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王女が攫われた報復に魔王の娘を攫ってきたら国外追放を言い渡されたので新世界の神になる  作者: まる


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【第五話】 家族


「忘れてたぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 静かな森の中に、ロイスの絶叫が響き渡る。

 頭を抱え、限界まで体を反らすその姿にクルムは突然の大声に驚く気持ちが半分、そんな大事なことを忘れるものだろうかと呆れる気持ちが半分といった様子で苦笑いを浮かべていた。

 だがここに至る事情を顧みれば考えれば余裕のなさを理解するのも容易なことだ。

 ゆえに口を突きかけたからかい混じりの指摘を飲み込み、話を聞いてみることにした。

「思い出したのがこのタイミングでよかったと思えばいいじゃない。ほら、聞いてあげるから座りなさいって」

 クルムは『ぬおぉぉぉ!』と言葉にならない叫びを上げながら上半身を振り回すロイスの肩を抑え強引に腰を下ろさせる。

 その隣では件の呼び名が原因なのかいつしか露骨だった嫌悪感も無くなっているネリスが何故か頭を撫でていた。

「あ、ああ……取り乱してすまん。つーか急に優しくなったなネリ……じゃなくてユーリ、だっけ?」

「…………」

「結局それかい……」

 態度の変化もさることながら無表情のまま、やはりスッと顔を背けるネリスにロイスもそろそろうんざりだった。

「まあまあ、慣れたらネリスもちゃんとデレてくれるから」

「敵視されなくなったのならもう何だっていいけどよ……」

「それで? あんたの家族の話だけど、親とかもあの町にいるの??」

「いや……両親はガキの頃に死んだよ。五年前にな」

「え、何かごめんね……」

「昔のことだ、気を遣う必要はない」

「そ、そう? でもさ、五年前って……」

「ああ。それがきっかけで俺は冒険者になった、事情が分かれば盗賊を選んだ理由にも合点がいくだろ?」

「手っ取り早く生きる糧を得るため、ってこと?」

「そういうことだ。依頼料や褒賞以外の実入りが多いし、討伐だったり調査だ探索だって物騒な仕事とは別に稼ぐ術もあるからな。俺一人ならどうとでもなったろうけど、妹三人養うにゃどうしても真っ当な方法じゃ、な」

「へぇ~、妹がいるんだ。しかも三人も」

「つっても、血ぃ繋がってないんだけどな」

「へ? どゆこと? 親戚的なあれ?」

「いんや、両親の友人の娘達なんだ。その友人が亡くなっちまって、うちの両親が引き取って、何年かしてうちの両親も亡くなって……簡単に説明するとそんな流れだ」

「同情なんてして欲しくないでしょうけど敢えて言わせてもらうわ。あんたも大概波乱万丈な人生歩んでるわね……」

「まあ、否定は出来ないというか自覚はしているというか。んで、その後俺が冒険者になって、そこからは別々に暮らしていたし兄妹関係にあることは誰にも明かしてないんだけど」

「え? 何で?」

「これも同じ説明になるかもしれんが、どうしても職業盗賊なんてもんは偏見の目を向けられがちだし、そうでなくとも俺は世間体なんてどうでもよかったし手段や方法の貴賤を問うつもりもなかったからな。そんな男の身内だと知れれば将来色んな場面で弊害が出るかもしれないと思ったんだよ。例え汚い金だろうと妹三人を不自由なく生活させることが最優先だったし、ぶっちゃけ勇者パーティーに抜擢されてからも汚い仕事はやってたしな」

「へぇ……意外と家族思いじゃん」

「ある日突然俺が養っていかなきゃならん立場になったわけだから、さすがにその辺はな。ま、今はもう上二人は成人して働きに出てるから養うつっても仕送りをしている程度なんだけど……今にして思えば二人とも国に仕えているから内密にしておいてよかったわ~。国外追放された奴の身内なんて知れたら肩身が狭くなること必至だからな。人生何が光明になるか分からんもんだ」

「……それは本心なの? それとも自虐ネタなの?」

「まあ、ぶっちゃけ半々なんだけども。どちらにせよここで思い出せたことは不幸中の幸いなんだが、今連絡するわけにもいかんからな。その辺りは後回しだ、まずは潜伏出来る場所を目指す」

「アテがあるの?」

「ああ。王都から西に半日ほど行くと聖十字領との国境があるんだが、その辺りの領地を治めているクロフォード辺境伯とは濃い付き合いをしていてな。助けてくれるかどうかは分からないけど、少なくとも取引が出来る相手ではある。とりわけ積む金がありゃ大抵のことは協力してくれるだろうし、悪くとも俺達を売ることはない」

「なーるほど」

「まずはそいつの所に行って、必要なもんを集める手伝いをしてもらう。ビジネスは出来ても信用するつもりはないから仲間に加えようとも思わないし、匿ってもらうつもりもないから安心しろ」

「あんたが言うなら別に不満はないけど、今からそこを目指すの?」

「ああ、今から向かえば日が暮れる頃には着くだろうし」

「マ、マロ……」

「ん? ああ、俺か。どうしたネ……ユーリ」

 今初めて名前を知っただけに呼び方を変える方はまだしもマロという謎の名前で呼ばれることには中々慣れないロイスだった。

 とはいえそう呼べと言われたならそれでいいという特に拘りのないロイスと違い、何故かネリスは黙り込み無言でロイスの頭を撫で始める。

「あのなあ、照れてるのか恥ずかしいのか知らんけど、無表情を貫くために黙るしかないところまでは大目に見るとしてもそれを誤魔化す手段が頭を撫でる以外にないのかあんたは……」

