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K’sキッチン 〜恋愛感情ゼロの美味しい料理〜  作者: pp
太輝とミネストローネ
3/57

太輝とミネストローネ3

啓介の部屋に入るなり、太輝は一瞬で包囲されていた。

コンロの上でコトコト煮える鍋、まな板に並んだ色とりどりの野菜、立ちのぼるオリーブオイルの香り。料理番組のセットかと思うほどの段取りの良さだ。


「さあ見ろ太輝! この玉ねぎの透き通り具合! ここまで甘みを引き出すのに約七分! だが焦げ目をつけすぎると苦味が勝つ! この加減こそ職人芸なんだ!」


啓介はしゃべりながらフライパンをあおり、にんじんとセロリを投入。鮮やかな手つきで木べらを操る。


――いや、確かに上手い。けど声のボリュームも調理と一緒に上がってないか?


太輝は椅子に腰を下ろしながら、もはや諦めの境地で見守る。


「それにな、このミネストローネは“残り物を活かす料理”とも言われていてな! 冷蔵庫の掃除をしながら地域ごとの特色が反映される! 料理ってのはつまり文化や歴史という科学! ほら、このトマト! 大航海時代に――」


ドンッとトマト缶を鍋に投入。その音まで解説の一部みたいに響く。


――ああもう、まさに実況つき調理実演だなこれ。


だが香りは否応なく食欲をそそる。トマトの酸味とオリーブオイルの香りが混ざり、鍋から立ちのぼる蒸気が部屋を満たす。


「パスタはアルデンテが命! だがスープに浸すと時間で柔らかくなる! だから――」


「……もういいから、早く食わせろ」


太輝がぼそっと漏らす。だが啓介は聞こえていない。いや、聞こえていても止まれないのだろう。


「この瞬間に入れるのがベストなんだよ! そうすると、見ろ、パスタがスープを吸い込んで――これぞ化学反応!」


――そうだな、わかってた。お前の辞書に「黙々と調理する」って言葉はない。


結局、鍋を前にしても太輝は無言の抵抗をやめた。ただ腹の虫に従って、完成を待つのみだった。

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