第8話 盗みせざるを得なかった理由
8月3日までは毎日12時と20時の1日2回更新となります。
砂漠の砂丘の向こうに建物が見えると、都賢秀は足を速めた。
「人の大事な荷物を奪ったあの小僧をちゃんと懲らしめてやらなきゃ!」
しかし少女を叱る気満々で歩みを急いでいたのだ。
<幼い少女に対して暴力を振るおうとは…みっともないことです。>
少女に会って軽く頭を叩くか、お尻を叩くか、どうやって躾けるか考えながら歩いていた都賢秀は、レトムの横やりに興ざめした。
「うるさい!盗みはダメだと叱らなきゃいけないだろう。」
<なら言葉でうまく諭せばいいではないですか。幼い少女に暴力を振るうのが大人のすることですか?>
「いや、それは…まあ、言われてみればそうだけど…」
都賢秀とレトムがやり取りしている間に、いつの間にか村に到着していた。
武器商人が教えてくれた少女の村は、市場と同じく今にも崩れそうな建物が立ち並び、その間に人々が集まって暮らす場所だった。
ただ一つ違うのは…
「旅人様…お金を一銭だけ…」
「旅人様…どうか慈悲を…」
市場でも飢えて物乞いをする人はいたが、多くは商売をし余裕のある普通の村だった。
しかしこの村は全員が飢えているのか、骨と皮ばかりでみすぼらしい姿で物乞いをしていた。
「おかしいな…155番地球がどんなに荒れ地になったとしても、人口が一千万もいるなら食べ物があって生き残っているはず…なのにこの村はなぜこんなに飢えた人が多いんだ?」
<…おかしいのはその部分ではありません。>
「え?じゃあ何がもっとおかしいんだ?」
<少女は確かに我々の非常食を盗んで逃げました…では、ここにいる人々はなぜ飢えているのでしょうか?>
「使い方を知らなかったからじゃないか?俺も初めてでわからなかったしな。」
<それはありえません。キューブ型非常食は155番地球で開発され、1番地球など様々な場所に普及しています。>
慢性的な食糧不足に苦しんだ155番地球は、食べ物を加工して保存する方法に多くの研究と投資をし、小さく長期間保存可能なキューブ型レトルト食品を開発したという。
<そんな人々がキューブ型非常食の使い方を知らないという説明にはなりません。>
「聞いてみると…確かにそうだな?」
<…疑問だらけの村ですが、とにかく少女を…>
レトムが少女を探しに行こうと言った矢先、村人たちに囲まれてしまった。
都賢秀は、貧しい村に住む人々は飢えに疲れてよそ者を盗人と思うと聞いたことがあった。
何の目的で集まったのか心配していると…
「若者よ。これは一体何だね?」
「え?」
老人の一人が何かを指差してこれは何かと聞いた。
老人が指差したのは…なんと
「この餅のようなものか?」
「レトムのことか?」と都賢秀が尋ねると、老人たちはうなずいた。
しかしレトムは普段は姿を隠し、他人に見つからないようにしているのに、なぜここでは皆に気づかれるのか不思議に思った。
「他の人には見えないんじゃなかったのか?」
<…クロークは大量のエネルギーが必要です。今は姿を現しているのです。1番地球では色々事情があり…!!>
「おいおい!!」
突然大声を出して話を遮った都賢秀に、レトムは額に血管が浮き出てしまった。
<本当に…AIの話を途中で遮るのはやめてください…おいおい!!>
話を遮るなと抗議していたレトムも、何かを発見して大声をあげた。
「あれ…あの時のあの子じゃないか?!」
<そうです。私のデータベースに登録されている特徴と同じです!>
都賢秀の荷物を盗んだ少女を見つけたのだ。
「え?!あの奴ら、ここにどうやって…」
少女も都賢秀が村にいるのを見つけ、すぐに逃げ出した。
「おい、そこのやつ!!」
少女を追いかけて走った。幸いこの地球に数日間滞在して暑さに慣れ、村の中で砂漠のように足が埋まることもなく、少女を追うのは簡単だった。
「この悪いやつめ!!」
少女は都賢秀に首筋を掴まれ、逃げられずもがいているだけだった。
「放せ!!」
「うるさい!俺の荷物はどこだ?ひどい目に遭いたくなければすぐに…」
「ちょっと…若い人よ…」
都賢秀が少女の首筋を掴み取り調べていると、老人が近づいてきて止めた。
「リン。この子が何をしたのかわからんが、まだ幼い子だ。あまりひどく扱わず許してやってくれ。」
都賢秀は老人のおかげで少女の名前が分かったが、正直どうでもよかった。
「…おじいさんはどなたですか?」
「この村の村長じゃ…どうかリンを放してはくれまいか?」
「俺の荷物を全部返してくれたら放す。」
「荷物だと?まさかまたお前は?!」
村長は荷物を返してもらおうとする都賢秀の言葉にリンを睨んだ。
「また盗みを働いたのか?!」
「で、でも…納品の日がもうすぐで…」
「それでもだ…我々が苦しくても人の大事な荷物を盗めば、我々と何が違うというのだ?!」
「す、すみません…」
「納品の日」や「奴ら」など何のことか分からなかったが、都賢秀は自分の荷物さえ返してもらえればそれでよかった。
「もういい。さっさと荷物を返せ。そうすれば立ち去る。」
「…わかりました。」
リンはもう逃げる気はないのか素直に案内し、都賢秀は掴んでいた手を解いた。
リンの後について彼女の家に行くが、なぜか村長もついてきた。
屈強な男が幼い少女の家に行くのを心配しているようだった。
都賢秀はリンに案内されて歩き、村の端にあり古びた建物へ案内された。
「お姉ちゃん!!」
「ただいま、みんな。」
リンが来ると、なんと6人もの子供たちが飛び出してきてリンを歓迎し、リンも子供たちをぎゅっと抱きしめた。
