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婚約破棄の現場から失礼します。その「冤罪」、科学捜査(フォレンジック)で論破させていただきます 〜前世科捜研の私が、魔法世界の完全犯罪をDNA鑑定で暴くまで〜  作者: ヲワ・おわり
第10章:拉致監禁と反撃の狼煙

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第43話:レオンハルト、激昂

 王宮二階、第二王子執務室。

 窓の外では、季節外れの激しい雷雨が轟いていた。窓ガラスを叩きつける雨音が、レオンハルトの苛立ちを加速させる。

 彼は眉間に皺を寄せ、山積みの書類にペンを走らせていた。


(……胸騒ぎがする)


 スカーレットが買い出しに出てから、予定の時間を過ぎている。

 護衛にはレイブンがついている。元暗殺者の手練れだ。そう簡単に後れを取るはずがないとは分かっていても、不安という名の黒いインクが心に滲んでいくのを止められない。


 その時だった。

 バァンッ!

 執務室の扉が、ノックもなく乱暴に開かれた。


「――失礼、いたしますッ……!」


 転がり込んできた人影を見て、レオンハルトは息を呑んだ。

 レイブンだった。

 いつも冷静沈着な彼女が、今は泥と血にまみれ、肩で息をしている。腹部を押さえる手からは鮮血が滴り、純白の絨毯を赤く染めていく。


「レイブン!? 何があった!」


 レオンハルトは椅子を蹴倒して駆け寄った。

 レイブンは苦痛に顔を歪めながらも、床に膝をつき、レオンハルトを見上げた。その瞳には、肉体の痛み以上の深い絶望と悔恨が宿っていた。


「申し訳……ありません。お嬢様を……守れませんでした」


 その一言で。

 レオンハルトの世界から、音が消えた。

 雨音も、雷鳴も、自分の鼓動さえも聞こえなくなる。

 ただ、頭の中で「何かが切れる」音がした。


 手の中で、愛用していた万年筆がベキッという乾いた音を立ててへし折れた。インクが指の間から黒い血のように滴り落ちる。


「……相手は?」


 問いかける声は、凍てつくように低く、静かだった。


「姿なき男。……アラン・ド・ノワールです。……お嬢様は、連れ去られました」


          ◇


 王宮の一角にある、近衛騎士団本部。

 その最奥にある団長室では、騎士団長ガレスが優雅に紅茶を啜っていた。

 外の嵐など関係ない。息子のアランも地下室で大人しくしているはずだ。ほとぼりが冷めれば、また表舞台に戻してやれる。そう楽観視していた。


 その安寧は、爆音と共に粉砕された。


 ドォォォォォン!!


 落雷が落ちたような轟音が響き、厚さ五センチの樫の扉が、蝶番ごと弾け飛んだ。

 砕け散った木片が弾丸のように室内を舞う。


「な、何事だ!?」


 ガレスが椅子から飛びのく。

 土煙が舞う入り口。そこに、一人の男が立っていた。

 剣も杖も持っていない。ただの身一つ。

 だが、その全身からは、空間そのものを歪めるほどの濃密な魔力が噴き出していた。


 第二王子、レオンハルト。

 普段の冷笑的な態度は消え失せ、そこにあるのは、触れれば切れる刃のような殺気だけだ。


「で、殿下……!? 乱心なされたか!?」


 護衛の騎士たちが剣を抜こうとする。だが、動けない。

 レオンハルトが放つプレッシャー――生物としての格の違いに、本能が「動けば死ぬ」と警告を発しているのだ。


 レオンハルトは無言のまま、幽鬼のように床を滑った。

 一瞬で距離を詰め、ガレスの胸倉を掴み上げる。


「ひっ!?」


 巨漢のガレスが、小枝のように持ち上げられた。

 そのまま、躊躇なく壁に叩きつけられる。


 ズドンッ!!


 壁に亀裂が走り、ガレスの肺から空気が強制的に排出された。


「が、はっ……!?」

「貴様の息子はどこだ」


 レオンハルトの瞳は、感情の色を失っていた。ただ、絶対零度の氷河がそこにある。


「三秒で答えろ。さもなくば、この本部ごと貴様を消し炭にする」

「な、何を……! 息子は地下牢で謹慎中だ! 濡れ衣だ!」


 ガレスは涙目で喚いた。

 痛みと恐怖で顔が引きつっている。

 

「放せ! これは王族による暴行だぞ! 宰相閣下に訴えてやる!」


 その反応を見て、レオンハルトは確信した。

 こいつは、本当に知らないのだ。息子が抜け出し、再び凶行に及んだことを。

 その「無能さ」が、レオンハルトの怒りに油を注いだ。


「……管理もできんのか、無能め」


 彼はガレスをゴミのように床に捨てた。


「貴様の息子は、スカーレットを拐った」

「な……?」

「もし彼女の髪の毛一本でも傷ついていたら……ノワール家は今日で終わりだと思え。爵位剥奪程度では済まさん。一族郎党、この世に生まれたことを後悔させてやる」


 ガレスがガタガタと震え出す。

 目の前の男は、王子ではない。人の皮を被った魔王だ。


「し、司法が……法が許さんぞ……」

「司法?」


 レオンハルトは冷たく吐き捨てた。


「知ったことか。――俺が法だ」

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