第57話 捕らえられた都賢秀
「よし!決戦の時だ。さあ、行こう。」
再び神殿へ向かう準備を整えた都賢秀は、計画が順調に進めばもう戻ることはないだろうと思い、先にマーシャおばさんに別れの挨拶をした。
「それじゃ、私たち行きますね。」
「情が移ってから離れるのは寂しいね。どこへ行っても身体を大事にしなさいよ、若者たち。」
都賢秀と子龍が出発すると知った子供たちはとても名残惜しそうだった。
「おじさんたち…もう行っちゃうの?」
「もう来ないの?」
名残惜しそうな子供たちの姿を見て足がなかなか進まなかったが、都賢秀には使命と目的があった。仕方なかった。
「ごめんよ…俺たちにはやらなきゃならないことがあるんだ…」
子供たちが怖がるので、都賢秀の代わりに子龍が慰めて励ましていた。
子供たちの世話は子龍に任せ、都賢秀はマーシャおばさんに近づいた。
「旅の資金なので多くはないけど、これを受け取ってください。」
都賢秀はマーシャおばさんに銀貨二枚を差し出した。
「まあまあ!こんなものをくれるなんて!前に買ってくれた子供たちの服や薬草だけでも本当に助かったのに…」
「前に渡した食料だけじゃ子供たち一ヶ月ももたないでしょう…これを渡すから、子供たちをしっかり見てあげてください。」
子供たちのためと言うと、マーシャおばさんは二度と断らなかった。
「ありがとう、若者。聖女や教団よりずっと助けになるよ。」
半年分は軽く子供たちを養えるお金を渡した都賢秀に、感謝のあまりマーシャおばさんの目には涙が滲んだ。
「じゃあ、そろそろ行かないとね。子供たち、よろしく頼むよ。」
「そうだね。若者たちも気をつけてね。」
都賢秀と子龍はマーシャおばさんに挨拶を終え、神殿へ向かった。
神殿に着いた二人は、昨日と同じルートで聖女がいる場所へ移動した。
昨日は聖女がなかなか寝てくれなくて失敗した。
しかし今回は聖女が寝ていようがいまいが、とにかく侵入し、強引にキューブを奪い壊してゲートを開き、即座に逃げるのが計画だった。
女性から乱暴に物を奪うのは心苦しかったが、何より早く仕事を終えて別の次元へ移動しなければならなかった。
「やれやれ…今日も相変わらず狭くて狭苦しいな…」
今日もギリギリと狭い空間を移動する都賢秀と子龍。だが人影があるはずのない天井に、誰かの影が見えた。
「…何だ?昨日は何もなかったのに…」
「まさか…幽霊じゃないですよね、兄さん?」
〈非科学的な話はやめてください…〉
昨日は誰もいなかった天井の間に人影が現れ、緊張していると…その正体は――
「大人が何言ってるんだよ、幽霊なんて…」
なんとルカだった。
「な、何だ?ここで何してるんだ?」
都賢秀はドキドキしながら落ち着こうとしつつ、なぜここにいるのか尋ねたが、ルカはなぜか黙ったままだった。
「なんでいるんだよ?何考えてこんなところにいるんだ?」
「お前たちを止めに来たんだ。」
「俺たちを止めに来たって?」
あまりにも信じられない言葉に抗議しようとした都賢秀は、ルカの真剣な表情を見て言葉を失った。
ルカの暗く険しい顔は子供の悪戯のそれではなかった。
「…どうやら子供の冗談じゃなさそうだな。」
「そうだ。だからすぐに帰れ。さもないと後悔するぞ。」
「悪いがそれはできない。お前はキューブがどれだけ危険なものか知らないんだ…!!」
「そんなの全く興味ない!だからさっさと出て行け!」
ルカは都賢秀と子龍を威嚇し、早く戻れと言うだけだった。
予想外の障害が立ちはだかるが、目標は目前だった。
都賢秀はルカを抑えて通ろうとしたが――
「ここに聖女様を狙う怪しい連中がいる!!」
ルカが聖騎士たちに叫んだため、都賢秀は狼狽えた。
「おい!!何してくれてんだ…!」
「捕まりたくなければ早く逃げろ。」
体格の小さなルカは狭い天井の中を素早く移動し、あっという間に姿を消した。
「侵入者あり!探せ!!」
聖騎士たちはルカの叫び声を聞き、捜索を始めたが…
聖騎士たちは声は出すものの、居場所はわからず右往左往していた。
「こっちにいることを知られてないようだ。静かにしている間に様子を見ようか?」
「そ、そうだな…」
静かにじっとして事態が収まるのを待つことにしたが…
「怪しい連中が天井に隠れてるぞ!!」
再びルカが現れ、都賢秀と子龍が天井に隠れていることを知らせた。
「くそっ、あの小僧め!!」
都賢秀はルカに罵声を浴びせたが、今ルカに怒るのは重要ではなかった。
急いで逃げなければならないが、狭くて速く動けず…
「天井にいるぞ!!槍で突け!!」
槍を使って突きまくり、このままでは命が危ない状況だった。
〈都賢秀様!!ここにいるのはもっと危険です!むしろ降りましょう!〉
聖騎士がいる場所に降りるのも危険だったが、この狭い場所にいては動けず槍の餌食になる可能性が高かった。
決心した都賢秀は天井を壊して下へ降りた。
だが聖騎士は十数人ではなく、数十人もいた。
「なんだよこんなに多いのか!!」
聖女を守るためとはいえ、あまりにも多くの聖騎士が押し寄せていた。
「死ね!教団の敵!!」
バン!!