「ここは何だ?子供がこんなにたくさんいるのか?」
大人もいない、子供だけの家を見て不思議に思っていると、村長が説明してくれた。
「ここは孤児院じゃ…」
「孤児院ですか?!」
孤児院という言葉を聞いて、子供だけが住んでいる理由が理解できた。
こんな荒廃した世界でも子供を世話する施設はあるのだなと考えていると…
「でも孤児院と言いながら大人はなぜいないんだ?院長とかいるだろうに。」
「そ、それは…」
単なる疑問の質問だったのに、村長は答えられずに言葉を濁していた。
しかし単なる好奇心で、特に知りたいわけでもなかったので関心を切ることにした。
「リンと言ったな?早く俺の荷物を持ってこい。」
「わかりました…」
リンは中に入り鞄を持ってきた。
都賢秀は鞄の中を調べて、なくなった荷物がないか確認した。
「これがキューブ型非常食で、そして…でもキャンプ用品と衣服も入っていると言っていたのに、なぜ小さなポーチが二つしか入っていないんだ?」
確か旅行に出る前にレトムが非常食とキャンプ用品、衣服を用意したと言っていたのに見当たらず、リンがまた隠したのかと思った時…
<全部ありますのでご安心ください。>
「え?でもキャンプ用品も衣服もないじゃないか。」
<それは…>
「あのっ!!」
レトムが何か説明しようとしたところ、リンが二人の会話に割って入り、必死な顔で頼んだ。
「鞄の中のあれ…キューブ型非常食ですよね?!前に本で見たことがあります!」
「もしそうならどうするつもりだ?」
都賢秀は自分も大人げないことはわかっているが、リンのおかげで苦労した記憶がよみがえり、つい素っ気ない声になってしまった。
「ずうずうしいことは承知していますが…非常食を少し分けてもらえませんか?!本当に少しだけでいいんです。」
「ずうずうしいことをよく知っているなら口に出すな。」
厳しい態度の都賢秀にリンは一瞬ひるんだが、それでも引き下がらなかった。
「それがなければ私と弟たちはみんな死んでしまうんです!」
「な、何だと?!」
都賢秀の荷物がなければ弟たちがみんな死ぬという、それはいったい何の話かと思った時、レトムが村を指差して付け加えた。
<村の状況を見れば納得できます。>
レトムの言う通り、村の人々は皆飢餓に苦しんでいた。
子供たちはもちろん村の人も何かを食べられなければ今月を乗り切れそうにない様子で、死ぬかもしれないという言葉は不思議ではなかったが…
村長の言葉には少し驚いた。
「実はこの村は盗賊団に占領されているんだよ…」
「盗賊団?」
「そうだ…実は我々の恥部を晒すようで言葉を控えていたが…孤児院を管理する大人がいない理由も盗賊団のせいだ…毎月予定された納品日を守らなければ見せしめとして大人は殺し、子供は奴隷として売るために連れていってしまう…」
村を搾取し、言うことを聞かなければ人を殺す盗賊団がいると聞き、都賢秀は急いで荷物をまとめ始めた。
<…何をなさっているのですか?>
「何って!聞かなかったのか?!盗賊団がいるって言ってるじゃないか!捕まって一緒に殺されることがあるかよ?早く逃げるんだ!」
盗賊がいるので危険だから逃げようという都賢秀の言葉に、レトムはため息をついた。
たとえ世界を救うために助けを求めたとしても、盗賊団退治のようなことまで頼んだわけではなかった。
その前に都賢秀は大切な次元の繋ぎ手であり、自分の目的のためにも危険に向かうことを避けるべきだった。
だから盗賊団を避けて逃げようという彼の反応は嬉しいが…
「あの…」
都賢秀が荷物をまとめて去ろうとした時、孤児院の子供たちの中で一番幼そうな男の子が都賢秀の手を掴んだ。
「うう…お願いです。おじさんは銃も持っているし…私たち…みんな死んじゃうんです…」
幼い少年が泣きながら助けを求めていたが、都賢秀の表情は一瞬で硬くなった。
そして少年を強く振り払った。
「離せ!!!」
都賢秀が少年を投げ飛ばす勢いで強く振り払ったため、幼い少年はバッタリ倒れてしまった。
「うわあああん!」
都賢秀のせいで倒れた少年が痛がって泣くと、リンが近づいて少年を支えながら都賢秀に叫んだ。
「何をするの!!」
レトムと村長も子供に酷いのではと言おうとしたが、暗い顔で冷や汗をかきながら思いに沈む都賢秀の姿に言葉が出なかった。
<…都賢秀様?>
レトムが呼ぶと都賢秀はハッとして我に返った。
「な、何だ?」
<大丈夫ですか?急にどうしたのですか。>
「あ、何でもない…」
都賢秀は何でもないと言ったが、彼の心臓が早く打っているのを見て、心理状態が不安定になっていることがわかった。
<それならよかったのですが…まだ幼い少年にあまりにも冷たいのではありませんか。>
幼い子に酷いのではというレトムの言葉に、都賢秀は少年を再び見たが、まるで謝っているようでもあり、怯えているようでもある非常に複雑な表情で見つめていた。
すると少年が怯えた顔で見つめ返すと、都賢秀はハッとして顔をそらした。
「もう行こう。」
都賢秀は子供たちや村人たちを無視して、結局立ち去ってしまった。
「ちっ!そんなたくさんの食料を持ってどれだけいい暮らしをしてるんだ、悪魔め!!」
助けを拒否して去る都賢秀に、リンが叫んだが、彼は振り返りもせず砂漠の向こうへ去っていった。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
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