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「百年修行してくる」と旅立ったクール美女のエルフが帰還したけど、彼女の様子がおかしい  作者: ぽんぽこ@銀郎殿下5/16コミカライズ開始!!


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第3話


「ねぇハルも一緒にこっちで寝ようよぉ♡」


 案の定、当然のような顔でフィリアさんが俺のベッドに滑り込んでいた。



「いやいやいや!? 俺は床で寝るから!」


 必死に抗議する俺をよそに、フィリアさんは枕をぎゅっと抱きしめながらベッドの中央で丸くなっている。


「やだ。今日はここで寝るの。決定なの」


 甘え声と膨れ顔のダブルパンチ。完全に拒否権なし。


 仕方なく俺は布団を敷いて床で寝ることにした。



 電気を消して、天井を見上げる。


 (はぁ、どうしてこんなことに……)


 カーテンの隙間から漏れる街灯の光が、ほんのり部屋を照らす。


 ……しばらくは静かだった。


 その沈黙を破ったのは、ベッドの上から聞こえてきたフィリアさんの声だった。



「ねぇ、ハル……まだ起きてる……?」


「……なに?」


「ううん、なんでもない」


 その声には、さっきまでの甘え口調とはまるで違う、静かな震えがあった。


 どうしたんだろう。ちょっと反応を冷たくしすぎたかな……。



「……あのさ。急に現れた時はビックリしたけど、こうしてフィリアさんが無事に帰ってきてくれて嬉しいよ」


 そう言った瞬間、ベッドの布団がぐるんと動く気配がした。


「ハルの声……優しすぎて……だめ……」


 くぐもった声とともに、ベッドの中で身悶えしているらしい音。


 (おいおいおい、俺のベッドでナニしてるんだこの人!?)



「はぁ……んっ……♡ ハルの匂い、ここがすっごい濃いの……脳にクル♡」


 布団に顔を埋めて、フィリアさんが完全におかしくなっている。


「……お前、落ち込んでると思った瞬間にさかってんじゃないよ!!」


「だってぇ、ハルの匂い嗅いだら元気になっちゃった♡」


 笑顔の声が夜に溶けていく。



 そして次の日の朝。


 目覚めて、布団をめくった瞬間――そこにいたのは。


「……おはよう、ハル♥」


「ぎゃああああああああああああああああっ!!?」


 俺の叫び声が、鳥のさえずりを吹き飛ばす勢いで響き渡った。



 昨日の夜、俺は確かに、床に布団を敷いて寝たはずだ。ベッドではフィリアさんが「いい匂い〜」と喜んでいたのを、ちゃんと見た。


 なのに今――なぜか俺の布団の中に、ぴったりとフィリアさんがくっついている。



「い、いつからいたんだよ!?」


「うーん……昨日の夜中からずーっと一緒に寝てたよ? ハルが気づかなかっただけ♥」


 にこっとウィンクを飛ばしてくるフィリアさん。その口元がやけに楽しげだ。


(気づかないわけねぇだろ!? 絶対なんかしたなこれ!)



「ふふっ。やっぱりハルも若い男の子なんだね。ちゃーんとおっきくなってる♥」


「は、はしたないこと言うなーッ! ともかく、二度と俺の布団に潜り込むの禁止!!」


「えー? どうしてよ〜、一緒に寝るとすっごく落ち着くのにぃ〜」


「禁止!! 次やったら追い出すからな! マジで!」


 泣きそうな顔でしぶしぶ頷いたと思いきや、その口から漏れたのは不穏なひとこと。



「催眠魔法でどうにか……うーん、でもハル君につかうのはなぁ……」


「聞こえてるからな!? 本気でやめろよ!!」


 そんな感じで、朝から心拍数が限界突破した俺は、頭を抱えながら制服に袖を通す。


 ……だが、異常事態はまだ終わっていなかった。


 むしろ、始まったばかりだったのだ。



 ◆


 学校に来ても、俺の安寧はなかった。


 授業中――何かがおかしい。


「……え、今、なんか膝の上に乗った感触が……?」


 国語の時間。俺の膝に、確かな重みがのしかかっている。


(まさか……まさかな……)


 ごくりと喉を鳴らしながら、ちらっと下を見る。が、当然そこには誰もいない。



(気のせい……じゃないよな。いやでもまさか……)


「えへへ……ハルの膝、やっぱり落ち着く♥」


 耳元で、甘ったるい声が囁かれた。


「フィリアさん!? どこにいるんだ!?(小声)」


「いま透明になってるから、みんなには見えないよ♥ だからハルも動いちゃだめ。私、今とっても幸せなんだから……」


 透明魔法。


 そんなもの、子供の頃に一度だけ見せてもらった記憶がある。



(マジで使ってきたのかよ!? いやいや、授業中だぞ!?)


 だがフィリアさんの姿はどこにも見えず、耳元の吐息だけが妙にリアルに届いてくる。


 気づけば、膝の上の重みは単なる“座ってる”レベルじゃなかった。


 対面――そう、俺に向かい合う形で、フィリアさんが座っている。


 しかもぎゅっと、両腕を俺の首に回して、抱きついてくる形で。



「ん〜、やっぱりこの距離がいちばん落ち着く♥」


 耳元にふわっと吐息がかかる。首筋に柔らかい感触。体温すらも伝わってくる。


(ちょ、ちょっと待て!? これ、もはや……授業どころじゃねぇ!!)


 教壇では先生が朗読を始めていて、クラス全体は静寂に包まれている。


 そんな中で、俺は“透明な何か”に正面から抱きつかれているという前代未聞の状況に置かれていた。



「ハルの心臓、ドクドクいってる……ふふ、私のこと意識してるの? 嬉しい♥」


(してるわ!! 意識せずにいられるか!!)


 透明のくせに、密着度はフルオープン。おかげで俺は変な姿勢のまま硬直し、動くに動けない。


 しかも、向かい合って座っているせいで、顔を下げるとほぼ“目の前”にフィリアさんの胸元がある状態になっている。もちろん見えないけど……想像が逆にきつい。


(た、たのむ……早く授業終わってくれ……!!)


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