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婚約破棄の現場から失礼します。その「冤罪」、科学捜査(フォレンジック)で論破させていただきます 〜前世科捜研の私が、魔法世界の完全犯罪をDNA鑑定で暴くまで〜  作者: ヲワ・おわり
第10章:拉致監禁と反撃の狼煙

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第46話:地下水道の追跡劇

 そこは、世界から忘れ去られた場所だった。

 王都の地下深くに広がる「旧地下水道」。

 数十年前に廃棄され、地図からも抹消されたこの区画は、腐敗した汚水と有毒ガス、そして光を嫌う魔物たちが巣食う迷宮と化していた。


 鼻を突く強烈な腐臭。肌にまとわりつく湿気。

 完全なる闇の中、頼りになるのはレオンハルトが掲げる「紫外線投光器(UVライト)」が放つ、不気味な紫色の光だけだ。


「ひっ、ひぃっ……!」


 ガラス職人のテオが、青ざめた顔で口元を押さえる。

 無理もない。足元では汚泥がピチャピチャと音を立て、闇の奥からは正体不明の生物が這い回る音が聞こえてくるのだ。


 だが、レオンハルトの足は止まらない。

 彼の視線の先には、闇を切り裂くように輝く「蛍光グリーンの点」が続いていたからだ。


(……スカーレット)


 彼女が靴底に仕込んだ特殊塗料。

 それは、この絶望的な迷宮における、唯一にして絶対の「希望の糸(アリアドネの糸)」だった。


          ◇


 一行が進むにつれ、気配が濃くなる。

 殺気だ。


「キシャアアアッ!」


 突如、汚水の中から黒い影が飛び出した。

 猫ほどもある大きさの「魔化ドブネズミ(ジャイアント・ラット)」。その鋭い牙には、致死性の病原菌が含まれている。

 一匹ではない。天井から、壁の隙間から、無数の赤い目が光り、一行を取り囲む。

 さらに、酸を撒き散らす「アシッド・スライム」が、退路を断つように滲み出てきた。


「魔獣の群れだ! 迎撃せよ!」


 近衛騎士たちが剣を抜き、盾を構える。

 狭い通路での乱戦。数的不利。

 本来なら、慎重に陣形を組んで対処すべき場面だ。


 だが。


「――邪魔だ」


 冷徹な声と共に、黒い疾風が騎士たちの間を駆け抜けた。

 レオンハルトだ。

 彼は盾の後ろに隠れるどころか、単身で魔獣の群れへと突っ込んでいく。


「で、殿下!? 危険です、お下がりください!」

「下がっていろ。……今の俺は、機嫌が悪い」


 レオンハルトは、腰の長剣を抜き放った。

 魔法の詠唱はない。

 あるのは、風属性の魔力を身体強化のみに注ぎ込んだ、純粋な物理速度。


 ザンッ!!


 銀閃が走った。

 先頭で飛びかかったネズミが、悲鳴を上げる間もなく空中で両断される。

 断面が焼けるほどの神速。


「ギ、ギィ……!?」


 仲間が瞬殺されたことに怯む魔獣たち。

 だが、レオンハルトは止まらない。彼は流れるような足運びでスライムの懐に潜り込むと、そのコアを一突きで粉砕した。


 パァン! とスライムが弾け飛び、ただの汚水へと還る。


「……遅い」


 レオンハルトは剣を振るい、刃についた汚れを払った。

 その動きには、一切の無駄がない。

 普段は知性派を気取り、スカーレットに振り回されている第二王子。だがその本質は、王宮騎士団の師範代さえも唸らせる、生粋の「武人」である。


 次々と襲いかかる魔獣を、彼は表情一つ変えずに屠っていく。

 魔法を使えば崩落の危険があるこの場所で、彼の剣技は最強の解答だった。


「す、すげぇ……魔法なしで……」


 テオが呆然と呟く。

 鬼神の如き強さ。彼が通った後には、魔獣の死骸と、切り開かれた道だけが残された。


 レオンハルトの指示で、一行はひた走る。

 蛍光の道標は、迷宮の最深部へと確実に彼らを導いていく。


          ◇


 やがて、風景が変わった。

 煉瓦造りの下水道が終わり、荒削りな岩肌が剥き出しの「旧鉱山エリア」に出る。

 その突き当たり。

 蛍光グリーンの点々は、巨大な鋼鉄の扉の前で途切れていた。


 かつて資材搬入に使われていたと思われる、堅牢な両開きの扉。

 錆びついてはいるが、厚さは数十センチあるだろう。魔法による封印も施されている気配がある。


「ここが……終着点」


 レオンハルトは扉に耳を当てた。

 分厚い鉄の向こうから、微かに人の話し声が漏れてくる。


『……あ? なんの音だ?』


 男の声。アランだ。

 そして――。


『……残念ですが、時間切れ(タイムオーバー)ですよ、アラン様』


 凛とした、冷ややかな女の声。

 スカーレットだ。

 その声に震えはない。恐怖に屈することなく、勝利を確信した女王のような響き。


 レオンハルトの中で、何かが弾けた。

 安堵と、愛しさと、そして――彼女を危険な目に合わせた男への、煮えたぎるような殺意。


「殿下、突入班を編成します。解錠班ピッキングの到着を待って……」

「待てない」


 レオンハルトは騎士の進言を遮り、扉の正面に立った。

 彼は剣を鞘に納める。

 代わりに、右手に膨大な魔力を集中させる。風と衝撃、二つの属性を練り合わせた、攻城兵器級のエネルギー。


「どけ。……ノックは不要だ」


 彼は右手を、砲身のように扉に向けた。


「扉ごと、こじ開ける」


 空気が軋む。

 地下道の酸素が、彼の手のひらに吸い寄せられていく。


「――【穿孔衝撃インパクト・カノン】!!」


 ドォォォォォォォォンッ!!


 炸裂音。

 それは魔法というより、物理的な爆発だった。

 数十センチの厚みを持つ鋼鉄の扉が、飴細工のようにひしゃげ、蝶番ごと弾け飛ぶ。

 轟音と共に、扉が部屋の内側へと吹き飛んだ。


 土煙が舞い上がる。

 その中を、レオンハルトは堂々と踏み込んだ。


 部屋の中。

 驚愕に目を見開くアラン。

 そして、椅子に縛られたまま、埃まみれの顔でニヤリと笑うスカーレット。


 レオンハルトの瞳が、アランを捉える。

 もはやそこに、王子の慈悲はない。


「……お楽しみ中すまないが」


 彼は、地獄の底から響くような声で告げた。


害虫駆除ゴミそうじの時間だ」


 最強の剣が、届いた。

 ここからは、一方的な蹂躙が始まる。

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