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第69話 新たなる追跡チーム長




絹のように滑らかで艶やかな黒髪、塵一つ見えない白い肌、慈愛に満ちた青い瞳、温和さを漂わせる弧を描いた赤い唇。


平凡な女性用エージェント制服を着ているだけなのに、どこか官能的に見える肢体まで——。


中東系の美女ジャファルを見つめていた斎藤は、人生でこんな美人を見たことがないと思い、その瞬間、思考が止まってしまった。


「斎藤捜査官? どうしました?」


急にぼうっとして言葉を失った斎藤を心配し、ジャファルは声をかけた。


「へっ?!」

「急に魂が抜けたようになって……もし旅の疲れで体調が悪いのでしたら、宿を用意しましたから、休まれてください。」


優しく慈愛に満ちたジャファルの言葉に、斎藤は自分がとんでもない無礼を働いていたことに気づいた。


「し、失礼しました!!」

「謝ることはありません。それより、さあ休息を——」

「い、いえ! 疲れておりませんので、ご心配には及びません!」

「本当に休まなくても大丈夫ですか?」

「も、もちろんです!」


なぜかジャファルに弱い姿を見せたくなかった斎藤は、元気な様子を装って任命状を差し出した。


「レ、レオニル局長のご命令により、任命状をお渡しするため面会を申し込みました!!」


FMらしいきびきびとした姿勢で報告したが、なぜかいつも以上にぎこちなく見えた。


「ふふっ、そんなに緊張しなくてもいいですよ。」


ジャファルがまるで可愛いものを見るようにくすくすと笑う姿に、斎藤の心はまたもや溶けていく。


「では、任命状を拝見しましょうか。」

「は、はい。こちらです。」


ジャファルは斎藤が差し出した任命状をじっと読んだ。


「ふむ……私を“次元の繋ぎ手”を追跡する特別チームのチーム長に任命する、か……」


実際に会ってみて、斎藤が女性であること以外に驚いたのは、その若さだった。


自分よりせいぜい3〜4歳年上に見える女性がこの地位に就くまで、どれほどの努力をしてきたかを思えば、支部長からチーム長への降格がどれほど屈辱的か、斎藤は想像すらできなかった。


「し、申し訳ありません……私が不甲斐ないばかりに……」

「ん? 申し訳ないとは、どういう意味です?」

「私が“繋ぎ手”を捕らえられなかったばかりに、昇進された支部長がチーム長に降格されるという屈辱を……」


「ははは!」


謝罪と慰めの言葉を口にしていた斎藤は、突然の笑い声に驚き、顔を上げた。


そこには魅力的な笑みを浮かべるジャファルがいた。


「組織最大の敵を捕らえるという名誉ある役職を、屈辱とおっしゃるとは……斎藤捜査官は面白い方ですね。」


ジャファルの言葉に反論できず、斎藤は恥ずかしさで顔を真っ赤にした。

確かに“次元の繋ぎ手”を捕えること以上に重要な任務はなく、自分の役職に執着することなど取るに足らない——器の差をまざまざと見せつけられた気がした。


「むしろ私のほうこそ申し訳ないですね。有望な若い捜査官の機会を私が奪ってしまったのですから……」


しかもジャファルは逆に斎藤を気遣ってくれていた。


「ですが、斎藤捜査官を休ませるわけにはいきません。ご覧の通り私は女性の身ですから、作戦を立案しても実行できる戦闘員が必要です。その役目を斎藤捜査官にお願いしたいのです。」


