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王女が攫われた報復に魔王の娘を攫ってきたら国外追放を言い渡されたので新世界の神になる  作者: まる


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【第六話】 適材適所



 しばらくして日も暮れ始めた時分、一行はクロフォード領へと辿り着いた。

 半日近い馬車での移動は人生で初めてとあってクルムは途中で立ち寄った町で調達した昼食代わりのパンを食べ終えたのちは寝息を立てていたぐらいにこれといって問題やトラブルのない旅路だ。

 幸いにも各地への通達はまだ届いていないらしく、ロイスが関所で非難の目を向けられることもなく、またローブとフードで体を隠すクルムであったりそのクルムとは違ってエルフに似た身体的特徴はあっても角や翼が生えているわけではないネリスも出自を疑われるでもなく、普段通りの通行に安堵しているのはそれら人間界の一般常識を知っているロイスただ一人。

 無論その結果は国外追放者の人相書きが出回る前であるということも大いに理由の一つとなっていたが、そもそもこのクロフォード領には度々訪れており領主である辺境伯と懇意であると知られているため身分照会がそもそも顔パス状態で済んだのが何よりも大きい。


「見えて来たぞ、あの屋敷だ」


 基本的に無口なネリスと社交性は人並みながら考えることが多過ぎて談笑する余裕がないロイス。

 クルムが眠りに落ちてからというもの、自発的に会話をしようという者がおらずひたすらに無言の空間が流れていたが領内をしばらく進んだところでようやく静寂が破られた。

「んー……着いたの?」

 とんとんと、肩を叩かれクルムが目を覚ます。

 大きく口を開けて欠伸を漏らし、両腕を目一杯伸ばす姿からは何の緊張感、危機感も見受けられない。

「観光しに来たんじゃねえんだぞ……」

「だって座ってるだけじゃ暇なんだもん」

「よくこの状況で昼寝が出来るなと感心すら覚えるわ。こっちは考えることが多過ぎて頭爆発しそうだっつーのに、言い出しっぺのお前の代わりによ」

「まあまあ、そこは適材適所ってやつ? 外のことなんてほとんど知らないあたしが考えたってロイスより良い案が思い浮かぶとも思えないし?」

「そう言われるとぐうの音も出ないが……だからって暢気に居眠りされるとこっちの意欲が失せるだろが」

「戦いとか国造りならテンション上がるけどさぁ、見ず知らずの人間と会うのにあたしがやる気出してもただの空回りみたいになっちゃうじゃん? 心配しなくても出番が来た時はちゃんと働くからさ。こう見えてもやる時はやる女なんだから」

「暢気なんだか大物なんだか分からん奴だよ、さすがは王族ってなもんかね。ま、確かに交渉事は俺がやるしか……あ」

「どしたの?」

「しまった、肝心なことを忘れてたわ……」

「え、何?」

「奴の大好きなビジネスって言葉を使って抱き込むつもりだったんだが……先立つ物がねえ。金目の物なんか全部家に置いたままだし……つってもそれで解決出来る程の財産もないんだけど」

「お金かぁ……あ、こういうのはどう?」

 クルムはチャラチャラと腕や首に着けている装飾品を指で揺らした。

 なるほど確かにその両手首や首のみならず耳からぶら下がっているピアスや頭に乗ったティアラにも水色、紫、ピンクと色とりどりの宝石らしき半透明の石が煌めいている。

 使われている金属も含め、見るからに高価で希少そうな物だ。

「そこそこの値段するんじゃない? 部屋に戻れたらもう少しあるけど、今あるのはこれぐらいだし」

「見たところ魔族領独自の物っぽいし、売れば相当な額にはなるだろうけど……手放して良い物なのか?」

「ママに貰ったの以外なら全然いいわよ? ネリスが威厳とか風格とかって口うるさく言うから言われるままつけてるだけだし」

「当然です。貴女様は王家の血を引くお方なのですから」

「昨日までは、だけどね」

「は、失礼いたしました。しかし新たに作るこの一家でも王になられるのでは?」

「ま、まあそうなんだけど……今は手段を選んでらんないし、別に一つ二つならいいでしょ?」

「異論はございません。城に戻った際に残りも持ち出しましょう」

「うん、お願い。てことでロイス、遠慮なく使って?」

「他にアテもないからやむを得ない、か。ここはありがたくお言葉に甘えるとしよう。だが一つだけでいい、十分に対価になるだろうし安売りする必要はない。効果的な手段ってのは小出しにしてこそ意味があるからな。そうはならんだろうが、万が一追加で要求されても受け入れるんじゃないぞ。こちらとしてはそうなってくれた方がありがたいんだけど」

