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第66話 新たに与えられた機会




1番地球に所在する次元移動管理連盟の本部、執行部会議室では局長たちによる会議が熱を帯びていた。


しかし会議室の中央には縛り上げられ、捕らえられた男がいた。その男の名は斉藤蓮であった。


「つまり……お前の薄っぺらい正義感のために、連盟が最も警戒する“次元の繋ぎ手”を逃したということか?」


彼はリリカを逃がそうとした都賢秀(ドヒョンス)の脱出を助けた疑いで逮捕されていた。


「……申し訳ございません、局長様。」


「申し訳ない、で済むと思うか?!」


会議室に響き渡る大声に、他の者たちは耳を塞いだ。

声の主は、連盟内でも最大級の巨躯を誇る管理局局長、山本大門やまもと だいもんであった。


「連盟の敵である“次元の繋ぎ手”を取り逃がしただけでも問題なのに、助けようとするだと?!貴様、正気か、斎藤!!同じ飛鳥の血が流れていることが恥ずかしいほどだ!」

「申し開きの余地もございません、山本様……」


斉藤は敵を逃した事実は認めており、叱責は覚悟していたが、命の危険にある女性と少女を救うために一時的に手を組んだことだけは考慮されず、ただ都賢秀(ドヒョンス)と共謀したことだけを責められ、悔しさが込み上げていた。


「お前たちだけの言葉で会話するな。」


同じ地球出身の山本と斉藤が、連盟内の共通語ではない飛鳥語で話していたため、レオニル局長がそれを制止した。


「理由はどうあれ、敵と手を組むことはマザーの意思に反する。ゆえにお前を処分するしかない。」

「覚悟はできております。」

「よかろう。ではお前の処遇は……」


処分が決定される瞬間、場内は緊張に包まれた。

過去の例からすれば、死刑が下されるのは確実だった。

若き命が一つ消えようとしていたその時……


「チーム長を解任し、行動要員へ降格とする。」


レオニルの決断に、会議室はどよめいた。

敵と手を組み、逃がした者の処分がチーム長の解任で済むとは……


「レオニル局長、その決定は甘すぎるのでは…」


治安局局長、ハビエル・マツチェラーノが抗議しようとしたが、レオニルの鋭い視線に黙らされた。


「皆が言いたいことは分かる。しかし今は一人の要員を処罰している暇はない。連盟のあらゆる手段を駆使してでも次元の繋ぎ手を捕らえることが優先だ。そのためにも人材を一人でも多く確保しなければならぬ。」


要員の処罰よりも、都賢秀(ドヒョンス)捕獲が最重要課題であった。

誰も異論を唱えられなかった。


「新たなチーム長はジャファールに任せる。斉藤、お前は新チーム長に任命状を届け、今後はジャファールの指示に従え。」

「はい、承知しました!」


斉藤は処罰も受けずに無事でいることが信じられない表情だった。

理由は不明だが、再び与えられた機会を活かして必ずや都賢秀(ドヒョンス)を捕らえようと決意を新たにした。


*****


次元が開き、そこから人々が現れた。


都賢秀(ドヒョンス)子龍(ズィーロン)であった。


前回113番地球で正確かつ安全な場所にゲートを開いた都賢秀(ドヒョンス)は、自信満々に歩み出した。


「ははは!またしても安全な場所にゲートを開いた。わずか5回でここまで巧みになるとは、我ながら才能に恐れ入る……」


ぱしゃんっ!!


