第71話 追われる少女
順調に都賢秀の新しい装備を購入できたので、次は子龍の番だった。
「僕はこの防弾チョッキさえあれば十分です。剣はいらない。」
子龍は防弾チョッキだけあればいいと言っていた。
レトムの計画では、子龍にも都賢秀が着ている防弾チョッキを着せて、彼の剣である“天雷”の刀身部分を都賢秀の短剣と同じ高周波剣に改造させるつもりだった。
だが……
「私の剣、天雷は皇室から下賜された宝剣です。この大切な剣を勝手に改造するわけにはいきません。」
子龍は頑固で、一度自分が駄目だと決めたことには決して意志を曲げなかった。
「……本人が嫌だと言うなら仕方がない。防弾チョッキだけ買って行こう。」
武器は諦めて、都賢秀と同じ防弾チョッキだけ買って着て出た。
「いつもありがとうな。次もまた来てくれ。」
口調はぶっきらぼうだが、子供らしくテンションの高いイチゴは満面の笑みで見送った
。
望んでいた武器も手に入れ、都賢秀の体力が戻り次第、次元を超えて出発するだけなので、これで捕まることなく静かに過ごすだけだった。
〈それじゃ、帰りましょう。〉
レトムが帰ろうと言っているが……
「俺たち、あれ食べてから帰ろうぜ。」
クソッ、都賢秀は危機感を感じているのかどうか、美味しいものを食べて帰ろうと言い出した。
レトムは子龍に少し止めてほしくて彼を見たが……
「餅を小さく丸めて焼くとは便利な方式だな。」
「それはたこ焼きって言うんだ。999番地球にもあるみたいだ。」
子龍まで嬉しそうに屋台を見つめていた。
結局、レトムは二人の大食いのためにたこ焼きを買ってやらざるを得なかった。
「甘辛いタレがいいですね、兄さん。」
「ここにビールがあれば最高なんだがな。」
レトムは「でかい奴らだから、腹が減るのも無理はない。心の広い俺は理解しよう」と思いながら我慢していた。
〈とはいえ、こちらの立場もあるし、そろそろ裏路地に入るのはどうだろうか?〉
そろそろ路地の奥に移動してカフェに戻ろうと提案しようとしたレトムは、二人の大食いが消えたのを見て慌てて周囲をスキャンした。
ところが大食いたちは今度はお好み焼きの屋台でおやつを食べていた。
「おじさん、ソースたっぷりかけて!」
〈一体何をしているんだ?お二人の身分をちゃんと分かっているのか?〉
逃亡者の身分なのにどうしてこんなに堂々としているのかと問い詰めようとしたレトムは、二人の表情に呆然とした。
彼らは美味しいものを買う期待感やワクワク感よりも、深刻な顔をしていたからだ。
〈どうしたのですか?〉
都賢秀は答えずに、包んでもらったお好み焼きを手にして路地の奥へ入っていった。
レトムは状況が分からず、そっとついていったところ……
「大丈夫だよ。傷つけたりしないから。」
都賢秀は路地の奥に6~7歳くらいに見える少女が隠れているのを見て、食べ物を渡そうと買ってきたのだった。
〈あの子は誰なんですか?〉
「俺も知らない。やせ細った子が路地に隠れているのを見て、食べ物を買って入っただけだ。」
どれだけ長く飢え、街を彷徨っていたのか、身なりはみすぼらしく骨と皮だけのようだった。
それに何があったのか、相当な空腹を感じているはずなのに、少女は食べ物を食べに出てこなかった。
「大丈夫だよ。君にあげようと思って買ったんだ。出てきて食べなよ。」
それでも都賢秀が何度も誘うと、少女は慎重に外に出てきた。
すると都賢秀が持っていた食べ物を奪うように受け取り、慌てて食べ始めた。
「ゴホッ、ゴホッ!」
あまりに急いで食べたために少女がむせ、子龍が水を差し出した。
「ゆっくり食べて……名前は何ていうの?」
