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K'sキッチン  作者: pp
美咲と松茸
11/17

美咲と松茸5

一応補足

これを読んで真似しよと思う人はいないとは思いますが、潜在的に大きな問題があることにご留意ください。

詳しくは後書きにて、

松茸ご飯を食べ終えた頃、啓介は次の料理を準備しながら、美咲をちらりと見た。

「ねえ、花沢さん。今日は、なんか元気なかったよね」


美咲は箸を持つ手を止めた。問いかけられるとは思っていなかった。胸の奥にしまい込んだ痛みが、今にもこぼれそうで、慌てて小さく笑みを作る。

「……ちょっとね。まあ、いろいろあって」


啓介はそれ以上追及せず、うなずいた。だが次の瞬間、真面目な声で続ける。

「言いにくいなら無理に言う必要はないよ。でも、言葉にしたら少しは軽くなることもあるんだよ」


その言葉に、美咲は目を伏せた。確かにそうかもしれない。けれど、五年間を共にした恋人に振られた話を、この人に打ち明けるなんて……。


黙り込んだ美咲に、啓介はふと立ち上がり、冷蔵庫を開ける。

「じゃあ、別の方法を。言いにくいなら酒の力を借りるってのもアリだよ。話さなくても、お酒は心を軽くしてくれる。いまちょうどいいのがあってね」


ごそごそと瓶を取り出すと、透明なガラスの中に澄んだ液体が揺れた。ラベルには見慣れない銘柄。

「長野の酒だよ。松茸と一緒に飲むと最高なんだよ」


正直、美咲は日本酒があまり得意ではなかった。独特のクセと辛さが苦手で、居酒屋でもほとんど口をつけたことがない。だが、土瓶蒸しと炊き込みご飯の香りがまだ残るこの空間で、啓介が注いだ盃を手にすると、不思議とためらいは薄れていた。


一口、舌に乗せる。

――ふわりと広がる果実のような香り。後味は軽やかで、松茸の余韻と溶け合うように喉を通り抜けていった。思わず目を見開き、そして小さく息を漏らす。

「……美味しい。日本酒って、こんな味がするんだ」


啓介は満足そうにうなずき、また松茸を切り分けながら言った。

「酒も料理もそうだけど、相性って大事なんだ。うまく噛み合うと、普段苦手なものでも別の顔を見せてくれる。人間関係も、案外そうかもしれないよ」


その言葉が、胸の奥にじんと染みた。盃をもう一度口に運びながら、美咲は、自分の中の痛みがほんの少し溶け出していくのを感じていた。




もう少し飲めば、口を開くことができるだろうか。そんな期待と、やっぱり言えないという抵抗感が胸の中でせめぎ合って、美咲は盃を弄んだまま黙り込んでいた。


その沈黙を、啓介はまるで気にも留めないように破った。

「そういえばね、今度の松茸狩りはなかなかの大冒険だったんだ」


彼は茶碗を置き、身振りを交えながら語り始めた。

「松茸の穴場は人が入らない場所だから、道なんてないんだ。人が入るとすぐに見つかってしまうからね。しかも松茸は雨が降った後、一斉に出てくるんだ。だから雨が降ったら夜でも採りにいかないと他の人に先を越されちゃうかもしれない。だから夜でも山に登るんだ。それで山の斜面って、濡れていると思った以上に滑るんだよ。で、ちょうど北側の斜面がさ、結構急なんだけど、登ったところに松ばっかりが生えている場所があってね。その根にそって菌根が広がってて――あの松茸の群生を見つけたときは鳥肌が立ったな。松茸って、育つ環境が絶妙で、同じ場所でも十年に一度しか生えないこともあるんだ」


美咲は「また始まった」と思いつつ、盃を唇に運んだ。

香ばしい余韻を残す松茸と、ほんのり甘い日本酒。味わいながら耳に入ってくる啓介の声は、不思議と心を圧迫しなかった。


「今日の箱はまさにそれ。あの瞬間は宝探しみたいでね。地面をかき分けたら、にょきっと松茸が――」


彼の顔がぱっと明るくなる。目を輝かせ、まるで子どものように松茸の話を続けている。

その熱量に、美咲はふと肩の力が抜けるのを感じた。沈黙していても責められない。無理に気を遣わなくても、この人は勝手に話し続けてくれる。


盃の中で揺れる日本酒を見つめながら、美咲は小さく息をついた。

――このまま話を聞いているだけでもいいのかもしれない。


松茸狩りや山菜採りなどは、許可のない場所で行ってはいけません。知らない人の土地で無許可に採取すると、森林窃盗罪などに問われる可能性があります。

また、里山でも危険が多く、遭難や滑落などを始め、クマやイノシシなどの野生動物と遭遇など、身体や生命に重大な事故が起きる可能性もあります。十分になれていない山はもちろんですが、特に道のない所や、雨の中、夜や早朝は特に危険です。


ちなみに啓介は、知り合いが所有する山にその人と入っている設定です。

ただ、現実として、昔から地元に住んでいる人が勝手に他人の山で山菜や松茸などを採っていってしまうケースはあります。本来は犯罪になるのですが、そういったことを気にしない時代から行われていたことで、あまり目くじらを立てても角が立つため見過ごされていました。


時代の移り変わりもあり、それに伴った変化もありますが、犯罪や危険な行動は、くれぐれもしないようにしてください。

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