表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
すきま時間の短編【バスジャック】  作者: 伊藤宏


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/8

8.

最終話

 救助された人質の乗客は、一旦、中連警察署の会議室に収容された。怯えた表情で無事を喜びあっているなかに伊乃川茉莉と幼い娘、若菜の姿もあった。


 警察官からペットボトルの飲み物が配られ、被害者たちに、

 「怪我をされた方、ご気分の悪い方はいらっしゃいますか」

 と声が掛けられた。


 老女に付き添っている若い女性が手を挙げた。

 老女が怪我をしているようすはないがあの修羅場だ。貧血か高血圧か、自律神経がおかしくなっていてもおかしくない。女性ふたりは、警察官に手を取られて部屋を出て行った。


 茉莉は膝をすりむき、左の足首も少しひねっていた。でも黙っているつもりだった。このまま入院でもさせられたら日常生活に戻るのに時間がかかる。さっさと家に帰っておしめを替えてあげたい。それにミルクも。


 だが、考えが甘かった。

 このあと被害者事情聴取というのがあるらしく、元気な乗客は、これから別々の部屋に移されて犯行のようすについて警察官に話さなくてはいけないらしい。

 仕方がないので、年配の女性警察官に事情を話しておしめやミルクなどを用意してもらい、若菜と一緒に刑事課というプレートが掛かった部屋に入った。


 いくつかあるデスクには誰も座っておらず、未だ興奮冷めやらない警察官が落ち着かないようすで部屋を出たり入ったりしていた。


 お願いしたものが届いたので、今は談話室になっているという元喫煙室を貸し切りにしてもらって若菜のおしめを替え、水で薄めたアルカリイオン水を与えているとき、壁に貼ってあるポスターが目に入った。指名手配だ。


 そのうちの一枚に目が留まった。


 街中に貼られているのと違って、付帯情報が詳しく書かれている。

 侵入窃盗、スリ、通称宮永壮一。年齢不詳、四十代半ばから七十五歳くらい。

 若い女性とペアを組むことがある。

 ……。

 変装している可能性があるとかで、ポスターの下部にAIで合成した参考画像があった。その七十五歳バージョンは、バスで犯人を手玉に取ったお爺さんそっくりだった。そうすると、いっしょにいた孫らしき子が、たぶん弟子?


 その他の欄を読んだ。

 詐欺と侵入窃盗とスリの常習犯。令和の義賊を標ぼうし、不正な裏金を溜め込んだ家、悪徳金融業者らからの窃盗を専門にする。

 火器の扱いに長けている。

 犯行時には女性の弟子を同行し、見つかりそうになると老人と子供、或いは親娘と偽って相手を油断させる。

 女性は、年齢不詳、十四歳から二十代後半くらい。やはり変装が得意で、スリの技術がある。

被害額は……、え? 推定八億二千万円!

 有力な情報には賞金二百万円、とあった。

 全身が緊張で硬くなるのがわかった。


 バスのなかで、あのふたりと至近距離で対峙したのは自分だけだ。あとの乗客は車内の後ろの方に固まっていたから写真を見ても確信は持てないはずだ。警察官なら、こうして日々、犯人の顔を記憶に刷り込んでいるのだから気が付いたかもしれないが。


 あのふたりが指名手配犯であることを警察に言うべきだろうか。


 でも……。


 腕のなかでは、すっかり安心を取り戻した若菜が気持ちよさそうに寝息を立てている。その顔を見ているうちに茉莉の気持ちも次第に落ち着いてきた。


 よし、顔は怖くてよく覚えていなかったことにしよう。

 だってあのふたり、ちょっと荒っぽかったけど悪いことなんて何もしていない。

 むしろ、

 ありがと! お爺ちゃんとお弟子さん!


 若菜がそっと目を開け、茉莉の顔を見てにっこりと微笑んだ。



     《了》

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