表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「百年修行してくる」と旅立ったクール美女のエルフが帰還したけど、彼女の様子がおかしい  作者: ぽんぽこ@銀郎殿下5/16コミカライズ開始!!


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/5

第2話

 フィリアさんが帰ってきてから、たぶん三十分くらい経った。


 ぎゅうぎゅうに密着されたまま部屋中をうろつかれたり、唐突にペンダントの話題を出して号泣されたりと、俺の心はすでに数回限界を迎えている。



「どうして私のペンダント、してないのぉ!? ぐすっ、あんなに大事にって言ったのにぃ……」


「いやいやいや、フィリアさん、あのとき“失くしても構わぬから”って笑ってたでしょ!? 『今生の別れの記念に』とか言ってたし!」


「それはっ、強がりに決まってるでしょぉ!? ほんとは……すっごくすっごく寂しかったのに……!」


「えぇぇ……」


「重かったの!? ねぇ、そういう重い女、嫌いなの!? もうダメ……うわああああん!!」


 しゃくり上げながら俺に抱きついてくるフィリアさんを、俺はただのしかかる勢いで受け止めるしかなかった。



 いやほんと無理、物理的にも精神的にも限界きてる。


 俺の記憶の中にあった“誇り高き威厳の魔女”の面影は、もう1ミリも残ってない。


 そんな中で、俺はようやく思考を立て直し、なんとか話を切り出すことにした。



「あの、フィリアさん。そろそろ、帰ったほうがいいんじゃ……?」


 ふと、十年前の彼女の姿が脳裏に浮かぶ。


 ──「門限は守れ。夕方には帰れ」


 俺が子どもだった頃、何度もそう言われて帰された。

 ちょっとでも粘ると、「甘えるな。帰れ」とスパッと斬り捨ててきたあの冷たい声。


 だから今回も、その流れで「それではまた」って感じで立ち去ると思っていた。


 だが――



「やだっ!」


 ぷくっと頬を膨らませたフィリアさんが、俺の腕にぎゅっと抱きついてくる。


「今日は泊まるもん! ね、いいでしょ? お願い♡」


 上目遣いと甘え声のコンボに、俺の理性はクリティカルダメージを受けた。


「そもそも修行に出るときに家は手放したし?」


「……え?」


「だからずーっと一緒だよ?」


 まるで『今日の天気は晴れです』くらいの軽さで、さらっと重大発言をしてのける彼女。



 (マジでどうしちゃったんだこの人……)


 思わず頭を抱えた、まさにそのタイミングで、玄関のドアが開く音がした。


「ただいまー……あら?」


 顔を覗かせたのは、俺の母さんだった。


「フィリアちゃんじゃない。久しぶりねえ! 大きく……はなってないわね? 相変わらずお人形さんみたい」


「あら、お母さま。百年ぶりにお会いできて光栄です〜!」


「百……え?」


 一瞬時が止まるも、母さんはすぐにふっと微笑んで、「ま、いいわ。今日は泊まっていきなさいな。なんなら、いくらでもウチにいてちょうだい」と軽やかに受け流した。


 (マジかよ……泊まり、確定コース!?)


 俺は思わず心の中で悲鳴を上げた。状況が状況すぎて、拒否の選択肢が完全に消滅している。


「えへへ、一緒に居れるねハル♡」



 ◆


 夕食後、俺は風呂へと逃げ込んだ。


 母さんとフィリアさんは、食卓で懐かしい思い出話に花を咲かせていた。俺もそこにいたはずなのに、何を食べたのかひとつも記憶にない。あまりの情報量と精神的ダメージに、脳が強制シャットダウンしていた。



 湯船に肩まで浸かりながら、俺は改めて今日の出来事を振り返る。


 (……何があったんだ、あの人……昔はもっとクールで、距離感バグってなかったはず……)


 “誇り高き魔女”のようだった記憶の中のフィリアさんが、今や誘惑するサキュバスと化している。


 そんな思考も、次の瞬間には吹き飛んだ。


 ガラッと扉が開く。



「……っ!?」


 目に飛び込んできたのは、タオルすら巻かずに堂々と全裸で立つフィリアさんだった。


「フィリアさん!? ちょ、なに裸で入ってきてんの!? 服! というかせめてタオルぅうう!」


「なに照れてるの、ハル?」


 平然とした顔で湯気の中にすたすた入ってくる。


 十年前のフィリアさんは、「誇り高きエルフは肌を晒さぬ。幼きお主とて例外ではない」と言い、絶対にローブを脱がなかった。


 そんな彼女が、今は俺の正面にノーガードで立っている。



「ハルも大人になったんだね……」


 しみじみとした口調で、じっと見つめてくるその視線。


 ――完全に下半身に向かってる。



「立派だぁ……♡」


 いや、やめて!? ヨダレ垂らしそうになりながら言うセリフじゃないでしょそれ!?


 さらに耳がピクピク震え、頬もほんのり紅潮。


 (これ……あかんやつだ!)



「うおおおおおお!!」


 俺は何もかもを放り出して、全力で風呂から脱走した。


 タオルも巻かず、心の余裕も置き去りにして、風のように自室へと戻る。



 そしてその数分後――


「ねぇハルも一緒にこっちで寝ようよぉ♡」


 当然のような顔でフィリアさんが俺のベッドに滑り込んできた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