少女はもごもご食べながら小さな声で答えた。
「夏美……」
「夏美?綺麗な名前だね。両親はどうしたの?街に一人でいるの?」
「わからない……急に悪いおじさんたちが私をここに……」
少女の話から、この少女が最近騒がれている誘拐被害者であることがわかった。
「兄さん。この子は……」
「俺も同じ考えだ。詳しくは分からないが、この子は運よく逃げ出せたんじゃないか?」
〈そうでしょうね。ところで……これからどうする?〉
夏美が本当に行方不明の子どもの一人なら、警察に届けなければならないが、自分たちは警察に追われている身なので連れて行くことができなかった。
「……この子を連れて、とりあえずカフェに行こう。あそこは市民のいる場所だから警察に連れていけるだろう。」
〈それがいいでしょう。〉
都賢秀は夏美に一緒に行こうと手を差し出した。食べ物をもらって警戒心が解けたのか、夏美は疑うことなく都賢秀の手を握った。
「……私たちを信じてくれてありがとう。でも、食べ物をあげただけで簡単についてくるなんて……警戒心なさすぎる子だね。」
「本当ですね……だから誘拐されたのかもしれませんね……疑うことを知らない優しい心を利用されて……」
都賢秀と子龍はこの幼い子を必ず親のもとへ帰してやろうと決心し、カフェへ戻った。
*****
昼頃になって、白ひげクジラカフェに戻ったが、カフェには999番はおらず、浅見が昼食の準備をしていた。
「なんだ?999番はどこ行った?お前がカフェにいるのか?」
「999番?」
「都築さんのことだよ。」
「叔父さんを探してるなら墓参りに行ったよ。」
「墓参り?」
「そう……浅見の……」
浅見という名前を聞いて、都賢秀は少し不思議に思い、突然表情が硬くなった。
「……そうか。じゃあここでも会えないってことか。」
都賢秀が別の次元に行くたびに言う言葉がまた出た。
レトムと子龍は一体誰に会うのか分からなかったが、なぜか浅見は理解しているようだった。
「暗くならずに飯でも食えよ。それより隣の子は誰だ?」
浅見は自分で作ったご飯と味噌汁、サンマの塩焼き、簡単な野菜の漬物で構成された昼食を用意し、都賢秀が連れてきた夏美が誰なのか尋ねた。
「俺も知らない。街をさまよっていた子だ。話を聞くと、最近街を騒がせている誘拐被害者の一人じゃないかと思ってる。」
誘拐被害者かもしれないという都賢秀の答えに、浅見の目が鋭くなった。
そして痩せすぎた子どもを見て舌打ちした。
「もう一人分、飯を用意しないとな。」
厨房に行き、食事をもう一人分持ってきた浅見は、夏美が自分より大きい椅子に座れるよう手伝おうとしたが……
「ひぃっ!!」
少女は怯えて浅見の手を拒んだ。
「誘拐されて酷い目にあったんだな……大人を怖がるのを見ると……」
「違う。」
「え?」
自分の判断を正面から否定する都賢秀を見て、浅見は「何のこと?」と見つめたが……
浅見の手を拒む夏美は都賢秀の後ろにぴったりくっついて隠れていた。
「……」
浅見はまるで世界が崩れたかのような表情で夏美を見つめていた。
「……飯でも食おう。」
「うん。」
さっき都賢秀が買ってくれたお好み焼きを食べた夏美は、浅見が作った食事も慌てて食べていた。
「ああ……さっきお好み焼き食べたのに、そんなにお腹が空いてるのか……」
都賢秀と子龍、浅見は切ない視線で夏美を見つめていた。
「でもお前、料理が上手だな。すごく美味しい。」
「そうですね。素朴でいて上品な味がとても絶品です。」
都賢秀と子龍が自分の作った食事を食べて感嘆し続けると、浅見は肩をすくめて答えた。
「当たり前よ。教えてくれた師匠がすごかったから……!!」
ガシャーン!!
