【第十八話】 結成
ダイア・メイラーを加えた四人は借り物の部屋に戻った。
開いた扉の先に仮面の三人組の姿は見当たらず黒狼のカラだけが部屋を出る前と同じソファーの横で視線を向けている。
「カラ~、留守番ご苦労様♪」
ぞろぞろと先程の位置に戻り順にソファーに腰掛けると、クルムはすぐに労いの言葉を投げ掛けた。
だが、そのクルムの分析通りに気に入られているのかカラは特に反応を示さずロイスだけを見上げている。
意味も理由も分かってはいなかったが全身から漂うペット感が毒気を奪い、言葉ではなく頭を撫でることで同じく『待たせて悪かったな』という意思を伝えた。
途端に尻尾が全力で暴れ出すが、やはり何がそうさせるのやらという疑問を再燃させながらも敢えて言及はせずロイスもクルムに続いて腰を下ろした。
「三人とも、出て来なさい」
ネリスが静かに呟くとどこに隠れていたのか即座に仮面の三人組が姿を現し、二人の正面に並ぶ。
その動きや音、気配の殺し具合に実力の程を把握したロイスは頭で戦力値を書き換えつつ、この光景を前にノーリアクションでいられるダイア・メイラーに若干引いていた。
「ししょ~、話し合いは終わったの~?」
「ええ、マロの仲間が追い掛けてきたとのことでした」
「リーダーの仲間ってその女の子?」
「ああ、紹介するから一旦座ろうぜ。リリーも座ってくれ」
ロイスが促すと、三人は許可を求めるようにネリスへと視線を向けたのちに同じく腰を下ろした。
メイラーは何の躊躇いもなくロイスの隣に腰掛け、背後にはネリスが立っている。
「こいつはダイア・メイラー。俺と同じく元勇者パーティーの一員で、大賢者マリオン・メイラーの弟子だ。率直に言えば俺と違って追放されているわけじゃないからここに来る必要性は無かったんだが、俺が居ないなら用は無いって勝手に抜けて追いかけてきたらしい」
「ほう、この少女がかの大賢者の弟子とは。といっても吾輩、件の勇者とやらすら顔も知らぬのですが」
「お前達でも知らないのか? 要警戒者リストには名前があったとさっきユーリから聞いたぞ?」
「名前ぐらいは知っているが、直接相見えることもなかったのでな。我等は裏の顔、表舞台にはそう縁が無い」
「イールの言う通り。師匠が幹部から外されてからは特にお役目が回って来ることもありませんでしたからな」
「戦闘も暗殺も無くなったからツマんないよね~。でも姫様やリーダーの部下になったらまたお仕事たくさんだよね?」
「ま、悲しいことに足りない物もやらなきゃいけないことも数え切れんぐらいあるわな。つってもすぐに殺すだの攫うだのって話にはならんだろうが……それでも潜入、工作、諜報、暗殺、そういうのに長けた味方がるってのは最高にありがたい。正面から戦争だ~、なんて方針を取り得ない俺達にはそういう嵌め手搦め手で敵を蹴落とすしかないからな」
「高尚な理由など求めはしない。今ここにいる面子で世界を敵に回そうというのだろう、ならば我等裏の顔は必要な仕事をやり遂げるのみ。心配は要らん」
「そうそう~♪ 汚れ仕事は任せてって感じ~?」
「いかにも。吾輩には解析のスキルもあるので他の部分でも役に立てますぞ?」
「……それって具体的に何なの?」
「鑑定の上位互換といったところですな。武器や魔法、マジックアイテムなどの仕様や構造を分析するというもので、ドワーフ特有の固有スキルと言えましょう。ただし鑑定能力と違って生物には発揮出来ませぬがな」
「へえ~、それもだいぶ心強いな。つくづく優秀な味方が出来たもんだと一縷の希望を抱きそうになるぜ」
「左様。師匠は当然のこと我等三人は有能なのです、魔王様はその価値を理解することなく王妃様と近しかったというだけで冷遇しておりましたがな。大将はそうではないと信じたいところですぞ」
「はっ、そんな馬鹿な指揮官にはなりたくないもんだ」
「そうならないことを期待しておく」
「だね~。っていうかリ~ダ~、結局その子は~?」
「ああ、名前はダイア・メイラー。魔法使いで、大賢者の弟子で……ってのはさっき言ったか。その肩書の通り魔法に長けているだけじゃなく直伝の……って言っていいのかは分からんが、膨大な知識量や記憶力も武器だな。戦力としても優秀だが、この通りコミュ障を拗らせている、そっけなくされても気を悪くしないでくれ。クルムやユーリもな」
「心得た」
「承知」
「了解~。でも~、勇者パーティーってことはリーダーを追い出したクソ野郎の仲間ってことでしょ~? そんな奴信頼していいのかな~?」
「ああ、問題ない。パーティーに加わる前からの付き合いだ、俺の妹分みたいなもんだと思ってくれればいい。マリオン・メイラーとの約束もあるし、俺と敵対したり俺を害することは基本的にない」
