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「百年修行してくる」と旅立ったクール美女のエルフが帰還したけど、彼女の様子がおかしい  作者: ぽんぽこ@銀郎殿下5/16コミカライズ開始!!


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1/5

第1話

5話で完結の予定です。

軽い気持ちで楽しんでいただけると嬉しいです!

 幼いころ、俺の家族だけが知る秘密があった。


 お隣の家に、美人な“エルフ”が住んでいた。



「――異空間魔法が完成した。そこで百年、修行してくる」


 庭の真ん中に立つ銀髪のエルフが、きっぱりとそう言い放った。

 長い耳。透き通るような肌。深い碧の瞳に、冷たい湖のような静けさが宿っていた。

 それが、俺――結城ハルが六歳のときに見た、フィリアさんの最後の姿だった。


「寂しいか? だが安心せい。異空間での百年は、こちらでいう十年。あっという間じゃ」


 キリッとした口調で言い切るフィリアさんに、俺はブンブン首を振って、わんわん泣いた。

 あの頃はまだ、彼女の言ってることの意味なんて、ほとんど理解してなかった。ただ、近所のお姉ちゃん――ちょっと怖くて、でもいつも助けてくれる存在がいなくなるのが、どうしようもなく寂しかった。


「十年でも長い? ふふ、短命な人間の価値観じゃな。千年を生きる長命種である(わらわ)には、わからぬ感覚じゃ」


 フィリアさんは小さく笑って、ひざまずくと俺の首に細い銀のチェーンをかけてくれた。

 青い宝石が埋め込まれたペンダントだ。


「エルフ一族に伝わるには伝わるが、まあ(わらわ)にはあまり似合わんしの。今生の別れになるかもしれぬ友に渡すくらいは許されよう。……失くしても構わぬから、気楽に受け取るがよい」


 最後に頭をポン、と撫でられた瞬間、俺の中の堤防が決壊して、もう涙と鼻水でぐちゃぐちゃだった。


「ではそろそろ行くぞ。十年後、立派な男になっておれ」


 そう言って、フィリアさんは異空間へのゲートへと消えていった。



 あれから十年。


 俺は今、十六歳の高校生になった。


 ……で。


 俺は、学校帰りに最近仲良くなった女友達と、コンビニでアイスを買って笑いながら帰ってきた。完全に、あの約束のことなんて忘れてた。十年も経てば、記憶なんて都合よく薄れていくもんだ。


「また明日ねー」


 そう手を振って別れ、玄関のドアを開け、靴を脱いで、何気なく部屋のドアを開けた――その瞬間だった。


 ……ゴォオ……という、耳をくすぐるような低音の風。


 部屋の空気が、明らかに違う。


 目の前。俺の机の上に――いや、正確にはその上空に、ぐるぐると魔法陣が展開していた。


「……え?」


 間抜けな声が口から漏れた。


 天井まで伸びる、楕円形の歪んだゲート。青白い光が編まれるように絡み合い、小さな雷光がその輪郭を撫でている。


 まるで異世界に繋がる出入り口そのもの。


 そして、俺はようやく思い出したわけだ。


「あっ……フィリアさん……?」


 十年前。異空間で百年修行してくる、と言って消えたエルフの幼馴染。

 当時は近所のお姉ちゃんって感覚だったけど、今思い返すと、あの人、めちゃくちゃ怖かった。

 俺が木に登って怒られたときなんて、リアルに雷魔法落としてきたし。


 これは……ヤバい。


 十年ぶりの帰還。迎える準備もせず、ペンダントも机の引き出しの中。

 立派な男になってろ、とか言われてたけど……俺、いまだに童貞だし。


 ごくり、と喉が鳴る。


 思わず部屋の床で正座モードに突入し、すぐさま背筋を伸ばした。


 反省の構え万全。あとは躾けられた犬のように罰を受けるだけ――だった。


 そして。


 ゲートから姿を現したフィリアさんは。


「ハルぅ〜〜っ! 会いたかったぁ! やっとやっと会えたぁ〜〜!!」


 即・抱きついてきた。


(え? だ、誰だこの人……????)


 柔らかい体が勢いよく飛び込んできて、俺の腕の中にすっぽり収まる。

 細いのに、体温が高くて、妙に心臓に悪い。

 目の前が、白銀の髪とふわふわのローブでいっぱいになる。


「あ、あの、もしかしてフィリアさん……? ちょ、距離、近……ていうか、重っ……ていうか!?」


「もぉ〜〜〜! 百年ぶりのハルの匂い、最高ぉ〜〜〜〜!!」


 そう叫ぶやいなや、フィリアさんは俺の頭をぐいっと抱え込み、髪の根元に顔をうずめて思いっきり吸い込んだ。


「すぅぅぅぅぅ〜〜〜〜っ、はぁっ、はぁっ……ふひっ……これこれ、これなのぉ……この匂い……ああ……たまんないっ……♡」


 鼻息が熱い。ていうか荒い。

 俺の頭に顔を埋めて悦に浸るその姿、完全に通報される系のやつじゃん……!」


 声も、口調も、仕草も、全部が別人。


 あの老成した魔女然とした威厳は、まるでなかった。


 猫みたいに俺の胸元にすりすりしてきて、耳元で「にゃ〜ん♡」とか甘え声で囁いてくる始末。


「……だ、誰だお前……!?」


 俺の口から出た言葉は、それしかなかった。




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