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王女が攫われた報復に魔王の娘を攫ってきたら国外追放を言い渡されたので新世界の神になる  作者: まる


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【第二十話】 一方その頃


 王都で()仲間たちが騒がしくしている頃。

 元凶とも言えるメイラーは対照的に穏やかな時間を過ごしていた。

 朝食を取ったのちは昨日と同じく外出するには機会を選ばないといけない立場ということもあって仮面の三人組以外は部屋で過ごしている。

 暇を持て余すクルムはカラと少しばかり庭を走り回って汗を流したばかりだ。

 その黒狼カラは戻ってからは相変わらず部屋の隅でジッとしているだけで特にアクションはない。

 何度かロイスやネリスが敷地内であれば外に出てもよいと伝えてはいるが特に了承や留意といった反応がないため、とりわけ付き合いが浅いロイスにとっては理解しているのかどうかも分からない状態であった。

 トイレは人間用の物を使っているらしい。という情報もあって余計に言葉が理解出来ない、或いは魔獣の特性とも言える知能が低い可能性も薄く、いまひとつどういう存在なのかが計りかねているのが現状である。

 分かるのはロイスが近付けば尻尾が盛んに動くので懐かれてはいるらしいということぐらいだ。

 少なくとも立場や身分の差は分かっているようでクルムが一緒でなければ部屋から出ようとしないため一人と一匹で食後の運動に出向いた次第である。

 そんな中、ロイスは再びテーブルに所狭しと書籍や資料を並べており、メイラーは山積みにした本を前にソファーで延々と読書に耽っていた。

 元来読書好きで知識欲が強いため空いた時間は基本的に一人で本を読んでいる。

 それゆえに放っておけば無害だが存在感が無く、それが一層人付き合いを嫌いや対話、友誼を嫌う性格なのだと認識される原因となっており周囲の人間も積極的に声を掛けなくなった理由でもあるのだが本人にその自覚はなく。

 稀に心無い指摘をされることもあったものの一人の時間、空間を好む質なので気にもしなかった。


「それで~? 今後の予定決まった~?」


 ものの一時間で暇な時間が戻って来たクルムはベッドの上で寝ころびながら読んでもいない本を捲っている。

 結局はそれも続かずロイスに絡むという解決法しか思い浮かばなかった。

「ひとまず引っ越しが済んだら昨日言ってた通り魔族領にあるお前達の根城に潜入して母ちゃんの宝物庫を探すってのが最初の作戦だな。その後は、今の俺達じゃこの国を標的にしようにも王都に出入りすることすら難しいからそっちはその辺の解決策を込みで計画を練らなきゃならん。のだが、だからといっていつまでも資料と睨めっこしてるだけじゃ何も進まんからな。並行して対魔族領の方も取り掛かっておきたいところだが、いかんせん知識が足らねえんだよなぁ。そっちの方の資料とか書物とかってないのか? 主に地図とか勢力図とかが分かるやつ。あと潜入するなら魔王城の地図も欲しい」

「そういうのってうちにあるのかな~。ネリス知ってる?」

「書庫はありますが……歴史書があるかどうかまでは把握しておりません。大陸の地図は探せば見つかると思いますのでまた持ち出しておきましょう。城の方の地図はそもそも存在するかも怪しいですが……」

「あれば、でいいからよろしく頼む。正直俺は二大勢力のことぐらいしか知らないからな、それもほぼ存在してるって事実だけ」

「現実には二大と言っていいかは難しいところですが魔王さ……魔王とは別の勢力が存在しているのは事実ですね。謂わば魔王の元を離れた者達で作った一派なのですが、大陸の片隅で勢力と領地を維持している程度だと認識されており脅威だとも思われておりませんので。とはいえ元幹部も何人かおりますし、元より魔王に属していない少数勢力や種族もいくつか吸収したと聞きます」

「なるほど、ね」

「それがどうかしたのですか?」

「いや、魔族属領ってのは人間にとっちゃ産業的にも魅力があるからな。先々の事まで考えると利用出来るもんと出来ないもんの見極めも大変だ」

「ロイスは追い出される前からずっとそうやって調べて考えてってのを徹底してたの?」

「そうだな。俺にゃその場凌ぎでどうにかする腕っぷしはない、小賢しく乗り切る頭はあってもな。だから計画を立てて、人の弱味に付け込んで生き残っていかなきゃならないのさ。そのために情報をひたすら叩き込んで、時にはリリーに聞いたり自分で調べたりして準備に時間と労力を掛ける。強さ云々を抜きにしてもそういう質なんだよ、勇者達といる時はあまり理解してもらえなかったけどな」

「要は勝つためなら何でもやるってことね?」

「悪い言い方をすりゃそういうことだ。世の中勝つか負けるか、奪うか奪われるかなんだ。過程や志、信念に高潔さを求めたところで得られるもんなんざ所詮第三者の心証に過ぎない。んなもん気にしてる奴が盗賊なんか選ばないさ」

「なーんか、開き直ったもん勝ち理論じゃないそれって?」

「ある意味ではそうだろうな。より一層人の目を気にしなくてよくなった分だけ手段や方法に制限が無くなっていくってもんだ。そう考えると早い段階であれこれと出来る味方が増えたってのはありがたい限りだよ。ま、行動に移すのは引っ越してからだ。今は精々こののんびりした時間を堪能しておけ」

