第58話 救いの手
地面の下から現れた存在は、期待していた者ではなく、都賢秀と子龍は思い切りガッカリした顔をした。
「…私たちに会えて嬉しいわけじゃないだろうけど、そんな顔するのはちょっとやり過ぎじゃないか?」
斎藤の寂しそうな顔に、都賢秀は当然だろという返事を返す。
「本当に嬉しくないからそういう顔してるんだ。ここには何しに来たんだ?」
「お前を逮捕するためだ。」
「はぁ~…勤勉だねぇ。」
自分を捕まえるためにわざわざ地下道まで掘ってきた事実に、都賢秀は呆れるどころか、あきれ果てた。
「お前たちが望んでいるのは俺の死だろ?どうせ神殿に捕まって死ぬ運命なのに、そんな苦労してまで俺を捕まえに来るのか?」
正直なところ、都賢秀は苦労してまで自分を捕まえに来る斎藤の真意が理解できなかったが…
一方で返ってくる答えは大体予想がついていた。
「すべてはマザーの意志だ。お前を逮捕し、みんなの前で処罰することで、世界が再び平和になったことを示そうというのが、マザーの偉大な意思なのだ。」
「ククッ!」
都賢秀の嘲笑に、斎藤の顔は険しくなった。
「マザーの神聖な意思を嘲笑うとは…ここで死を与えようか?」
「世界が平和になるのを見せたい?お前、バカか?」
「どういう意味だ?」
「マザーというあのただの機械コンピューターは、自分の権力を強化するために俺を殺そうとしているだけで、世界のためなんかじゃない。」
「生意気だ!!」
斎藤が銃を抜き、都賢秀を殺そうとした瞬間、チームの一人が素早く駆け寄って制止した。
「チーム長!必ず生け捕りにしろという局長の指示ではありませんか。」
「…チッ!」
制止する仲間の言葉に斎藤は興奮を抑えたが、都賢秀はその会話の中で重要なことを素早く察知した。
【局長?マザーの命令で来たって言ってたのに、局長って一体何だ?】
隊員たちは口では「マザーの意志に従って」としか言わないが、局長という人物をもっと恐れ、従っているようだった。
新しい人物の存在に都賢秀は記憶しておくことにした。
「大人しくついて来い。さもなければ武力行使するぞ。」
大人しく従えという斎藤に、都賢秀は鼻で笑った。
「なんで?ついて行けば死ぬだけだろ。」
「どうせここにいても死ぬのは同じだ。俺たちについて来れば、少なくとも数日は生き延びられる。」
わけのわからないことを言う斎藤を見て、都賢秀は呆れるばかりだった。
「…兄さん、もう行きましょう。ここにいても僕らにできることはないけど、外に出れば何か手があるかもしれません。」
子龍が小声で囁き、素直に隊員たちについて行こうと言った。
都賢秀がここに残りたかった理由も、レトムが外で何か策を講じるかもしれないという期待があったからだが、なぜかレトムは全く姿を見せなかった。
そうなるとここにいても得策ではないので、子龍の言葉に従うことにした。
「…そうしよう。ただし外には待機している隊員がもっといるだろう。油断するな。」
「はい、兄さん。」
「さっさと移動しろ、ひそひそ話はやめろ!」
小声で相談している二人を見て、斎藤がすぐに立つよう指示した。
立ち上がった二人に連盟の特殊手錠をかけながら言う。
「行ってマザーの偉大さを学んで来い。もう二度とそんな戯言は吐けなくなるだろう。」
「俺が次元を繋げる能力者だからって処刑しようとするクソコンピューターが偉大だって?ふざけんな…」
都賢秀はマザーの偉大さだけを唱える斎藤を哀れみながら呟いたが、彼がこの一言で考えを変えるとは思っていなかったのに…
「何だって?!」
「え?何が?」
「お前が連盟に追われている理由は…次元を繋げる能力を持っているからだって?!何か犯罪を犯したんじゃなくて?」
慌てて吐き出した斎藤の言葉に、都賢秀の方が驚いた。
「俺は798番地球で普通の市民だった。突然連盟に捕まって、次元の繋ぎ手だとか何だか訳の分からないことを言われて、死刑判決を受けただけだ。それだけだ。」
都賢秀の言葉に斎藤だけでなくチームの連中も呆然として、お互い顔を見合わせていた。
「お前たち、まさか…指名手配者の罪状すら知らずに追いかけてたのか?」
都賢秀の切り込む質問に、斎藤たちは何も言えなかった。
「え、えぇい!マザー様が大きな意思があってやってるんだ!文句言わずにさっさと動け!」
「局長の命令で来たって言ってたのに、なんでマザーの話ばかり出すんだ?」
「そ、それは…」
マザーではなく局長の命令で来たんじゃないのかという質問に斎藤は反論できず、それを見逃す都賢秀ではなかった。
【…やはりチャルトクの言ったことは全部本当みたいだな。連盟の上層幹部たちがマザーのメインボードをハッキングして、自分たちの好きなように作り変えたって話は本当だった。】
権力を握るためにマザーを改造し、マザーを前面に立てて権力を得て、反抗する他次元の者たちを苦しめているという話は事実だった。
だがもっと重要なのは、斎藤のような末端の隊員はその事実を知らされていないようだった。
【まあ…チャルトクの話が本当でもどうだっていいさ…結局俺の運命は連盟に捕まらずにずっと逃げ続けることだ…それにしても、あのチャルトクは一体どこ行ったんだ?】
