太輝とミネストローネ4
程なくして啓介はにやりと笑い、深皿に熱々のミネストローネスパゲッティを盛りつけた。鮮やかな赤のスープに、緑のバジルが映え、湯気が立ちのぼる。
目の前に皿が置かれた瞬間、太輝の表情は一変する。
「……っ!」
空腹の胃袋を直撃する香り。もう理屈はいらなかった。
「いただきます!」
勢いよくフォークに巻きつけ、スープと一緒に口へ運ぶ。熱さに少し顔をしかめつつも、噛めば野菜の甘味と旨味が広がり、トマトの酸味が後を引く。
「……このスパゲッティ! うめぇ」
心の底からこぼれた一言に、啓介は満足げに頷く。
しかし次の瞬間――
「だろ? でもなこれはスパゲッティじゃないんだよ」
「ああ、昔そんな事を言っていたな。これは細いからスパゲッティニというのが正しいとか何とか…」
「それもちがうんだよ、これは1.4mmのを使っているからフェデリーニと言って――」
太輝の表情が一気に固まる。フォークを止め、視線だけを啓介に向ける。
「……(いやお前最初にミネストローネ"スパゲッティ"を作るって言ってなかったか?)」
お構いなしに、啓介は身振り手振りを交えながら続ける。
「これがな、野菜の水分とオリーブオイルが絶妙に調和した瞬間なんだ。で、古代ローマの兵士たちも、豆と穀物を煮た似たような料理を――」
「ルネッサンス時代にはあのレオナルド・ダ・ビンチも――」
「でもヨーロッパでトマトが広まったのは元々――」
太輝は、スープを啜りながら心の中でうめく。
(くそっ、これさえなけりゃなぁ……)
しかし啓介は太輝の困り顔に気づくことなく、まだまだ語る気満々だった。




