美咲と松茸1 五年目の別れ
五年という時間は、永遠の始まりだと信じていた。
秋の風が吹き抜けるキャンパスは、いつもと変わらない光に包まれているのに、花沢美咲には世界が別の場所に見えた。耳の奥には、彼の声がまだ鮮明に残っている。
――ごめん、美咲。俺、留学に行くんだ。だから……もう終わりにしよう。
終わり。
その言葉はあまりにも簡単で、あまりにも冷たかった。五年間の思い出も、何度も交わした未来の話も、彼と一緒に過ごすはずだった「これから」さえも、一瞬で無に帰してしまう響きだった。
午後の光に照らされながら、彼の横顔を見上げる日々が、あと何年も、そしてその先もずっとずっと続いていくのだと思っていた。
次の冬も、次の夏も、その次の季節も――彼と一緒に歩く未来が当然のようにあると信じていた。だからこそ、目の前に突きつけられた現実は、心の奥を冷たくひび割れさせる。
美咲はベンチに腰を下ろし、視線を足元に落とした。靴先の影が揺れている。呼吸を整えようとしても、胸の奥がきゅうと掴まれるように痛む。
笑った顔も、不意に差し伸べられる手の温もりも、二人で交わした約束も、まだ確かにここにあるのに――彼の未来には、もう自分はいないのだ。




