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第63話 ついに崩壊したキューブ、しかし…




――ルカの言葉に、周囲の人々は信じられないように沈黙した。


あまりにも静寂で、その場に騒がしい群衆の気配などまるで別空間にいるかのようだった。


「な、何を言っているの…? その名前をどこで知ったかは知らないけど…!!」


「君のお父さんの名前は“ロバートソン・ヘインズ・レイウッド”! 君の祖母は“ブリタニー・ステファニー・レイウッド”! 君たち、四人の家族はみんな一緒に暮らしていたんだよ!」


ルカは、家出して行方不明になっていた父親の名前と、亡くなった両親に代わって自分を育ててくれた祖母の名前まで口にした。


他の家族の名前まで出すとは――リリカの眼は、混乱に揺らぎ、ますます動揺していた。


「そ、そ、そう言われても……どこで私の身辺調査をしたのか知らないけど……」

「それに、君は私が作ったジャガイモの煮ものが好きだったよね…貧しくてよい物を食べさせられなくて、安い料理しか出せなかったのに、それでも君は文句ひとつ言わずにおいしく食べてくれたよね。」


母との、ほんのわずかな思い出の一つ――ジャガイモの煮ものまで言い当てられ、もう疑う余地はなかった。


「あ、あなたは……いったい……」


「言ったじゃない。私は15年前、幼い君を残して去った不甲斐ない母――レイチェルなのよ……」


――再び母だと言うルカに、リリカはどうしても信じられなかった。


自分よりも年下の少女が「母だ」なんて…誰が信じられるだろう?


「そ、そんな……だったら、転生とか……?」

「私もどうなっているのかわからない…君を残してこの世を去ったその日、目が覚めたらこの体になっていた。でも、はっきりしているのは唯一つ……私は確かに君の母親であるということ。」


信じられなかった。


金髪の小さな少女に――かつての赤毛を持つ美しい母が生まれ変わって現れたなんて…どんな小説の陳腐な設定よりも突飛な話だった。


しかし――ルカが見つめる瞳は、確かに母がかつて見せてくれた、あの優しく穏やかな眼差しそのものだった。


「で、でも……本当にお母さん……私の母、レイチェル……なの?」

「うん……この身体になってしまったけど、それでも私は君の母親だよ。」


その瞬間、リリカの目から涙が溢れだした。


「世界で一番つらいのは子どもの涙」と言われることがあるが、ルカはリリカの涙を見て、胸が張り裂けるようだった。


「ごめんね…」

「どうして、嫌だ、って言えないの……」

「すべてが……ごめんね。君を今までひとりにしてしまったこと…そして、あんな石ころを守りなさいと言ったせいで君を苦しませたこと……全部。」


キューブはレイウッド家代々伝わる家宝であり、代々の当主が守ってきた聖物だった。


そして――自分がこの世を去ったその日、24代目当主となるはずだったリリカに託した。しかし、その選択が自分の娘を苦しませることになるなど、当時の私は微塵も考えもしなかった。


人生に「もし」はないが、もしあの時に戻れるなら、絶対に娘にあんな石ころを託したりはしなかった。


「どうしてそんなことを言うの……私はお母さんの遺言をしっかり守ってきた……家族の大切な家宝――聖物を……」

「それはもう、我が家の家宝ですらない!人の心を惑わせ、君を苦しませる石ころに過ぎない!今からでも壊して、母と一緒に逃げよう!」


ルカの言葉に、リリカは首を振って後ずさった。


「やっぱり、あなたは母じゃない……聖物を壊せだなんて……ありえない……もし本当に母なら、私を褒めてくれたはずよ……24代当主として家宝を立派に守ってきた私を……」

「リリカ!しっかりして!それは……!!」

「聞きたくない!!」


リリカが憎しみに満ちた表情で切り捨てたその姿に、今度はルカが驚いて一歩引いてしまった。


「リ、リリカ?」

「もう、私を惑わせようとしないで! この聖物は私の大切な家族だったの!! 淋しくて、家族がいなくて、たった一人で生きてきた私の唯一の支えだったのよ!! 突然現れたあなたには、そんなものを言う資格ないのよ!!」