名誉を回復するチャンスまで与えてくれていた。


自分とジャファルの器の違いを痛感しつつも、斎藤は挫けなかった。

むしろ、この慈愛に満ちた有能な人物のために命を捧げる覚悟を固めた。


「もちろんです! 粉骨砕身して、必ず“次元の繋ぎ手”を捕らえてみせます!!」

「頼もしいですね。信じていますよ。」


魅惑的な笑顔でそう告げるジャファルの姿に、斎藤の意欲はますます高まった。


「では出発しましょう。まずは連盟に戻って装備を受け取り——」

「申し訳ありませんが、それはできません。」

「え?」

「私が支部長として行っていた任務がまだ終わっていないのです。途中で放り出して行くわけにはいきませんから、終えてから向かいましょう。」


任務を最後までやり遂げようとする姿勢は責任感あふれる立派な態度だったが、“次元の繋ぎ手”を捕えること以上に重要ではないため、斎藤は少し焦った。


「恐れながら支部長……いえ、チーム長。責任感あるお姿には敬服いたしますが、“次元の繋ぎ手”の追跡のほうが重要では……」

「お気持ちは分かりますが、現状、戦闘員が斎藤捜査官お一人では話になりません。そこで、私が現役時代に率いていたチームを召集しようと思いますが、彼らが到着するには時間がかかります。」

