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「百年修行してくる」と旅立ったクール美女のエルフが帰還したけど、彼女の様子がおかしい  作者: ぽんぽこ@銀郎殿下5/16コミカライズ開始!!


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5/5

第5話


「お前、変わりすぎて怖いよ! 俺の知ってるフィリアさんじゃない!」


 我ながら声が震えていた。

 怒鳴ったというより、絞り出した叫びに近かった。


 フィリアさんの顔が人形のようにこわばった。

 そして、沈黙。

 夕焼けが彼女の銀髪を淡く照らし、その横顔が影に沈む。



 長い沈黙のあと、かすれるような声が落ちた。


「……また一人になるのが、怖いの」


 その声は、あまりにも弱々しかった。

 今までの甘ったるい口調とも、無敵な笑顔とも違って――

 十年前、幼い俺の手を引いてくれたあの“フィリアさん”が、そこにいた気がした。



 彼女は、ぽつりぽつりと語り出す。


「……異空間はね、音も、光も、匂いもないの。ただ、永遠みたいに長い時間が、無音で流れていくだけ」


 細い指が、自分の腕を抱くように胸元で絡む。


「来る日も来る日も、修行だけ。でも、だんだん……時間の感覚も、何のために頑張ってるのかも、わからなくなって……」


 彼女の瞳が揺れる。


「でもね、ハル。そんな中でも、私、ずっと……ずっと、ハルのことだけ考えてたの」


 心臓が跳ねる。


「魔法で、あなたの匂いや声を記録して、それを何度も再生してたの。脳に焼き付けるみたいに。『待ってるよ』って言ってくれた、あの日の言葉を……」


 フィリアさんはそっと目を閉じると、囁くように言った。


「だからお願い……もう、離さないで……」



 その声に、教室の空気が凪いだように静まった。

 俺は俯いたまま、かつての記憶をたどる。


 あのとき、泣いていたのは俺のほうだった。

 別れ際、彼女はそっと頭を撫でて、ペンダントをかけてくれた。


 「十年後、立派な男になっておれ」――そう言って、門の向こうに消えていったあの日。


 小さかった自分の手を、力強く引いてくれたあの人は。

 今、目の前で、震えながら助けを求めている。



(変わったのは、きっと俺のほうだ)


 深く息を吸って、顔を上げる。


「だったら……今度は、俺が守る。もう離さないよ」


 フィリアさんの瞳が大きく見開かれる。

 その瞳がすぐに潤み、頬がゆるんで――次の瞬間には、胸に飛び込んできていた。


「……やった。ずっと……ずっと一緒だよ?」


 ぎゅっと抱きつかれた体が、少し震えていた。

 俺はそっとその背中に手を回した。



 ◆


 夕暮れの帰り道。

 通学路の途中、俺たちは並んで歩いていた。


 フィリアさんが腕を絡めてきて、俺の肩に頭を預ける。

 その重みは、もう慣れっこになっていた。



「……重い……けど、不思議と、落ち着くんだよな」


 自分でも呆れるほど自然に、そんなことを思ってしまう。


 すると隣で、フィリアさんが小さく笑った。


「ふふっ、帰ったらいっぱい愛してあげるね、ハル♥」


 言葉より先に、彼女の温度が伝わってくる。


(これで一件落着……? いやでも、まだまだ波乱が続くのは間違いないだろうな)


 でも、そんな生活もフィリアさんとなら楽しく過ごせそうだ。



「あ、そうだ。修行中に快楽の感度を三千倍にする魔法や、人間を分身させる魔法を開発したから、今晩あたりハルで試して……」

「させねぇよ!?」


 赤く染まる空の下、ふたりの影がひとつに重なって伸びていた。

 その影が、どこまでも、遠くまで続いていくような気がした。





拙作をお読みいただき、本当にありがとうございます。

皆さまからの応援が、日々筆を取る力になっています。

もしお気に召しましたら、★評価などいただけましたら嬉しく、今後の創作の励みになります。

これからも少しでも楽しんでいただける物語を紡いでいければと思っております。

心より感謝をこめて──今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

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