第9話 絶望する都賢秀
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砂漠を横断しながら次元を開ける場所を探していたが、都賢秀はレトムの視線が気になっていた。
「何だよ?なんでそんなにじっと見てるんだ?」
レトムは次元を再び繋げて連盟の横暴を防いでほしくて彼を選んだだけで、他に望んでいることは何もなかったし、ここで争わずに立ち去ることにも全く不満はなかった。しかし……
少しの同情も見せない都賢秀を見て、「こんな人間もいるんだな」と思った。
<…人間になってどうしてそんなに冷酷でいられますか?>
「俺のどこが冷酷だっていうんだ?!それなら食料を分けてやってくるべきだったっていうのか?」
<もちろん我々の都合もあるのでそんなことを望んでいるわけではありません……でも少しの同情も見せないとは……すごいですね。>
「そういうこと言うから人間がおかしくなるんだ!嘘をつく奴らに俺がなんで同情しなきゃならん!」
<え?嘘だと?>
「盗賊なんていない。奴らは俺の食料を手に入れるために嘘をついたんだ。」
<心理学者でもないのにどうしてそんなことが分かるのですか?>
「俺は過去にそんな奴らを一度や二度くらい経験したと思ってるのか?見るだけでわかるんだよ!」
レトムは人の心を見抜く機能は持っていないので、村人が嘘をついたかどうかは判断できなかった。
<…もし本当に盗賊団がいたらどうするつもりですか?>
「いたらどうしろってんだ?まさか村人の言う通り本当に殺したり誘拐したりすると思うか?せいぜい集めて殴るくらいだろ……それに絶対盗賊団なんていないから心配すんな。」
レトムはなぜそんなに確信できるのか分からなかったが、一つだけわかったことがあった。
<なぜそんなに盗賊団がいないと確信できるのかと思ったら……怖いからでしたか。>
手が震え、心臓が速く打っているのを見て、レトムの結論に都賢秀は「グサッ」と刺さったのか、わざと大きな声で叫んだ。
「誰が臆病者だって言った?!」
<はっきりとは言ってませんが?どうやら都賢秀さん自身が自分が臆病者だと自覚しているようですね。>
「誰が臆病者だって言った、このクソガキが!!!」
プライドに傷がついた都賢秀は猛然と吠えたが、レトムは微動だにしなかった。
<小さな少年に手を握られて怖がって振り払った方が臆病者でなければ誰でしょうか?>
「そ、それは……」
小さな少年の手を怖がって振り払ったと言われると、なぜか反論しなかった。
<それに盗賊団がいると言われてすぐ逃げ出した……世の中にはそういう人を臆病者と言います。まさに都賢秀さんのような方を。>
「それが本当なら誰でもそう思うか?俺はただ戦いが嫌いなだけだ!!」
<戦いができないからではないのですか?>
「違う!!」
<安心してください。男が戦いが苦手でも恥じることはありません。>
「俺は稲妻のような拳を持つ都賢秀だぞ!!俺の稲妻の拳を避けた奴がいると思うか?!」
武器商人の前では岩の拳と言い、今回は稲妻の拳と言う都賢秀……
とにかく自分が戦いが苦手ではないことを証明しようとレトムに左手のジャブを放ったが……
ヒュッ!!
レトムは首を少し動かすだけで簡単にかわしてしまった。
「おや?」
<男がその拳で何をする?ハエも止まらんぞ。>
「こ、こいつめ……」
都賢秀はプライドにもう一度傷がつき、今度は連打したが……
レトムはリスのように素早く避け続けた。
「はぁはぁ……くそ……」
結局一発も当てられなかった都賢秀は体力が尽きて腰をかがめて荒い息をしていた。
<戦いが上手い人を選んだわけではないので落ち込むことはありません。>
「はぁはぁ……相手を倒すのは俺の役目だ……」
もう155番地球でやることは終わった。出発の時だ。
「でもどこに行けばいい?」
<次元が閉じた地球へ行かなければなりませんが……都賢秀さんはまだ予備知識が全くないので、まずは訓練をしましょう。>
「訓練?」
<はい。次元を越えるには頭の中に強いイメージを描く必要がありますが……都賢秀さんは現在、他の地球の情報を全く持っていないので、私が示すイメージを見て覚えるのが最初の訓練です。そして……>
「まだあるの?」
<正確な位置にゲートを開く練習が必要です。前のように空中に開けて落ちないようにね。>
自分の黒歴史をまた持ち出すレトムに都賢秀はむっとした。
「もうちょっと言い方を考えてくれよ。」
<言い方を変えたからって実力がつくわけではないでしょう。さあ、練習を始めましょう。>
「くそったれ……」
都賢秀はレトムが用意した訓練プログラムを始める前にふと思った。
「これを終えたら昨日みたいに砂漠を横断する必要もなくて、簡単に移動できるようになるのか?」
<ゲートという言葉に誤解があるようですが、次元ゲートはあくまで異なる地球と地球をつなぐもので、同じ地球内の移動はできません。自分で移動しなければなりません。>
「それは残念だな……」
<余計なことは言わずに早く始めましょう。>
「本当に言い方がきついな……」
ぶつぶつ言いながら訓練の準備をした。
*****
都賢秀は過去3日間、レトムが準備した訓練をこなしていた。
次元が閉じた地球の情報をひたすら暗記しイメージを作り、ゲートを正確な位置に開く練習をしていた。