「ちゃんとあたしの仕事も考えといてよね。っていうか、引っ越すなら家具とかも持ってこないといけないんじゃないの?」

「お前の私物をって意味か? そんなん持ってこれるもんのか?」

 ロイスの視線がネリスに向く。

 クルムは気付いていないが、質問したところで実のある答えが返って来るとは思わなかったからだ。

「家具の類……ですか、さすがに一人では難しいかと。というよりも、それ以前に姫様の部屋からそういった物が消えてしまうと不審に思われるのでは?」

「そらそうだ。どうしても持ち出したい物があるなら考えるが、そうでなければ必要な物はクロフォード卿から買う方向でいいだろう。どのみち長居する気はない、必要最低限でいいさ」

「へ? 引っ越して拠点にするんでしょ? 何で長居はしないの?」

「こんな国の端っこに浮かぶちっぽけな島を手に入れたところで俺達がやろうとしていることには見合ってないからだよ。準備期間に使う仮の住まいのつもりであって本拠地にするつもりはない」

「じゃあすぐにまた引っ越すの? どこに?」

「すぐかどうかは何とも言えないが、世界中に干渉し情報やら必要なもんを集めて、存在感を示すにはあまりに無理があるだろ? 一応目処は付けているが、どうやって手に入れるかはまだ考察中だ。諸々方向性が定まったらちゃんと報告も説明もするからちょっと待ちなさい」

 クルムのだらけた返事が返る。

 そうして再び静かな空間が生まれようとする中、その静寂は扉を叩く音が破った。

「ロイス君、私だ」

 聞こえてくるのはクロフォード卿の声。

 いい加減慣れてきたためかこの場合に限ってはネリスやカラも露骨な警戒心を露わにすることもない。

 声色から緊急の要件ではないと察しつつ、ロイスはすぐに出迎えるべく扉を開いた。

「どうしたんだクロフォード卿? 何かあったか?」

「忙しそうにしているところ申し訳ないが、昨日と同じ要件だよ。君にお客さんだ」

 クロフォード卿はちらりと、室内に目を向ける。

 テーブルに広がった地図や書物や暇そうに転がっているクルムを見て、どこか満足げに微笑んだ。

 そのクルムが何事かと興味深々で背後に寄って来る。

 対照的にそう暢気ではいられないのがロイスだ。

「なになに? また誰か来たの?」

「ご機嫌ようクルム殿。昨日と同じくロイス君にお客さんでね」

「いや待て待て。クロフォード卿、繰り言になるが俺達は国を追われた身なんだ。そうほいほい俺を探している奴を案内して来られても困る」

「ははは、それはいささか僕を見くびりすぎじゃないかい? それが理解出来ていないほど愚か者ではないさ。まだ君がここに滞在しているとまでは告げていない。ただどうにも刺客には見えないし、昨日のメイラー殿とは対照的に随分と必死の様子だったのでね。三人が三人とも君の妻だと言い張るし、ひとまず通して君に確認しようとやって来た次第さ」

「はあ? 妻ぁ?」

「え? ロイスあんた結婚してたの?」

「いやそんなんしたことねえわ。誰が俺と結婚すんだ……いやま待てよ? 間違っても事実ではないが、そう自称するってことは客は女ってことだよな?」

「そうだよ? 三人の、揃って若い女の子だ。うち二人は成人していると思われるが……名前は君に会わせてもらえないなら明かせないの一点張りだった」

「三人組の女……もしかしなくても、揃って金髪だったりしないか?」

「いかにも。君の反応からして夫人というのは事実に反するみたいだけど、その上で何か心当たりが?」

「ああ……そりゃ先日手紙を届けてもらった相手だ。というか、ぶっちゃけ俺の身内だ」

「あ、もしかしてこの前言ってた妹?」

「まさしく」

「ほう? 君に妹がいたなんて初耳だよ」

「少々複雑な事情があるもんでな、誰にも明かしてない。とはいえここまで来ちまったからには追い返すわけにもいくまいよ」

「それはつまり、対面するということでいいのかい?」

「そうなるな。冷静に考えてみりゃ手紙にこの場所を記したのは俺自身だし……決して追い掛けて来ないようにと念押ししたんだがこればっかりは見通しが甘かった」

「ふーむ、事情はよく分からないけど、僕は同席しない方がいいかい?」

「いや、最初は居て貰った方がいいだろう。余計な勘繰りをされても面倒だし、少なくとも現時点ではあんたが味方だって説明しておかないと後々面倒になりそうだ。色々口止めしなきゃならんこともあるだろうしな。そうわけだからクルムとユーリも一緒に来てくれ」

「オッケー」

「いきなり襲い掛かられても不味いから一応用心はしておいてくれ。リリーはひとまず待機でいい」

「ん、了解」

「そんな物騒な妹さんには見えなかったけど、クルム殿やネリス殿が魔族である以上そういう可能性は否定出来ないというわけだね。ところでメイラー殿は連れて行かなくていいのかい?」

「ああ、乗り込んでくるからにはまず間違いなく怒ってるだろうし、見てくれがどうであれ頑固な妹たちなんでな。話していいこと悪いことは探り探りになりそうだ。心配ないと伝えたとて大人しく説得されてくれるかは分からんが……そうなったらそうなった時に考える」

「了解した。では行こうか」

「ああ」

「カラもお留守番よろしくね~」

 四人は部屋を出て廊下を歩いていく。

 本人が言う複雑な事情がどんなものなのかと想像しつつ、その苦労人ぶり波乱万丈ぶりにある種の同情心を抱くクロフォード卿、ロイスの身内というのがどんな人物なのかと興味津々のクルムやネリス、そしてどう説得したものかと気が重くなっているロイス。

 それぞれが違った思いを胸に。



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