自分を旅に巻き込んだレトムなのに助けに来ない姿に都賢秀はイライラが爆発しそうになった。
「さっきから何ぶつぶつ言ってんだ?早く入れ!」
隊員の一人が自分たちが入ってきた地下道へ戻るよう促した。
素直に地下道を通って隊員たちについて行くと、30分ほど歩いて村の外れに出た。
「…よく掘ったな。でもここから神殿までどうやってこんな正確に掘って入ったんだ?」
「あの少女が教えてくれたんだ。」
「少女?」
隊員たちに情報を渡した少女がいると聞き、振り返って見ると…
「…またお前か?」
そこにはルカがいた。
「だから後悔しないようにって言っただろ。」
ルカは都賢秀と子龍を告げ口して、今度は隊員に貢物として差し出し、図々しいほど堂々とした顔をしていた。
「あーもーこれ殴るわけにもいかねえし…」
都賢秀が小さなルカに殴るふりをすると、斎藤が二人の間に入った。
「こんな弱くて幼い少女を殴ろうとするとは。お前は本当に質の悪い犯罪者だな。」
「何言ってんだよ!お前なら俺を告げ口した奴を良く思えるかよ!!」
「話が通じんか…それより。」
斎藤は都賢秀を無視してルカに目を向け、感謝した。
「ルカちゃんだな?協力してくれてありがとう。おかげで次元の繋ぎ手を逮捕できたよ。」
感謝の言葉に、なぜか表情を硬くするルカを見て斎藤は察した。
「ああ!報酬の話だな?多くはないが、逮捕に協力したので所定の報酬を…」
「お兄ちゃん…」
「え?どうしたんだ?」
お兄ちゃんと言われて嬉しそうに答えた斎藤は…
「ごめんね…」
よくわからない謝罪をするルカのせいで一瞬ぼんやりした顔になったが、彼が何を意味するのか聞く前に…
ジャラッ!!
突然ガラス瓶が割れた。
何が起きたのか誰も理解できないまま、ガラス瓶から流れ出た液体は急に気化して、むせかえるような煙を作り出した。
「煙幕弾?!」
自然物質を集めて作った煙幕弾を見て斎藤は慌てて都賢秀を守ろうとしたが…すでに姿は消えていた。
誰もいない場所を呆然と見つめていた斎藤は…
「くわあああああっ!!!次元の接続者ぁぁぁぁ!!!必ず!捕まえて!やるぅぅぅぅ!!!」
空に向かって怒りと憎悪を込めた咆哮を轟かせた。
*****
遠くで斎藤の咆哮が聞こえる場所で、ルカは都賢秀と子龍を連れてどこかへ向かっていた。
「…お前、一体何考えてるんだ?俺たちを神殿に売り渡して隊員に引き渡し、今度は助けるなんて。」
「俺は確かに警告しただろ。逃げろって…」
都賢秀はあまりにムカつく言い方をするルカを見て、本当に一発ぶん殴ろうか迷っていた時…
〈無事に来たな。〉
昨日から見えなかったレトムが待っていた。
「チャルトク?お前ここで何してる?」
〈ご覧の通り、ここで皆さんを待っていました。〉
「それが言い訳かよ…なんで昨日から見えなかったんだ?」
突然姿を消したことについて都賢秀は寂しく責めたが、レトムは仕方なかったと答えた。
〈申し訳ないですが、会ってはいけない人がいたので…〉
「会ってはいけない人?」
誰か聞こうとした瞬間、レトムの次の言葉を聞いて疑問は頭から消えた。
〈それにルカちゃんの助けを借りたからです。〉
「ルカ?!あの小娘が?!」
〈そうです。正門を出た時、遠くでルカちゃんが私を呼んでいました。近づいてみたら提案がありました。二人を無事に連れ出す代わりに煙幕弾の作り方を教えてほしいと。〉
都賢秀は自分を「小娘」と呼んだルカに足を蹴られながら見つめた。
「一体何考えてるんだ?」
「何って…聖女様を守りたいんだよ…俺は聖女様を守りたいだけで、お前らが死んでほしいわけじゃない。」
「ちっ!嫌味な小娘だな…」
また小娘と呼び、現に都賢秀の足を蹴るルカ。
「うるさい!とにかくもっと怒られたくなければさっさと消えろ!」
「悪いがそれはできない。」
「何だって?!そんなに怒られてもまた聖女様を狙うつもりか?」
ルカは何してるんだと詰め寄ったが、都賢秀は気にせずレトムと子龍と一緒に別ルートで潜入する方法を話し合っていた。
「レトムから聞いたよ!聖物を壊さなきゃ世界が滅びるって?」
「そうだ。」
「じゃあ俺が壊してやるよ…遠い未来になるだろうけど、俺が責任持って壊す。だから…聖女様から聖物を奪うのはやめてくれ…」
ルカの声は切実で、瞳には震えが宿っていた。
聖女から聖物を奪わないでほしい…意味深な言葉に都賢秀がじっと見つめると、ルカは目を逸らし、うつむいてしまった。
「…お前は本当にわからない奴だな…最初は狂信者だから聖女を守りたいんだと思ったけど…今見るとそんな感じもしない…」
都賢秀はルカが何かを求めてこんな行動をするのか、まったく理解できなかった。
「…隠してて悪かった。でもお願いだ。どうか聖女様から…!!」
「悪いがそれはできない。」
自分がそう頼んでいるのに、結局聖女からキューブを奪うと冷酷な都賢秀を見て、ルカは険しい表情になろうとしたが…
「前回、聖女の事情を知ったからだ。」
「何?!」
ルカは一体何を言うんだと思い、呆然としたが、すぐに都賢秀に返ってきた言葉を聞いて表情が固まった。
「聖女は教団に騙されている。」
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