浅見が自分に料理を教えてくれた人を自慢している時、突然皿が割れる音がして、みんなの視線がそこに集まった。皿を落としたのは夏美だった。
だが、少女の表情は青ざめ、震えていた。
皿を割ったせいだろうかと子龍が大丈夫だと安心させようとしたが……
「大丈夫だよ、子供よ。どこか痛めたりしてないか……!!」
「こ、この料理……あの姉ちゃんが作ったの?」
浅見を“姉ちゃん”と呼んだ言葉に、浅見は怒りに満ちた顔をしたが、子どもに怒鳴ることはできず、なんとか我慢していた。都賢秀は必死に笑いを堪えていた。
「はは……ちびっこよ……私は姉ちゃんじゃなくて……」
浅見が手を伸ばして触ろうとしたが、夏美は後ろに下がってしまい、バタンと床に倒れてしまった。
大人たちが大丈夫かと聞く間もなく、夏美は隅に逃げて「うえっ」と食べたものを全部吐いてしまった。
「な、なぜ急にそんなことに……?料理がまずかったのか?」
都賢秀は夏美がなぜそんな様子なのかわからず、ただ慌てるだけだったが、医者である浅見は鋭い目で観察していた。
「こいつ……私を見て女性だと思ってたな?」
「そ、それは子どもだから仕方ないんだ……」
「怒ってるんじゃない、バカ。あいつ、変だ……人見知りしてるだけじゃないようだ。」
「え?」
浅見は慎重に夏美に近づき、会話を試みた。
「夏美って言ったよね?」
浅見が話しかけると、少女は怯えて泣き出したが、浅見は引かなかった。
「私の作った料理、まずかった?」
「そ、それじゃなくて……」
「じゃあ?」
夏美は涙を止められず、しばらく言葉を詰まらせた後、ついに口を開いた言葉は衝撃的だった。
「あの……おばさんが作った料理を食べると……友達が具合が悪くなって……連れて行かれて……もう二度と会えなかった……」
“おばさん”が誰を指すのかは分からなかったが、夏美が話す存在は子どもたちを誘拐した者であり、彼女が作った料理を食べて同じ誘拐被害者の子どもたちが死んだり、病気になって連れ去られたことを意味していた。
夏美が成人女性を怖がる理由はこれだった。
「どんな狂った女がそんなことをしてるんだ?」
都賢秀と子龍はあまりに残酷な内容に言葉を失った。
浅見は子どもも何かを食べて体調を崩しているのではと心配し、診察をしようとしたが、夏美はまた怯えて拒否した。
「いや、いやだよ!」
少女が泣きながら拒否すると、気が短い浅見も優しく微笑みながら安心させた。
「心配しなくていいよ、夏美。私はお姉ちゃんじゃなくてお兄ちゃんだよ。男なんだ。」
「え?でも……どう見ても……」
「お兄ちゃんはちょっと可愛く見えるけど、でもいつも姉ちゃんって言われると傷つくんだ。」
優しく微笑みながら安心させると、夏美も少しずつ浅見に心を開くようになった。
「心配しないで。お兄ちゃんは絶対に私たち夏美を傷つけたりしないから。」
「ほんとに?」
浅見の説得で心を開いた夏美は、彼の手を握って診察室に一緒に入っていった。
都賢秀と子龍は、説得力のある浅見を見て感心していた。
*****
診察室の外で診察が終わるのを不安そうに待っていると、浅見が外に出てきた。
「どうだった?」
「……あの子の話は本当だったようだ。あの子も何らかの薬物の影響で胃が荒れ、血圧も高くなっている状態だ。」
「じゃあ、本当に毒を盛られたってことか?」
「……いや、それよりも深刻なことだ。」
「それってどういう意味だ?」
毒を盛られたより深刻なこととは何かと都賢秀が尋ねると、浅見は少し黙ってから苦しそうに口を開いた。
「あの子は……新薬の実験に動員されたようだ。」
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