしろ!」



――半年後。

男は殺人、死体遺棄、建造物損壊の容疑で法廷に立っていた。

額には、猫に爪で引き裂かれたかのような三本の深い傷が、醜く刻まれていた。


(終)

最後までお読みいただきありがとうございました。 ※本作品は「カクヨム」にも掲載しております。

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