孤独……家族なしで生きてこなければならなかった少女は、皆と違う居場所を失わないように、その「何でもない石ころ」にすがりついて生きてきた。


その事実を知って、ルカの胸は引き裂かれるように痛み、涙が止まらなかった。


「なぜ家族がいないの……母がいるじゃない。」

「そんな馬鹿なことを言うな!もし本当に君の母親なら、なぜその石を守れと言って、今度は壊せというんだ!?」

「…家の大切な家宝だったから…だから守れと言ったの……」

「そう!それで私は当主として立派に守った……!!」

「でも、どんなに大切でも――君より大切なものなんてあり得ない!!」


「君より大切なんてない――」その言葉で、リリカははっと立ち止まり、ルカを見据えた。


「家族だとか、家宝だとか、そんなものなんて――私を苦しめるなら、世の中に必要ない醜物でしかないのよ!!」


キューブよりも大切にされてきた――過去5年間、自分が「聖女として守られる存在」であることを重視されて生きてきたリリカは、全身を激しく揺さぶられるような衝撃を受けた。


「君を苦しめるその石ころを壊して、私と一緒に逃げよう、リリカ。教団も誰も――君に手を出せないように、母が守ってあげるから。」


ルカは手を差し出した。


リリカにとって――本当に自分の“母の生まれ変わり”かどうかは、もう重要ではなかった。


「私をキューブより大切に思ってくれる」その気持ちが、彼女に勇気を与えた。


そして――


リリカは手に持っていた聖冠を高く掲げ、思い切り床へ叩きつけた。


ついに三つめのキューブが、破壊された。


キューブが砕けると、中に封じられていた気が広がり、高々と空へと舞い上がり、四方八方へと散っていった。


これから――113番地球の閉ざされた次元が、一つまた一つと開いていくだろう。


「いつ見ても、壮観だな……」


都賢秀(ドヒョンス)は、崩れゆくように伸びていく光の柱を穏やかに見つめていた。斎藤は――またしてもキューブの破壊を阻止できなかったことを、歯噛みしながら見ていた。