<……もう少し集中してください。>
ゲートを作るには頭の中でイメージを描いて実現させなければならず、少しでも気が散るとサイズが小さくなって通れなかったり、別の場所にできて事故が起きたりする。
<若いからでしょうか……そんなに雑念が多いのですか?>
「うるせえ……集中するのがそんなに簡単だと思うか?」
都賢秀は何か別のことに気を取られて集中できていなかった。
<……リンのいる村がそんなに心配ですか?盗賊がいるかどうか?>
「俺が心配するわけねえだろ……そんな嘘をつく奴らを……」
<……正直じゃないですね。都賢秀さんも彼らが利益を得るために嘘をついているのではないとよくわかっているではありませんか。>
レトムは内心の葛藤を見抜かれ、都賢秀は口を閉ざした。
「…人を騙して利益を得ようとする奴らは世の中に腐るほどいる。腹が減るとやれることがなくなるんだ。」
<盗賊がいなければそれはそれでいいことです。しかし彼らが飢えているのは事実です。>
10年分の非常食があるので少しくらい分けても大きな損害にはならない、非常食を分けてはどうかと提案した。
都賢秀は少し葛藤したが……
「もういい。」
<なんて冷酷な人だ。>
「…俺はもう誰も助けずに生きていくことにした。」
<え?>
レトムは何を言いたいのか聞こうとしたが、都賢秀は再び口を閉ざした。
どうやら言いたくない傷ついた過去があるようだった。
<…わかりました。それならそれ以上は触れません。>
「そうか……」
<だから集中してください。村のことを気にしないと言ったのは都賢秀さんですから。>
「…くそったれ。」
都賢秀は重くなった空気の中、少し休もうとしたが、勘の良いレトムに阻止された。
<はい!小言はやめてさあ始めましょう。>
「本当に情け容赦ないな……あれ?!」
レトムが都賢秀に再び訓練を促すと、砂丘の向こうから泣いている子供が歩いてきた。
その子は村で都賢秀の手を握って助けを求めた少年だった。
<あの子……あの孤児院の少年じゃ……あっ?!都賢秀さん!!>
レトムが少年を認識し話していると、都賢秀は素早く子供に駆け寄った。
少年は近づいてくる大人を見て顔を上げたが、自分を痛めつけた都賢秀と分かり怖がって逃げようとした。
だが、子供の歩く速度で大人のスピードを振り切ることはできず、すぐに捕まってしまった。
「うわああん!許して、助けて!」
怯えた子供が泣きながら許しを請い、レトムも村人を疑う都賢秀が、少年が自分の荷物を狙ってここまでついてきたと思い、害をなそうとしているのではないかと心配した。
<落ち着いてください、都賢秀さん!!まだ子供じゃないですか?!>
「お前なんでここに一人でいるんだ?!村人は?!子供たちは?!リンは?!」
しかし、都賢秀が子供を掴んだ理由は、子供が一人で砂漠をさまよっているのを見て村に何か異変が起きたのではないかと心配していたためだった。
「うわああん…悪い人たちが来て…大人も…姉さんたちも…うわあん!!」
少年が言う悪い人たちが盗賊だと、都賢秀もレトムも分かった。
<…本当に盗賊がいたようですね。>
レトムは残念そうに暗い顔をしていたが、都賢秀の顔は怒りで燃え上がっていた。
そして子供を抱きかかえ、村があった場所へと走った。
<都賢秀さん!!どこに行くんですか?!>
突然の行動にレトムは驚き、追いかけようとした。
しかし普段の弱い体力はどこへやら、砂漠を高速で走り、村のあった場所へ向かった。
子供を抱いて砂漠を走っても疲れず、止まることなく走り続け無事に村へ到着した。
だが、都賢秀とレトムが直面したのは……
燃え盛る建物の中に散乱した遺体ばかりだった。
<こ、こんなことが……>
あまりの惨状にレトムも言葉を失っていた。
その時……
「キャアアアアッ!!」
生存者がいるか悲鳴が聞こえ、急いで向かうと建物の中で女性二人が炎に閉じ込められていた。
「もう少し待ってくれ!!」
そして村長は彼女たちを助けるために砂をかけて火を消そうとしたが、老体のせいか難しそうだった。
<中に人が……>
レトムは残念そうに言葉を続けられなかったが、体が先に動いた都賢秀は村長を追い越して炎の中に飛び込んだ。
「若者よ?!」
<何をしているのですか、都賢秀さん?!>
炎の中に飛び込んだ都賢秀を見て村長とレトムは驚いて叫んだが、都賢秀は軽々と女性二人を抱き上げて炎の中から出てきた。
<この男は一体……>
突然超人的な姿を見せる都賢秀を見て、レトムは目の前の男が自分の知っている都賢秀で間違いないか疑っていた。
「なあ、若者よ?!なぜここにいる?なぜ戻ってきたのだ?!」
「それよりこれがどういうことだ?!」
村長はなぜ戻ってきたか尋ねたが、都賢秀はただ子供たちとリンの無事を尋ねた。
「…獣のような奴らがもうこの村で搾り取るものがないと思ったのか、男たちは皆殺しにし…火をつけてから去った。念のため女たちには出るな、家にいろと言ったのに火までつけてしまい、女性たちも全て犠牲になってしまった。」
盗賊たちがすでに来て、すべてを焼き払って去ったという話を聞くことになった。
「こんなことが……こんなことが……一体俺は何をしていたんだ……」
都賢秀は自責の念で胸が張り裂けそうだった。
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