波の音が聞こえ、足元を見ると、都賢秀(ドヒョンス)子龍(ズィーロン)が立っているのは……


「……島?」


海の真ん中にぽつんと浮かぶ孤島だった。


しかも直径2メートルほどの小さな岩島である。


「兄貴……わざとですか?」

「な、そんなわけあるか!余計なことを言うな。それより陸地が見えん……」


一体どこで次元を開けたのか、周囲に陸地は一切見当たらなかった。


〈北西の方角で人間の生体反応が感知されているので、あの方向に陸地があると思われます。〉

「距離は?」

〈距離はスキャンできませんが、肉眼で陸地が確認できないことから、最低でも8.5~9kmは離れていると判断されます。〉

「最低8.5kmか……」


海での泳ぎは潮流や波、温度など様々な環境条件が加わり、淡水やプールで泳ぐよりはるかに厳しい。


しかし一般人ならともかく、特殊部隊出身の都賢秀(ドヒョンス)にとっては2〜3時間もあれば充分な距離であった。


「よし。じゃあ泳いで行くぞ。準備運動はしっかりな、子龍(ズィーロン)。」


距離の正確な把握は難しいが、位置さえ分かれば泳いで行くほうが合理的と判断し命じたが、子龍(ズィーロン)は……


「え、えっと兄貴……」

「ん?何してるんだ、準備運動しろと言っただろ。」

「そ、それが……」

「……どうした?」


大柄な体躯に似合わず子龍(ズィーロン)は顔を真っ赤にし、大きな身体を縮こませていた。


まるで思春期の少女のように恥ずかしがる姿に「どうしたんだ?」と首をかしげていると、彼の口から出た言葉は……


「実は……泳げません。」


予想以上に呆れた返答だった。


「何だと、この野郎?」

「えっと……山で生まれたので、海どころか大きな川も見たことがなくて……泳ぐ機会がなくて……」


都賢秀(ドヒョンス)の聞くところによると、広大な大陸に暮らす人々の中には一生泳げる川や海を見ずに死ぬ者もいるという。


ゆえに子龍(ズィーロン)の泳げないことを責めることはできなかった。


「……役に立たねぇな。」

「申し訳ありません……」


都賢秀(ドヒョンス)は今後どうすべきか思案した。

数十メートルなら背負って泳ぐことも可能だが、8〜9kmは到底無理だった。


「……いっそ次元をまた開くか?」

〈それは都賢秀(ドヒョンス)様の体力が持ちません。〉


次元を開くのは想像以上に精神力を消耗し、都賢秀(ドヒョンス)は週に一度が限界であった。


無理に試みて1日に2度移動することも不可能ではないが、その場合都賢秀(ドヒョンス)は気絶し、数日後に目覚める可能性が高い。


追われる身としては全く望ましい選択肢ではなかった。


「じゃあどうする?準備した装備の中に救命ボートはないのか?」

〈こんなことになるとは思わず、用意していませんでした……〉


装備もなく泳げず、次元も開けず、どうにもならない状況に頭を抱えていたその時……


「兄貴、あれは何でしょう?」

「あれって何だ?」


子龍(ズィーロン)が海の向こうを指さして、不思議そうに尋ねた。

都賢秀(ドヒョンス)も目を向けると……


〈ドローンですね。〉


レトムよりやや大きめのドローンが飛んでいた。


海のど真ん中にドローンとは、何事かと首を傾げていると、ドローンは彼らのいる島へゆっくり近づいてきた。


「ピピッ!遭難ですか?」


だがドローンから聞こえてきた言語は、ここや外国語ではなかった。

レトムはまた無理して翻訳プログラムを稼働しなければならないかと頭を抱えそうになっていたその時……


「あれ… 日本語じゃないか?」


都賢秀(ドヒョンス)が聞き取った。


〈え?正確には飛鳥語あすかごと言いますが……日本語と構造が同じなのでそう考えて頂いて構いません。どうしてお分かりになったのですか?〉

「日本は近いから、幾つか言葉は分かるんだ。」

〈ほう、母語以外に一言も話せない情けない男だと思っていましたが、初めて理解できる言語が現れましたね。褒めて差し上げましょう。〉

「何だと、このくっそ餅野郎!人を無視し続けるつもりか!」


いつも通り都賢秀(ドヒョンス)とレトムの口論が始まったが、ドローンは言語を認識し、自動的に言語を切り替えた。


「ピピッ。救難信号発信者の使用言語は“飛鳥語”と一致しないと判別される。現在、類似言語を検索中。しばらくお待ちください。」


ドローンは何かを話しながら自動で設定を変更し……


「이제 제가 하는 말이 이해 되십니까?」


都賢秀(ドヒョンス)と同じ韓国語が流れた。


「おおっ!」


感嘆する都賢秀(ドヒョンス)を見てレトムは不機嫌そうに呟いた。


〈大したことない原始的な技術に、そんなに感心なさるのですか?〉

「こいつは偽者の君と違って本物のAIみたいに見えるんだよ。」

〈何ですって?決して許せぬ暴言です!〉


都賢秀(ドヒョンス)とレトムの微笑ましい争いが再び始まったが、ドローンは自分の仕事を淡々とこなした。


「ピピッ!이 언어는 이해하는 것으로 파악됨. 앞으로 이 언어로 설명을……」


「すみません、何を言ってるのか分かりません……」


今度は子龍(ズィーロン)が理解できず手を挙げた。


考えてみれば、都賢秀(ドヒョンス)は韓国語を、子龍(ズィーロン)はマンダリン語を使い、互いに意思疎通が難しいはずだが、レトムの翻訳機能で通じ合っていた。


しかしこのドローンは韓国語を話すため子龍(ズィーロン)は分からなかったのだ。


「仲間の言語は別言語と判定。会話可能言語を検索中……现在你听得懂我说的话了吗?」

「はい、その言葉は理解できます。」

「好的。那么用这种语言继续吧……」


「さっきまでは分かる言葉だったのに、急に変な言葉を使い始めたぞ?」


今度は都賢秀(ドヒョンス)が理解できなかった。


「……」


都賢秀(ドヒョンス)が理解できる言葉を話せば子龍(ズィーロン)は理解できず、子龍(ズィーロン)の言葉を話せば都賢秀(ドヒョンス)が理解できない。


ドローンのCPUは最大の難問に直面し、過負荷で沈黙した。


〈翻訳は私がやりますので、そちらは飛鳥語で話してください。〉


結局レトムが出てくるしかなかった。


「ピピッ!素晴らしい!脳波を干渉して、言語の違う相手の言葉を理解させるとは、全く思いもよらぬ画期的な方法です。」


ドローンが感嘆しながらレトムを称賛すると、レトムは鼻高々に自慢話を始めた。


〈当然です。私はあなたより何万年も先進技術で作られたAIです。あなたも何万年も先の演算装置に変わればできるでしょう。〉

「ピピッ!本機能は3万8千倍の演算能力。羨望。羨望。」

〈ははは!かわいい弟ですね。〉


自分の性能を自慢するレトムを見て、照れているのは都賢秀(ドヒョンス)子龍(ズィーロン)の二人だった。


「おい……お前が止めてみろよ。」

「いや、兄貴のほうが長く知ってるでしょう。兄貴がやってください。」


お互いに責任を押し付け合う間、レトムは調子に乗って自慢話を続けていた。


二人は小さな岩島の上で顔を隠してため息をついた。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

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