「ならオッケー♪」
「リリー、お前も俺に付いてくるならこいつらが新たな仲間ってことになる。今まで同様無理に仲良くしろとは言わんが、必要なコミュニケーションを取って協力や協調をするように。その必要な時はちゃんと俺が指示や説明をするから」
「ん、分かった。それで、ロイスは何をするの?」
「俺は人間の社会から追放され、クルムは魔族の社会から必要とされなかった。そこで俺達はそのどちらにも属さず、種族で区別しない新たな勢力を作る。それが目的だ。組織を作り、国に昇華させ、やがては世界に代える……というのが掲げた野望であり最終目標だが、まあ要約すると居場所も帰る場所もねぇなら自分達で作っちまおう。どうせ受け入れられるわけもないから力尽くでやっちまおう。ついでにムカつくこの国や魔王勢力はぶっ潰してしまおう。そういう集団ってわけだ。現実にそんなことが出来るのかと問われりゃそうは思わないし、俺にだってこの先どうなるかなんてサッパリ分からん。だがそうするしかないならやるっきゃないし、出来る全ての手段を駆使して実現させるつもりで挑む。志半ばで終わろうと野垂れ死ぬよりゃマシだろってなノリでな。てわけで何の保証もない、途方もない、ぶっ飛んだ頭のおかしい集団としか言えないのが今の俺達だ、引き返すなら今の内だぞ?」
「引き返さない。リリーは死なない、ロイスの助けになる」
「はぁ……分かった。堂々巡りは嫌いだ、お前がそれでいいならもう聞かん。付き合ってられるかって考えに変わった時には言ってくれ、咎めるつもりはないし素直にマリアンの所に返すから」
「ん」
「そんなわけだ、クルム、ネリス、カラもよろしくしてやってくれ」
二つの了承と同意が返るが、やはりカラは反応を示さない。
それでもロイスが頭を撫でてやると尻尾をブンブンと振り回すのだった。
「こうしてると本当にペットの犬みたいだな。いや、狼なんだろうけど……人懐っこそうな割に全然自発的に動かないよねこいつ」
「そうなのよねえ……」
何故か残念な空気に包まれる室内。
理解しているのかいないのか、カラは『何か?』みたいな表情で首を傾げるだけだ。
「はぁ、まあいいや。今後の予定や方針は早いうちに考える、まずはクルムママのお宝探しからになるだろうが、ひとまず今日は寝ようぜ。俺はソファーでいいからリリーをベッドに入れてやってくれ」
「その子ちっちゃいから一人増えても大丈夫でしょ。ていうかあたしもリリーって呼んでいい?」
「ま、もう俺との関係性を隠す必要も無いから本人が嫌でないなら構わん。周りにゃメイとか呼ばれてたからそっちでもいいしな。どうだリリー?」
「ん、別にいい。ロイスの仲間なら」
「じゃ、よろしくねリリー。あたしはクルムって呼んで? こっちはネリスね」
「……クルム、……ネリス」
「マロの妹分であれば私も偏見は捨てましょう。よろしくお願いしますダイア・メイラー」
「ん」
「で、仮面の三人はどうすんだ? 泊っていくのか?」
「否だ。ひとまずは引っ越すなら私物を回収してくる、数日後に発つのであればそれまでに合流する」
「了解だ」
「ならそれまでに皆の分の転移用魔法石も作っておくね。そしたら自由に行き来出来るようになるから」
「ああ、それも最優先事項の一つだな。つーかその魔法陣自体はどの程度の数を生み出せるんだ?」
「一度使えば消える物とは違ってあたしが破棄しない限り残る物だからねぇ、頑張っても五個から十個ぐらいじゃないかな」
「ふむ、まあ十分といえば十分だな」
「いくつもあった方がいいの?」
「自由に行き来出来るなら拠点以外にも移動出来た方がいいからな。拠点……つまりは今のところ引っ越し先と、この屋敷のどこかにもクロフォード卿に頼んで設置する。行き来するのにいちいち船出してたら効率が悪すぎるからだ。あとは今ある魔王の城も当然重要で、欲を言えばの国の王都にも仕込んでおきたいが……そのためにはクルムを一度連れて行く必要があるんだよなぁ」
「そういうことになるわね。でもそうしようにもあたしとロイスって今一番この国に入れて貰えない二人よね」
「それが問題だ」
「ていうか、そもそも何でこの国にも欲しいわけ? 何か行く予定や目的があるの?」
「それはこれから考える。だけど考えるまでもなく魔王の城と同様に敵の陣地に無条件で潜り込めるとか最強の手札だろ?」
「なーるほど」
「ああもう、どうにも説明したり考えたりを始めると際限無くなっちまう。とにかく今日は終わりっ、全員就寝!」
「そうだね、いい加減夜が明けちゃいそうだし睡眠大事」
「……お前は昼間も暇を持て余して寝てんじゃねえか」
こうして居候生活二日目は終わりを告げた。
深淵の悪魔とダイア・メイラーという四人が加わって。




