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婚約破棄の現場から失礼します。その「冤罪」、科学捜査(フォレンジック)で論破させていただきます 〜前世科捜研の私が、魔法世界の完全犯罪をDNA鑑定で暴くまで〜  作者: ヲワ・おわり
第11章:透明な切り裂き魔と『螺旋の遺伝子』

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第47話:解剖されるのはお前だ

 爆音と共に鋼鉄の扉が吹き飛び、もうもうと立ち込める土煙が晴れていく。

 地下の隠し部屋。

 そこに現れたのは、漆黒の戦闘服を纏い、青白い長剣を下げたレオンハルトだった。


「……見つけたぞ」


 地獄の底から響くような声。

 その全身からは、物理的な圧力を伴うほどの濃密な殺気が噴き出し、部屋の空気をビリビリと震わせている。


 部屋の奥。

 アラン・ド・ノワールは、驚愕に目を見開いていた。

 だが、彼は即座に反応した。椅子の背後に回り込み、拘束されているスカーレットの首にナイフを押し当てる。


「動くなッ! 一歩でも近づけば、この女の頸動脈を切り裂く!」


 卑劣な盾。

 スカーレットの白い喉元に、赤い血が一筋流れる。

 その光景を見た瞬間、レオンハルトの瞳から理性の光が消えかけた。だが、彼は剣を下げ、ゆっくりと歩み寄る。


「……その汚い手を離せ」


 静かすぎる声が、逆にアランの恐怖を煽る。


「スカーレットに傷一つでもつけてみろ。貴様の家門ごと、地図から消し去ってやる」

「ハッ! 脅しかよ! ここは王宮の外、無法地帯だ!」


 アランは虚勢を張り、ナイフを食い込ませる。

 スカーレットは眉をひそめたが、悲鳴は上げない。彼女は冷静に、乱入してきた「野獣」を見つめていた。


(……殿下。心拍数が危険域です。怒りで視野が狭くなっていますね)


 彼女は計算していた。

 アランはサディストだ。獲物をいたぶり、恐怖させることに快感を覚えるタイプ。

 だからこそ、即座に人質を殺すような真似はしない。

 そして――彼が持つ「最強のスキル」に絶対の自信を持っている限り、彼は必ず攻勢に出る。


 予想通り、アランはニヤリと笑った。


「いいぜ、殿下。……俺の本当の力を見せてやるよ」


 彼はスカーレットを蹴り飛ばし、距離を取った。

 椅子ごと床に倒れ込むスカーレット。

 レオンハルトが駆け寄ろうとした、その瞬間。


 スッ、と。

 アランの姿が、世界から掻き消えた。


          ◇


「――ッ!?」


 レオンハルトは足を止め、全神経を研ぎ澄ませた。

 いない。

 視覚だけではない。足音も、衣擦れの音も、匂いさえもしない。

 さらに恐ろしいことに、魔法使いが頼りとする「魔力反応」までもが、完全に消失していた。


 ユニークスキル【完全隠蔽パーフェクト・ハイド】。

 自身の存在を世界から切り離し、認識不能にする暗殺者最強の能力。


(どこだ……?)


 レオンハルトは剣を構え、周囲を警戒する。

 だが、五感のすべてが「無」を告げている。


 ザシュッ!


 唐突に、痛みが走った。

 レオンハルトの左頬が、鋭利な刃物で切り裂かれる。

 鮮血が舞う。


「くっ……!」


 彼は反射的に剣を振るうが、そこには空気を斬る感触しかない。


「ハハハ! どうした殿下、どこを見ている!」


 嘲笑う声が響く。だが、その声さえも反響し、位置が特定できない。

 続く斬撃。

 右肩。太腿。脇腹。

 見えない刃が、一方的にレオンハルトを切り刻んでいく。


「無様だなあ! 国一番の剣士も、見えなきゃただの案山子かかしか!?」


 アランは楽しんでいた。

 高貴な王子を、安全圏から一方的にいたぶる快感。

 レオンハルトの戦闘服が、みるみるうちに赤く染まっていく。風魔法による障壁バリアを展開しても、魔力を伴わない物理的な刃は、感知できなければ防ぎようがない。


(……まずいな)


 レオンハルトは脂汗を流す。

 このままではジリ貧だ。広範囲魔法で部屋ごと吹き飛ばすか?

 いや、床にはスカーレットがいる。彼女を巻き込むわけにはいかない。


 その時。

 床に倒れたままのスカーレットと、視線が合った。


 彼女は、怯えていなかった。

 愛する男が傷つく姿を見て、悲鳴を上げるどころか――彼女の瞳は、冷徹な観察者の色を帯びていた。


(……殿下の出血量、推定二〇〇ミリリットル。動きに支障なし)

(敵の攻撃パターンを解析。右利き。リーチは短剣の間合い。そして……攻撃の瞬間に生じる、微かな空気の揺らぎ)


 「テオ、あれをアランに向かって投げて」

 スカーレットがテオに向かって言うと、テオはレオンハルトの風魔法による障壁バリアに違和感がある部分に向かってビンを投げつけた。

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