表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄の現場から失礼します。その「冤罪」、科学捜査(フォレンジック)で論破させていただきます 〜前世科捜研の私が、魔法世界の完全犯罪をDNA鑑定で暴くまで〜  作者: ヲワ・おわり
第3章:相棒との接触と新展開

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/73

第14話:最初の事件、あるいは「見えない毒」の予兆

「仕事だ、スカーレット。……被害者は、『魔導卿』ヴァルド公爵」


 その名を聞き、スカーレットの片眉が跳ね上がった。

 ヴァルド公爵。魔法省のトップにして、このルミナス王国で最も偉大な魔法使いと称される老人。

 いわば、この国の「魔法至上主義」の象徴とも言える人物だ。


「大物ですね。死因は?」

「不明だ。だが、状況が最悪だ」


 レオンハルトは、噛み締めるように告げた。


「現場は王宮東棟、最上階にある公爵の執務室。発見時、部屋には『最高硬度の防御結界』が張られていた」

「結界、ですか」

「ああ。物理的な侵入はもちろん、毒の霧も、空間転移テレポートによる干渉さえも遮断する絶対領域だ。起動中は、空気の循環以外、塵一つ通さない」


 スカーレットの脳内で、パズルのピースが組み上がり始める。

 外部からの干渉を拒絶する結界。

 その内部で起きた、権力者の死。


「そして、結界の中には死体以外、誰もいなかった」

「なるほど。教科書通りの『密室』ですね」


 スカーレットは口元に手を当て、思考を走らせる。

 魔法が実在するこの世界において、密室の定義は現代日本とは異なる。「壁抜け」や「遠隔操作」ができるからだ。

 だが、「対魔法・対転移結界」が張られていたとなれば話は別だ。それは、魔法というジョーカーを封じた、純粋な論理的密室となる。


「それで? 警察の見解は?」

「魔法警察の速報では、『結界破りの痕跡なし』『室内に潜伏者なし』。そして遺体からの『毒魔法・呪詛の反応なし』」

「……」

「よって――過労による急性心不全。つまり『病死』だと」


 それを聞いた瞬間。

 スカーレットは、鼻で笑った。

 嘲笑ではない。獲物を見つけた捕食者の、獰猛な笑みだ。


「病死? ……傑作ですね」


 彼女は立ち上がり、白衣の襟を正した。


「国の重鎮が、最高セキュリティの密室で、誰にも看取られず、都合よく心臓を止める確率……。天文学的な数字ですよ」

「やはり、殺しか」

「十中八九。魔法使いは『見えないもの』を『ないもの』と定義する悪い癖があります」


 スカーレットは、常々感じていた。

 この国の捜査は、魔力という「目に見える光」に頼りすぎている。だからこそ、光の当たらない「闇(物理現象)」に潜む悪意を見落とすのだ。


「レイブン」

「はい、お嬢様」


 影から現れた侍女が、無言で革製の鞄を差し出した。

 スカーレット愛用の「往診鞄ドクターズバッグ」。中にはメス、採血管、手袋、そして数種類の試薬が詰め込まれている。

 スカーレットはそれを受け取り、ずしりとした重みを確かめた。


「行きましょう、殿下。魔法が通じない『完全密室』……。私の科学メスで、こじ開け甲斐がありそうです」

「……不謹慎な奴だ。人が死んでいるんだぞ」

「死者への最大の敬意は、真実を暴くことですわ」


 二人は薄暗い地下室を出て、地上へと続く螺旋階段を登り始めた。

 カビ臭い空気から、徐々に地上の「清浄すぎる(不自然な)空気」へと変わっていく。

 光が近づくにつれ、レオンハルトの表情が厳しくなる。


「覚悟しておけよ。相手は魔法省のエリートたちだ。我々『ゴミ拾い班』が現場に介入すれば、鼻で笑われるぞ」

「構いません」


 スカーレットは、階段の先にある重い扉に手をかけた。

 その瞳は、一点の曇りもなく澄み渡っている。


「誰に笑われようと関係ありません。最後に笑うのは、事実ファクトを掴んだ人間だけですから」


 ギィィ……。

 扉が開く。

 溢れ出す光の中へ、変人令嬢と苦労人王子、そして最強の従者が踏み出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