第61話:墓荒らし計画
地下墓所。
そこは、歴代の王や王族が眠る神聖な場所であり、王宮の防衛機構の要でもある。
当然、セキュリティは最高レベルだ。
「現在は、ミエル派の騎士団が警備を固めているだろう。……数は、およそ一個小隊(約三〇名)」
「三〇名……」
テオが真っ青になって震え上がる。
「む、無理ですよ! そんな厳重な場所、忍び込むなんて!」
「正面突破は自殺行為ですね。ですが、侵入なら勝機はあります」
スカーレットは即座に地図を広げ、ルートの検討に入った。
「このラボの通気ダクトは、地下五階の空調システムと繋がっています。人一人が這って通れるスペースがある」
「ダクトか。……泥まみれになりそうだな」
「血まみれよりはマシでしょう。問題は、最奥の宝物庫の扉です」
スカーレットは、資料にある宝物庫の扉の図面を指差した。
「王家秘伝の『封印錠』が施されています。物理的な鍵と、複雑な魔法陣が組み合わさった二重ロック。……これを解除するには、正規の鍵か、高位の解錠魔法が必要ですが」
「俺は攻撃魔法しか使えん。解錠は専門外だ」
「私もです。魔力が足りません」
鍵が開かない。
ここに来て、物理的な壁が立ちはだかる。
だが、スカーレットは白衣のポケットから、一本の茶色い瓶を取り出した。中では、ドロリとした液体が揺れている。
「なので、『物理的に溶かす』ことにします」
「……は?」
「テオ君に作らせた特製の酸です。金属だろうが魔石だろうが、分子結合を強制的に切断してドロドロにします」
スカーレットは、悪戯が見つかった子供のような顔で笑った。
「魔法の封印は『扉』にかかっていますが、扉を支えている『蝶番』が溶けてなくなれば、魔法も意味を成しませんから」
「……お前、本当に発想が無法者だな」
レオンハルトは呆れつつも、愛剣を手に取った。
迷いは消えた。
父の潔白を証明するために、父のへその緒を盗み出す。
それは親不孝な行為かもしれない。だが、偽物の弟に国を乗っ取られるよりは、よほどマシだ。
「いいだろう。俺が露払いをする。……スカーレット、君は鍵を開けろ」
「了解しました(ラジャー)」
作戦は決まった。
ターゲットは地下五階、王家の墓所。
敵は、かつての部下である近衛騎士団。
目的物は、干からびたへその緒。
「深夜〇時、作戦開始です」
スカーレットはガスマスクを装着し、ゴム手袋をはめ直した。
国の運命を賭けた、静かで激しい墓荒らしが始まる。




