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婚約破棄の現場から失礼します。その「冤罪」、科学捜査(フォレンジック)で論破させていただきます 〜前世科捜研の私が、魔法世界の完全犯罪をDNA鑑定で暴くまで〜  作者: ヲワ・おわり
第9章:禁断の技術「DNA」と政治的圧力

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第40話:権力の壁と隠蔽工作

 さらに、最悪の報告が続いた。

 ガレスは「ああ、そういえば」と、世間話でもするかのように付け加えた。


「例の路地裏の現場ですがな。衛生上の観点から、騎士団が『浄化』しておきましたよ」

「……何?」

「薄汚い場所でしたからな。水魔法部隊を動員し、高圧洗浄で綺麗に洗い流させました。市民も喜ぶでしょう」


 スカーレットの顔から、表情が消えた。

 現場の洗浄。

 それは魔法使いにとっては「善行クリーンアップ」かもしれない。だが、捜査官にとっては、万死に値する「証拠隠滅」だ。

 泥に残った足跡も、壁の雨陰も、そしてまだ残っていたかもしれない微細証拠も、すべて水流によって永遠に失われたのだ。


(現場保存の原則が……。これで、再検証レビューも不可能になった)


 完全に、退路を断たれた。

 ガレスは勝ち誇った顔で、二人に宣告した。


「ほとぼりが冷めるまで、第零班は活動停止。……ラボから一歩も出ぬよう、入り口には我が騎士団の精鋭を配置しておきます」

「軟禁か……!」

「警護ですよ、殿下。……二度と私の前に現れないでください。魔力無しのゴミ拾い共め」


          ◇


 第零班ラボに戻った二人は、重苦しい空気に包まれていた。

 入り口の鉄扉の外には、監視の騎士が立っている。完全な籠の鳥だ。


 ダンッ!!


 レオンハルトが、執務机を拳で殴りつけた。天板に亀裂が走る。


「くそっ……! くそっ!!」


 彼は血の滲む拳を握りしめ、咆哮する。


「俺が……俺が王位継承権の低い第二王子でさえなければ! もっと権力があれば、あんな横暴を許しはしなかった!」

「……」

「すまない、スカーレット。君が導き出した『真実』を、俺が無力なばかりに守れなかった」


 悔しさに顔を歪めるレオンハルト。

 だが、スカーレットは冷静だった。彼女は暖炉の前で拾い集めた、鑑定書の燃えカスをピンセットで分類していた。


「殿下。謝罪は不要です」


 彼女の声は、凍りつくほど冷たかった。


「私は今、泣いているのではありません。……猛烈に腹を立てているのです」

「スカーレット?」

「私への侮辱なら許容しましょう。ですが、彼らは『再現性のある事実(科学)』を、一時の『感情と都合(政治)』で踏みにじった」


 スカーレットは、黒く焦げた紙片を試験管に放り込んだ。


科学サイエンスは、権力に負けました。理解できないものを否定し、自分たちの都合のいい『正義』だけを残したのです」

「……ああ。奴は息子を盲信するあまり、正気を失っている」

「いいえ、違います」


 スカーレットは首を横に振った。


「親バカではありません。ガレス騎士団長の反応は過剰すぎます。もし彼が息子を信じているだけなら、堂々と再捜査をさせて、無実を証明すればいいはずです」

「……確かに」

「証拠を焼き、現場を洗い流した。……つまり彼は、『息子がクロである可能性』を認識しているのです」


 彼女の緑色の瞳が、冷徹な光を帯びる。


「あれは愛ではありません。組織防衛のためのトカゲの尻尾切り、あるいは意図的な『隠蔽工作カバーアップ』です。……腐っていますね」

「許せんな」

「はい。許せません。私のプライドにかけて、奴らの脳髄に直接、真実を刻み込んでやりましょう」


          ◇


 一方その頃。

 騎士団長邸の地下室。

 「牢獄」とは名ばかりの、豪奢な家具が揃えられた隠れ家で、一人の青年がワイングラスを傾けていた。

 アラン・ド・ノワール。

 透明な殺人鬼の正体である彼は、ふかふかのソファで足を組み、退屈そうにナイフを弄んでいた。


「……ちっ。親父もうるさいな」


 先ほど、父親であるガレスから説教を受けたばかりだった。

 『遊びが過ぎるぞ。第零班に嗅ぎつけられたではないか』と。


「バレなきゃいい、だと? ……笑わせる。俺は【完全隠蔽】のスキル持ちだぞ?」


 アランは空中にナイフを放り、見ないままキャッチした。


「俺は世界から『消失』できる。神に選ばれた捕食者だ。下等な有象無象を間引いて何が悪い。……DNA? 髪の毛? そんなもので俺が捕まるわけがないだろう」


 反省の色はない。

 彼にあるのは、特権階級としての歪んだ選民思想と、自らの能力に対する絶対的な過信だけだ。


 アランは、テーブルの上に置かれた書類を手に取った。

 父の机から盗み見てきた、第零班の捜査報告書だ。そこには、捜査を指揮した「特別捜査官」の名前と写真があった。


「へぇ……。俺の髪の毛を見つけたのは、この女か」


 写真に写っているのは、理知的な瞳をした赤髪の美女。

 スカーレット・ヴァレンタイン。


「魔力もないのに、俺の透明化を見破った? ……面白い」


 アランの唇が、三日月形に歪んだ。

 退屈していた彼の心に、どす黒い興奮が湧き上がる。

 無抵抗な市民を殺すのは、もう飽きた。

 次は、もっと手応えのある獲物がいい。


「俺を見つけ出した、その眼球……。俺のナイフでくり抜いたら、どんな顔をするんだろうな」


 狩りの衝動。

 アランは立ち上がり、自身の姿をかき消した。

 視覚、聴覚、魔力反応。すべてが消失する。


「地下室なんて退屈だ。……そうだ、俺を追い詰めた『名探偵』に、ご挨拶に行かないとな」


 謹慎中のラボなら、邪魔者はいない。

 権力によって解き放たれた野獣が、音もなく檻を抜け出した。

 ターゲットは、スカーレット。

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