「くそ……次元の繋ぎ手、だと……」


キューブの破壊も防げず、実力差で都賢秀(ドヒョンス)を捕まえることもできず、斎藤の怒りと屈辱は募る一方だった。


しかも……都賢秀(ドヒョンス)は斎藤に視線すら向けず、ある一点を見つめていた。


「いったい、何を見ているんだ……!」


だが、都賢秀(ドヒョンス)の表情が異様だった。まるで恐ろしい何かを見つけたかのように、蒼白な顔である一点を見据えていた。


斎藤も思わず「いったい何を見ているんだ?」と視線を送ると――


「……え?」


斎藤の顔色も、急に蒼白に変わった。


*****


その時――ようやく真実を知ったルカとリリカの親子は、お互いを慈しむように強く抱きしめ合った。


「本当に、母なの? 私の母なの?」

「うん。たとえ血はつながっていなくても――この身体に宿る魂は、間違いなく君の母、レイチェルよ。」

「うれしい……」


涙声で「嬉しい」と言うリリカを見て、ルカは胸がいっぱいになった。


「私も嬉しいよ。私たちの大切なリリ……!!」


そのとき――


「おい、ちびィ!!」


親子の再会をようやく楽しんでいたその瞬間、空気を読めない都賢秀(ドヒョンス)が邪魔をしていた。


「ねえ! 久しぶりに母娘が話してるんだから、空気読んでよ……!!」

「今はそんな時じゃない!」

「そんな時じゃないって?」


ルカは都賢秀(ドヒョンス)の言葉を理解できずに周囲を見回していた。すると――


子龍(ズィーロン)、そして睨み合っていた斎藤を含む諜報員たちが、息を切らして駆け寄ってきていた。


男たちの様子に――ルカとリリカもまた、緊張感に包まれた。


「な、なにがあったの? なぜこんなに……?」

「人々の様子が変だ。雰囲気がおかしい!」

「人々がおかしい、ってそれ……どういうこと……!!?」


ルカは理解できずに仰ぎ見た――広場に集まった人々は、全員が目を見開き、私たちを睨みつけていた。


「な、なに……? 人々はなぜ、あんな目で見ているの?」


理由がわからず困惑していると――群衆たちの声が一斉に聞こえてきた。


「聖女様が聖物を壊した……」

「聖女様がどうして……」

「じゃあ、病気の私たちの赤ちゃんは?」

「私たちの父さんは?」

「害虫や病気で壊滅した私たちの田畑は?」


病気や飢饉を救ってくれる奇跡を願って、リリカの村に集まった人々は――その目の前で、聖女自身がキューブを破壊したと知り、混乱と困惑に包まれていた。


そして――その動揺は怒りへと変わった。


「聖女が聖物を壊した!!」

「寄付金返せ!!」

「私たちの家族を救え!!」


――暴動が起きた。


広場には何万人もの人々が溢れていた。その群衆の攻撃を受ければ、命の危険すらあった。


人々が暴徒化して暴れだすと、教団と聖騎士たちは真っ先に逃げ出した。


広場の真ん中に取り残されたのは、もはや誰も引っ張り上げることのできない人々だった。


「ど、どうすればいいんですか、兄貴?」


敵の軍勢でもなく、敵国でもない――一般市民への抵抗を望まない子龍(ズィーロン)はどうすればいいのか、リーダー・都賢秀(ドヒョンス)の判断を仰いでいた。


もちろん都賢秀(ドヒョンス)も、自分たちが一般市民と戦いたいわけではなかった。しかし……


子龍(ズィーロン)!剣を抜け! もしこいつらが襲ってきたら、俺たちが切り捨てるぞ!」


都賢秀(ドヒョンス)は自身も銃を抜き、安全装置を解除して戦闘準備を整えていた。


「そんなことできませんよ、兄貴! 彼らは武器を持たない無抵抗の市民です!」

「だからって、知らん顔して死んだら誰が覚えてくれる?ここには女の子や子どもまでいるんだぞ!」


この言葉通りここにはルカとリリカがいた。戦士の良心により彼らを危険に晒すことなどできなかった。


ついに子龍(ズィーロン)は剣を抜き、人々に「近づくな!一歩でも踏み込めば斬るぞ!」と声高く警告した。


しかし、既に興奮した群衆にはそんな言葉など届かなかった。


「うるさい!! 聖女様をよこせ!! 私は母を救わせたいんだ!!」


多くの人々が、本人ではない無垢な市民や子どもを盾にしながら――聖女・リリカを求めて突進してきた。


子龍(ズィーロン)は避けようなく――ひとりの男を斬り倒してしまった。


人が血を流し倒れこむ様子を見て、人々は一瞬動きを止めた。しかし、それだけでは興奮した群衆を制御するには足りなかった。


都賢秀(ドヒョンス)も、群衆の肩や脚を銃撃して阻止しようとしたが――人数が多く、弾は限られていた。


<都賢秀(ドヒョンス)様!大通りへ逃げるのは危険です。裏路地を通って脱出しましょう。案内します。>


レトムは裏路地からの退避を提案していた。しかし――


「口ではそう言うけど、数万人に囲まれた状態でどうやって裏路地の入口まで行くんだよ!!」


都賢秀(ドヒョンス)の言う通り、数万人に包囲された中で、裏路地への移動すら容易ではなかった。


ルカとリリカは恐怖に震えながら互いにしがみついていた。

「マ、母…」

「心配しないで、リリカ…母が守るよ……」


女性と子どもを守りながら、数万人の群衆を縫って安全に脱出する…内戦中の南スーダンでPKOとして活躍した都賢秀(ドヒョンス)にとっても、この逃走ミッションは人生最大のインベーダーゲームのようだった。


都賢秀(ドヒョンス)も、レトムも、子龍(ズィーロン)も…どうすればいいか言葉を失っていた。


そのとき――


タタタタンッ!!


群衆に向かって威嚇射撃し、道を切り開いてくれた存在がいた。


「私たちが道を開く! 早く逃げろ、次元の繋ぎ手よ!」


それは――斎藤と彼の諜報員たちだった。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

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