神様作りは材料さえあればホットケーキより簡単です
「神様作りましょ」
「なんで?」
「世界を滅ぼすために!」
面白半分でそういいのけた包帯だらけの幼馴染、甘川糖子に誘われたので高校生である俺達は深夜の調理室にいた。
「世界なんて滅んじゃえばいいのですよ、我が同胞」
彼女はボウルに材料だというケシカスやら髪の毛やらミックスジュースやら人参やら生きたカブトムシやらウサギのキーホルダーやらを入れながら歌うように呟いた。余談だが、彼女は俺のことを『我が同胞』と呼ぶ。頭がおかしいからである。
「この不浄と汚泥に塗れた舞台の幕を下ろしてもらうのです。急拵えの神様に」
「そいつぁ素敵」
ガシャガシャと材料を混ぜている甘川を後ろから観察する。足の痣は五箇所、腕の傷は三箇所増えていて、頭に包帯が追加されていた。ちなみに眼帯だけは彼女の歴としたファッションセンスである。つまり無傷。
「やはり頭のおかしい我が同胞も納得してくださるのですね」
「俺は神のお告げという名の幻覚が見える凡人だぜ」
「おや、頭がおかしい」
一通り混ぜ終わったのか、彼女はナイフを取り出した。左手薬指の腹に沿わせる。血が一滴、ボウルに落ちる。
「我が同胞も」
「なんで」
「将来結婚したい人の血が必要なのです」
「おわ、唐突なプロポーズ」
求められたので応じた。俺の左手薬指から流れる液体が、ボウルに落ちる。まだ息があるらしいカブトムシが蠢くのが見えた。きしょい。
「レンチンして終わりなのです」
「お手軽だな」
「それが売りですから」
電子レンジに突っ込んで、ボタンを押す。周囲が橙色に照らされる。
ぼこ、とマグマが噴き出すような音がした。
「世界を滅ぼしたいと願ったのは紛れもない我が同胞なのですよ」
「……」
「急拵えでも神は神。歪んだ我が同胞の性根がはっきりきっくり見えるのです。不完全を望む我が同胞」
レンジの中から、彼女の声がする。
幻覚が終わったことを認識する。
「ああ、この声はお気に召さなかったのです? でもしょうがないのです。我が同胞は甘川糖子の血を混ぜた。だから、我が同胞が作った神も、同じ形になるのですよ」
俺は神を作った。
甘川糖子が死んだ世界を滅ぼすためだけに。
レンジを付き破るようにして出てきたそれは、急拵えの神は、甘川糖子の飛び降り死体と同じ形をしていた。
「なんでその形?」
「最終履歴がこれなので」
「ふーん、そっか」
どうでもいいや。
俺は甘川糖子を殺した世界が滅べばいいだけだし。
それじゃ、みなさん、さようなら。




