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婚約破棄の現場から失礼します。その「冤罪」、科学捜査(フォレンジック)で論破させていただきます 〜前世科捜研の私が、魔法世界の完全犯罪をDNA鑑定で暴くまで〜  作者: ヲワ・おわり
第13章:洗脳の正体と「死者との対話」

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第63話:親子鑑定

 夜明けが近づいていた。

 王宮の外では、戴冠式の準備が進んでいる。

 鐘の音が鳴り響き、洗脳された群衆が「新王万歳」と叫ぶ声が、分厚い壁の向こうから地響きのように伝わってくる。


 だが、地下三階の第零班ラボだけは、別世界の静寂に包まれていた。

 聞こえるのは、魔導分析器の低い駆動音と、液体の沸騰する音だけ。


「……分離完了。現像に移ります」


 スカーレットは、命がけで地下墓所から持ち帰った「へその緒」から抽出したDNA溶液を、寒天のプレートに流し込んだ。

 隣のレーンには、以前の歓迎パーティの際、カイ少年が口をつけたグラスから密かに採取しておいた「唾液」のサンプルがセットされている。


「祈る必要はありませんよ、殿下」


 スカーレットは、固く手を組んで祈るような姿勢をとっていたレオンハルトに声をかけた。


「遺伝子は嘘をつきません。結果は、すでにここにあります」

「……ああ。分かっている」


 レオンハルトは苦渋の表情で頷く。


「だが……もし、あの子が本当に父上の子だったら。俺は、異母弟を斬らねばならんのか」

「その時は、彼を保護して教育し直せばいいのです。……さあ、出ますよ」


 スカーレットがUVライトのスイッチを入れる。

 暗闇の中に、二列のオレンジ色の縞模様バンドが浮かび上がった。


 左側:現国王のへその緒(父)。

 右側:カイ少年の唾液(子?)。


 二人は、その光の模様を食い入るように見つめた。

 そして――数秒後。

 レオンハルトの口から、深い、深い安堵の息が漏れた。


「……違う」


 素人目にも明らかだった。

 二つの縞模様は、全く噛み合っていない。

 共通するバンドの位置が、あまりにも少なすぎるのだ。


「親子関係の確率は、0.0000%です」


 スカーレットは、冷徹な数字を告げた。


突然変異ミューテーションを考慮してもあり得ない数値です。生物学的に、国王陛下とカイ少年は赤の他人。……血縁関係は一切ありません」

「よかった……。父上は、裏切っていなかったんだな」


 レオンハルトはその場に膝をつき、顔を覆った。

 父への疑念、弟を討つかもしれないという罪悪感。それらが一瞬で霧散し、彼の肩から重い枷が外れ落ちる。


「完全なる『偽物』です。これで、心置きなく戦えますね」


          ◇


 だが、謎はまだ残っている。

 レオンハルトはすぐに立ち上がり、鋭い眼光を取り戻した。


「だが、あの子は何者だ? 血が繋がっていないのに、なぜあんなに父上の若い頃に似ている?」

「偶然ではありません。……見てください」


 スカーレットは、解析されたカイ少年の遺伝子情報を、過去の研究データベース(他国の民族データ)と照合し始めた。

 膨大な魔導書がめくられ、一つの項目で止まる。


「ヒットしました。特定のアリル(対立遺伝子)のパターン。……この特徴的なハプログループは、隣国ドラコニアの北部に住む『山岳少数民族』特有のものです」

「ドラコニア北部……?」

「ええ。そこは、追放されたミエルが身を寄せていた領地があった場所です」


 スカーレットは、カイの顔写真をモニターに映し出した。


「彼女は自分の領地、それも戸籍の管理がずさんな貧民街スラムから、『たまたま王族に顔のパーツが似ている子供』を拾ってきたのでしょう」

「拾ってきた、だと? だが、瓜二つだぞ。成長すればあそこまで似るものか?」

「いいえ。……ここからは、気分の悪くなる話になります」


 スカーレットは、少年の顔写真を拡大した。

 目元、鼻筋、そして顎のライン。

 そこに、肉眼では見えない微細な「歪み」があるのを、彼女のスキルは見逃さなかった。


整形プラスチック・サージェリーです」

「なっ……」

「それも、魔法による強引な『骨格矯正』の痕跡があります。成長期の軟骨を、魔法で無理やり変形させて、前国王の肖像画に似せたのです」


 スカーレットの声が、怒りで低くなる。


「さらに、彼の腕の静脈を見てください。度重なる注射痕があります。これは、洗脳薬と……成長を調整するホルモン剤でしょう」

「…………ッ!!」


 バンッ!


 レオンハルトが、拳で机を叩き割った。

 頑丈な樫の机が真っ二つに裂け、破片が飛び散る。

 彼の瞳には、涙が滲んでいた。それは悲しみではなく、激しい義憤の涙だった。


「あいつは……ミエルは! 無関係な子供を誘拐し、骨を削り、薬漬けにして『王子』という人形に作り変えたのか!?」

「ええ」

「許さん……! 俺の国を奪うだけならまだしも、子供の人生を、尊厳をここまで踏みにじるとは!」


 王族として、そして人として、許容できるラインを超えていた。

 それは単なる国盗りではない。卑劣極まりない児童虐待チャイルド・アビューズだ。


 スカーレットもまた、静かに、しかし煮えたぎるような怒りを抱いていた。


「遺伝子は、その子の『個性の設計図』です。それを他人の都合で書き換えるなど、科学への、生命への冒涜にも程があります」


 彼女は白衣を翻し、準備していた薬品棚へと歩み寄る。


「救い出しましょう、殿下。あの子もまた、ミエルという毒に侵された被害者です。……このDNA鑑定書が、彼を呪縛から解き放つ剣になります」

「ああ。……今すぐにだ!」

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