美咲と松茸6
「……自分で捕ってきたものを食べるって、ほんとうに贅沢なことなんですね」
美咲は素直にそう感想をもらし、少し頬を赤らめて啓介を見た。
その視線に気をよくしたのか、啓介の表情は柔らかく、どこか誇らしげだった。
「そうだね。旨いもんを自分で見つけてきて、自分で料理する。それが一番いい」
啓介は日本酒の盃を指先で軽く回しながら、ふっと目を細めて思い出すように話し出した。
「自分で取ってきた食材で料理するのは本当にいいよ。そういえば、前にシーバスを釣ってきたことがあったんだ」
「シーバス……お酒ですか?」
美咲が目を丸くすると、啓介は少しだけ優しく笑った。
「それは、シーヴァスだね。こっちはバス。ブラックバスとか有名かな。海にいるバスだからシーバス。」
「大きい物だと1mを越えることもあるんだ。あれはいろんなところで釣れるんだけど、ちょっと沖に出て釣ったやつは身がしっかりしていて美味いんだよ。釣り上げた瞬間の銀色の光沢なんて、まるで海の宝石みたいでさ」
語る口調は熱を帯び、生き生きとしたものが混じっていた。
「料理は色々あるけど……やっぱりシンプルに塩焼きが一番だと思う。よくも悪くも素材の良さがそのまま出るから、美味しいシーバスじゃないとだめだけどね。炊き込みご飯にしても美味いよ」
彼は手を広げるようにして説明し、まるで湯気と香ばしい香りがそこに立ちのぼっているかのような臨場感を添えた。
盃を口に運ぶと、また松茸の香りがふわりと広がり、二人の間に静かな余韻が流れた。