剣を持ち替えて攻撃してきた聖騎士を、都賢秀は肩に銃撃を浴びせて阻止した。
だが聖騎士の数は、都賢秀の弾数より多かった。
「くそ…どうする?」
悩む都賢秀の前に聖騎士の一人が槍を持ち替えて走りかかってきた。
しかし子龍が攻撃を受け止め、剣で切り捨てて都賢秀を守った。
「兄さん!道を開きます!急いで脱出しましょう!」
子龍は剣を振り回し前進すると、聖騎士たちは落ち葉のように倒れ道が開けた。
元々すごい腕を持つ子龍だが、白龍の力を得てからは超人の領域に入り、聖騎士たちは子龍を止められなかった。
子龍のおかげで都賢秀は楽に前に進んでいるように見えたが…
「神の裁きを受けよ!!」
廊下で待ち伏せていた聖騎士の一人が槍で都賢秀に襲いかかった。
「クソッ!!」
都賢秀は左手に宿る白龍の防御膜で槍を防ぎ、短剣で肩を刺して戦闘不能にした。
「数が多すぎる…」
子龍は人間の域を超えた実力で、聖騎士だらけの廊下で道を作っていたが…
建物は巨大で廊下も広く、聖騎士は満ち溢れていた。
そのため都賢秀も側面からの攻撃を防ぐのに必死だった。
〈正門まであと少しです。もう少し頑張ってください。〉
レトムの言葉通り、正門が見え始めた。
「よし!正門を越えれば一安心…!!」
子龍はついに正門を開けて安全地帯へ行けると思ったが、なぜか子龍は呆然と立ち尽くしていた。
「何だ?!どうしたんだ…!!」
正門を越えた瞬間、都賢秀もまるで彫像のようにピタリと動きを止めた。
正門の外、中央庭園には数百人もの重装備の聖騎士が待ち構えていた。
「…チッ!」
後ろも聖騎士、前も聖騎士…都賢秀と子龍は完全に包囲されてしまった。
「神の御前で騒ぎを起こすとは許せん!!命乞いをしてももう遅いのだ!!」
聖騎士たちは二人を苦しめ、殺す気なのか剣や槍ではなく棍棒で殴りかかっていた。
都賢秀と子龍は攻撃に気を取られながらも呻き声ひとつ上げなかった。
退路が完全に断たれた今、無駄な抵抗で聖騎士たちを刺激すると命が危ないからだ。
だがすでに興奮した聖騎士を止める気配はなかった。
殴打が続き、意識が遠のきそうなその時――
「何事だ!!」
聖騎士たちを制止する声が響き渡った。
声の主を見るや聖騎士たちは慌てて床に伏せた。
「聖女閣下にお会いします!!」
声の主は聖女リリカだった。
「神の聖殿で何事ですか!すぐやめなさい!」
リリカ聖女は聖騎士たちにやめるよう叱ったが、聖騎士たちは毅然と答えた。
「申し訳ありません。彼らは聖女閣下の命を狙い侵入した暴徒です!神の罰が下るべきではないでしょうか!」
「侵入者?! 」
侵入者という言葉にリリカ聖女は都賢秀と子龍を鋭く睨んだ。
「…暴徒とはいえ、正式な裁判もなく処罰することはできません。彼らを神殿裁判所の牢獄へ連れて行き、裁判の日を定めて審理を行います。」
「牢に入れよ。」と言い終わると、リリカ聖女は再び中へと入って行った。
リリカ聖女は裁判にかけるよう言い残し入っただけだが、聖騎士たちは命を狙った暴徒にも寛容な聖女の慈悲に感動し、涙ぐむ者までいた。
*****
都賢秀と子龍は全身を縛られ牢に閉じ込められていた。
どれほど殴られたのか血まみれの顔には青あざがいっぱいだったが、二人の表情は苦痛よりも怒りに満ちていた。
「死刑執行は明日だ!!この世での最後の一日を味わいながら、自分の罪を噛み締めるがよい!!」
騎士たちは明日死刑を執行するという青天の霹靂の知らせを告げて去った。
「くそ…俺たち何したっていうんだ…」
46番地球で仕事をうまく済ませてここに来た時まではすべて順調だったのに、なぜこんな仕打ちを受けているのか。
都賢秀は自分の安易な考えに怒りがこみ上げた。
ルカは確かに警告してくれていた。
だが子供が何をできると思い無視してきたのだ。
安易な考えが招いた結果だった。
だが聖女は裁判にかけて調査して罪の有無を問うと言っているのに、聖騎士たちは勝手に明日処刑すると言っていた。
「…悪いな、子龍。わざわざ俺に付いてきて、予想もしていなかった屈辱を受けさせてしまって。」
「そんなこと言わないでください、兄さん。私は楽しかったです。」
安易な判断で危険にさらしたことを謝ったが、子龍はいつも通り「大丈夫」と言い、逆に励ましてくれた。
「なあ、くそお餅!お前も何か言えよ…って、あのくそお餅はどこ行ったんだ?」
「そうですよね?さっき正門を出てから見かけてないですよ!」
「逃げたな…あの正体不明のくそお餅を信じて旅に出たのが失敗…うん?」
レトムの愚痴をこぼしていると、床の下からザザッと物音がした。
音からすると誰かが穴を掘って牢に近づいているようだった。
「レトム公じゃないですか?!」
「そうだな!信じてたぞ、くそお餅!」
さっきまで文句言ってた都賢秀はどこへやら、「やっぱりレトムは俺たちを見捨てないな」と喜んでいた。
都賢秀と子龍は期待に胸を膨らませ、レトムの登場を待っていたが…
「ついに会えたな、次元の繋ぎ手。」
地面の下から出てきたのはレトムではなく、次元移動管理連盟の工作員斎藤 蘭だった。
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