「へ? 何で?」

「相手が欲しがる物を持っているってのは交渉や駆け引きをする上で圧倒的に優位な立場だからだ」

「なるほど~、そんなの考えたこともないや。やっぱ女王足る者は頭が良くないと駄目なのかな~」

「それこそ適材適所だろ。対話や小細工が得意な俺がいて、金や人手を用意出来るお前がいて、それを実行したり戦いに秀でているネ……ユーリがいて、というのが今の俺達ってだけの話だ。今後必要な物を集めて行く過程でその中の何が一番重要になるかなんて時と場合によっていくらでも変わるし、無い物ねだりをしたって無い物はない。ある物、出来ることの狭い選択肢からどうにか現状を打破していくしかないのさ」

「つまりあたしの出番が来た時に精一杯頑張ればいいってことね?」

「それでいい。が、少なくとも分からないなりに理解する努力はしろ。今みたく分からないことがあればその都度聞いてくれれば説明はする。その中で一つでもお前の中に知識や情報が残っていれば何かの時に役に立つ。いつでも俺やユーリが傍にいるとは限らないし、いつまでも傍にいるかは分からないんだからな」

「え~……その言い方なんかヤだ。意地悪な感じがする」

「現実主義者ってのはこういうもんさ。理屈と打算ばかりだから面倒に思うだろうが、世知辛い時代を生き抜くにはこういう奴も重宝するもんだぜ? 生憎と国やパーティーにはご理解いただけなかったみたいだけどな」

「出た~、自虐と卑屈の塊ロイス~」

「変な渾名付けんな。とにかく、手放してもいいブツを貸してくれ。俺とクロフォード卿との交渉になる、お前が直接差し出すと欲をかいて足元を見られたり別のを寄越せと言われる可能性が無いでもないからな」

「おっけー」

 クルムは手首から取り外したブレスレットを一つ、ロイスに差し出した。

 銀の細い鎖に薄紫の宝石が四つ連なる、いかにも芸術的技術的な価値がありそうなデザインをしている。

 頭部のティアラ、両耳のピアス、唯一宝石の付いていない胸元のネックレスが一つと両手首に二つずつのブレスレット。

 貴金属や希少品の売買には何度となく携わったことのあるロイスだったが、魔族特有の技術や魔族領独自の鉱石や宝石の知識に乏しいため価値の序列が分からない。

 今手放すなら最も安値の物を選びたい、そんな気持ちをグッと堪えてその手から受け取った。

「少なく見積もっても屋敷一つ、船一隻ぐらいの価値はありそうだ。助かったよ」

「今手元にあるのはこれだけなんだけど、あとはママの宝物庫に行ければもっと凄い物があるはずなんだけどな~」

「行けないのか?」

 クルムの母。

 つまりは魔王の妃。

 人間界では炎獄女帝と呼ばれ恐れられていたという文献が存在はするが、過去数十年に渡ってその存在が確認されていない。

 事実ロイスもクルムの話を聞いて初めて既に亡き者となっていることを知ったぐらいだ。大抵の人間にとって久しく耳にすることさえなかった言葉である。

 そんな女帝の宝物庫ならさぞ貴重なお宝が眠っているんだろうなと、ロイスはしみじみと思い浮かべていた。

「行こうにも場所が分からないのよねぇ。鍵はママが死んじゃう前に預かってはいるんだけど……」

「知ってる奴に聞きゃいいんじゃね? それこそユーリとか」

「ママ以外誰も知らないのよ。何だったらパパや兄貴達ですら必死に探してたし、それでも見つからないんだから城の外なんだろうって」

「魔王が必死に探すほどなのか」

「宝石とか金貨だけじゃなくて凄いアイテムとか武具とかがあるっていう噂だけど、どこまで事実なのかはサッパリね。ママが生きてた時ですらパパ達には教えないって言ってたぐらいだし」

「どんな家族なんだ……」

「そういう物を与えて下手に力を持つとねぇ、それこそ平気でクーデターとか身内同士で権力欲しさに殺し合いしかねない一族だから……」

「ああ……そういうこと」

 すげえギスギスしてそうだな。

 とロイスは遠い目で小さく呟いた。

「実際パパだってママに勝てないから役職とかを与えずに飼い殺しみたいな扱いだったわけだし?」

「え? お前の母ちゃん魔王よりつええの!?」

「純粋な戦闘力だけならって話だけどね。大概の相手には極大魔法の威力任せでゴリ押ししても勝てるぐらい攻撃魔法特化だったのうちのママ。まあ強かったんだから」

「……お前も色々あるんだなぁ」

 亡き母を称えるクルムとそれを聞いて誇らしげに頷くネリス。

 そんな二人を見て、どれだけ凄かろうとそんな母ちゃんは嫌だなぁ。と、ロイスはしみじみと思うのだった。


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