「……なるほど。」


間違ってはいなかった。


自分のチームはすでに解散しており、ジャファルが現役時代に組織したチームも今はそれぞれの持ち場で活動しているため、再集結には時間が必要だった。


「申し訳ありませんが、この任務を斎藤捜査官に指揮していただけませんか。」


任務を任されたことに斎藤は一瞬戸惑った。


同じエージェントとして助け合うのは悪いことではないが、なぜ追跡チームの一員である自分に支部の仕事を任せるのか理解できなかった。

しかし——ジャファルの表情を見て、悟った。


これは試されているのだ。


自分が彼女と共に戦うに値するか、その力を示せと。


「分かりました。必ず解決してまいります。」


斎藤の言葉に、ジャファルはにっこり微笑み、頷いた。


自分の意図を正しく汲み取った斎藤を気に入ったようだった。


*****


「はっ!!」


目を覚ました都賢秀(ドヒョンス)が周囲を見回すと、見知らぬ場所に横たわっていた。


自分がなぜここにいるのか考えていたその時——


「起きたか?」


浅見の声が聞こえ、振り向くと、子龍(ズィーロン)の腕の傷を治療している浅見の姿があった。


都賢秀(ドヒョンス)は一瞬ぽかんとした顔をしたが、すぐに彼に蹴りを食らって気絶させられたことを思い出した。


「おい!! なんで人を殴るんだ?! 頭おかしいのか?!」

「お前が先に“女だのなんだの、気持ち悪い”とか言ったじゃないか。」


確かに失言したのは自分だったため、都賢秀(ドヒョンス)は一瞬たじろいだが——


「だからって人を気絶するまで殴るか?! 完全にイカれてんじゃねぇか!!」

「あーうるさい! 治してやったんだからいいだろ!!」


鏡を見ると、確かに治療はされていた。


「よくねぇよ、この狂人! おい、警察呼べ!!」


特戦司として務め、陸海空の修羅場を経験した都賢秀(ドヒョンス)は、自分より体格の小さな相手に蹴られて気絶したことを認めたくないのか、なおも大騒ぎしていた。


「お、落ち着け、798番……」

「落ち着いてられるか! このイカれ野郎、俺が人間にしてやる!!」


999番は暴れる都賢秀(ドヒョンス)をなんとか宥め、カフェへと連れ戻した。


「浅見君は体格が小さいからといって侮ってはいけない。見た目によらずフルコンタクト空手を修めた有段者だ。」

「フ、フルコンタクトですか?」


防具はおろかグローブすら付けずに組手を行う空手——それがフルコンタクト空手。


他の空手を学んでも所詮はスポーツに過ぎず、実戦では役に立たないと言われるが、フルコンタクトは別物だ。


サンボや柔術と並び、実戦で最も役立つ武道として知られている。


「彼の名は浅見薫あさみ かおる。学生時代はフルコンタクト空手の選手として活躍し、全国大会で優勝した実力者だ。」


しかも全国大会優勝の経歴まで持つ猛者だという。


浅見が強者だと知り、都賢秀(ドヒョンス)は少しだけ落ち着きを取り戻した。


〈……ビビったんですね。〉

「ビビってねぇよ、このクソ餅野郎!」


正直、少しはビビったが、都賢秀(ドヒョンス)は認めたくなくて声が余計に大きくなった。


暴れる都賢秀(ドヒョンス)を見て、999番は理解したような顔をした。


「分かるぞ……俺もそうだった。だが、あの蹴りの前では皆平等になるんだ。」

「だから違うって言ってんだろ!」


やけくそで大声を張り上げたが、浅見から「治療中なんだから静かに」と一喝される都賢秀(ドヒョンス)だった。


*****


白髭クジラの営業時間が終わり、全員が集まって夕食をとった。

メニューは999番が作った、ケチャップでハートが描かれたオムライス。


「……」


都賢秀(ドヒョンス)子龍(ズィーロン)は、何とも言えない表情でオムライスを見つめた。


そんな中、浅見は夜遅くまで患者の診療を続けていた。


「あいつ、全然休まないんですね?」

「あの人は放っておきな。腹が減れば自分で食べる。」

「それにしても、なんであの人はいつもヤクザばかり治療するんですか?」


浅見医院は患者で溢れかえっていた。


一般患者もいるにはいたが、大半は裏路地で活動するヤクザや半グレだった。


「まさか裏社会の連中から裏金をもらって治療する無免許医じゃないだろうな?」

「そんなわけがない。浅見君は江戸大学医学部を首席で卒業し、阪神総合病院でインターンとレジデントを経験した、れっきとした医師だ。」


どこの国でも、首都の名を冠した大学や国家名を持つ病院は、その国を代表する最高峰の医療機関であり、浅見はそんな場を経てきた秀才だった。


「じゃあ、なんであんな暮らしを?」

「それは……浅見にとって彼らが“英雄”だからだ……」

「……どういう意味です?」


ヤクザや犯罪者を英雄と呼ぶなど理解しがたいが、999番はそれ以上説明する気がないのか、口を閉ざした。


「それはそうと……さっきから聞こうと思って忘れてたんだがな……」


沈黙していた999番が、突然質問を投げかけた。


その内容は——


「何でここに来たんだ、レトム? 確か“ここはキューブがないから来ない”と言ってたはずだが。」


来るはずがないと言っていた地球に現れたレトム。999番は数時間経ってからやっと聞いたのだった。


〈……ずいぶん遅い質問ですね。〉


どうやら999番は、顔は怖くてもどこか抜けた人物らしい。


〈旅の難易度が想定以上に高くなったため、物資を補給しに来ました。〉

「なるほど……第1地球は連盟本部があるから派手に動けず、代わりにここへ来たというわけか。」


そう言いつつ、正確な分析もするなど、掴みどころのない人物だった。


〈しかし、先日見かけた裏路地の武器商人がいなくなっていて、困っていたところです。〉

「ああ、あいつらなら消えてはいない。摘発で店の場所がバレたせいで、8番街の路地に移転したんだ。」

〈そうですか。〉


何の成果もなく帰らねばならないかと思っていたが、武器商人が無事と知り、一同は胸をなで下ろした。


「じゃあ明日、早速行ってみようじゃないか。」

〈そうしましょう。〉


翌日、武器を調達するため全員で8番街に向かうことにした——


「ただし、移動は慎重にな。最近、妙なくらい不法滞在者の取り締まりが厳しいんだ。」

「不法滞在者?」


都賢秀(ドヒョンス)は、この世界でも国境を不法に越える者で悩まされているのかと思ったが、レトムがその誤解をすぐに正した。


都賢秀(ドヒョンス)さんが想像している不法移民ではなく、別の次元からやって来た不法移民のことです。〉

「次元を越えてきた?」

〈その通りです。かつては貧しい地球から豊かな地球へ出稼ぎに行く者が多かったですが、連盟が“次元移動には承認が必要”と規制を始めて以来、不法な方法で越境する者が増えているのです。〉

「どこでも移民問題は厄介なんだな……」


「そうではあるが、最近は異様なほど連盟支部が不法移民を取り締まっている。だから皆、怖がって外出を避けるほどだ。君たちも明日出かけるなら気をつけるんだ。」


ただの外出がスリル満点の冒険になってしまったが、ともかく全員、必要な道具を手に入れるため早めに休むことにした。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

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