「ごほん。決して照れているわけではありません。それで、私はどうすれば?」

「ああ、一回魔族領に帰るんだろ? ペットを連れて来るんだっけ?」

「カラに事情を説明し、クルム様の私物を持ち出すつもりですが……直ちに、でなくとも構いませんか?」

「そりゃまあ、今すぐ持って来られても荷物が増えるだけだから急ぐ必要はないけど、何か用事でもあんの?」

「いえ、道中のクルム様の護衛が必要かと」

「なるほど、そいつは助かる。どうせ強いなら俺も守って欲しいけど」

「お望みとあらば」

 随分とあっさり受け入れてくれるようになったものだ。

 そんな感想を胸にロイスが旅の再開を提案すると、二人の同意を経て一行は森を出るべく馬車へと乗り込んだ。

 三人が並んで座る広さはないためネリスが綱を引き、その隣にクルムが、そして荷台にロイスが座って木々の間を進んでいく。

 その最中、ふと思い出したようにロイスが二人の背に声を掛けた。

「そういや聞きそびれてたけど、メイドの姉ちゃんは何か特殊なスキルとか持ってんの?」

 それは今後の方針や取り得る行動の選択肢を思案するべく知っておきたい情報である。

 照れている、いないの話を端折るべく呼び方を変えてみたロイスであったが、すがさず指摘が飛んだ。

 発信源は二人にも仲良くしてもらいたいクルムである。

「メイドの姉ちゃんって何よ。ちゃんとユーリって呼ばなきゃ駄目でしょ」

「駄目ったってそっちが会話不能になるじゃねえか。それでいけってんならいちいち照れてないで早いとこ慣れてくれっての」

「……照れてなどいません」

「もう無理あるよそのフレーズ! あんたもだいぶ頑なだな!」

「マロ、聞き分けが悪いですよ」

「俺が悪いの!?」

 傍目に見れば愉快な性格の二人に、人類共通の敵であるとされている魔族にも色々いるものだとロイスは人知れず苦笑を浮かべる。

 同じ人間に切り捨てられ魔族が仲間になるのだから人生分からないものだ、とも。

 人間同士だって国家間で戦争をする。

 魔族にだって長らく続く勢力争いがある。

 ならばクルムの提唱したどちらの勢力にも属さない自分達だけの国という話も、別段おかしなことでもない気がしてくるのだった。

「もう何だっていいけど、とにかく質問に答えてもらえると助かるんですけどねえ」

「とのことですが、問題はありませんかクルム様」

「うん、ネリスが嫌じゃなければだけど」

「お二方が互いに手の内を明かした以上隠すつもりもございませんので私も特に問題はありません」

 そこでネネリスは振り返り、ロイスと目を合わせた。

 今更クルムに話して聞かせる必要のない話だ、必然説明の対象は一人になる。

「魔族には人間が言う職業という概念はありません。我々はそれを性質(クラス)と呼ぶのですが、私は神官と暗殺者(アサシン)の二種類を極めています。戦闘は武器を用いての近接戦が主になりますが、スキルでいえば上級回復魔法や異常回復、アサシンのスキルとしては【隠密の行(ステルス)】という気配消しを持っていますので諜報、潜入、工作などは得意な部類かと」

「戦っても強い上に回復魔法使えるって……バケモンかよ、反則過ぎるだろ」

「そうなの、本当に戦ってもすっごい強いんだから。あ、でもさ、工作とか諜報? とかならあの三人も得意じゃん。なんだっけ、グルーム・イービル?」

「あ? 何だそれ」

深闇の悪魔(グルーム・イービル)……私の三人の部下、というよりは弟子達の通称みたいなものです。百年程前に貧民街で少々世話を焼いたことがありまして、それ以来今に至るまで私のために働いてくれています」

「百年前て……だいぶ人間の感覚とちげえんだよなぁ」

「ていうかあの三人も呼べばよくない?」

「そうですね。私がクルム様に付くと言えば無条件でこちらに加わってくれるかと」

「じゃあカラとその三人も連れて来てよ」

「承知しました。といっても城にはいないので招集を掛ける、というレベルの話にはなりますが」

「よろしくっ。問題ないわよねロイス?」

「まあ、お前らが絶対に大丈夫だと言い切れるなら文句を言おうとは思わんけども」

「間違っても私を騙したり敵対する道を選んだりはしないでしょう。自由に生きなさいといっても私の部下であることを選ぶような者達ですし、かといって魔王様に仕えているわけではありませんので」

「ならいいけど、さすがにこれ以上増やすのは今はやめておこう。いきなり大所帯になっても逆に動き辛くなる」

「大丈夫大丈夫。もう魔族領のどこを探しても私の味方なんていないから」

「それは本音なのか自虐なのか」

「もっちろん十割自虐よね」

「……笑顔で何言ってんだ。まあいい、とにかく先を急ごうぜ」

「おっけー♪」

 そんなやり取りを合図にネリスが操縦する荷馬車は一段階速度を上げ、木々の間を進んでいく。

 一人で国を追放されたはずなのにどんどん仲間が増えていくな、魔族ばっかだけど。

 と、荷台から空を見上げるロイスはぼそりと呟いた。



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