第51話 宗教が支配する地球
都賢秀と子龍は、全身を縛られ牢獄に閉じ込められていた。
どれほど殴られたのか、血だらけの顔にはあざがびっしりと浮かんでいるけれど、それでも都賢秀と子龍の表情には、苦痛より何より怒りが満ちていた。
「死刑執行は明日だ!!この現世で過ごす最後の一日を味わい、自分の罪を噛みしめるがいい!!」
騎士たちは、都賢秀と子龍に対して“明日死刑を執行する”という青天の霹靂のような知らせを伝えたあと、さっさと去ってしまった。
「くそっ…俺たち、いったい何をしたっていうんだよ…?」
46番地球での任務をうまくこなし、ここへやってきたときはすべてが順調だったのに、どうしてこんな目に遭うことになったんだろう…都賢秀は自分の油断に怒りがこみ上げてきた。
*****
ゲートが開き、都賢秀、子龍、それにレトムが歩み出た。
「う、うわっ!!」
子龍はゲートを出るや否や身を縮めて震えが止まらなかった。眼前に広がる雪原では、鋭い寒風が吹きすさび、体を刺すようだったのだ。
「レトム公…ここは一体どこなんですか?異邦人と接戦をした国境地帯でも、こんな寒さはなかったと思いますが…」
〈こちらは113番地球の北半球に位置するセハリハ高原と呼ばれる場所です。今は冬ですので、このような寒さになっております〉
「ということは…夏はこうではないということですか?」
〈もちろんです。夏になるとそこそこ暑くなり農作物も育つのです。この地は小麦の生産地としても有名です〉
雪は腰の辺りまで積もり、冷たい風が吹き荒れる真っ白な世界では、とても夏に作物が育つ様子を想像できなかった子龍だった。
でもレトムは、皆が通った痕跡を消す作業をしながらも、遠くにいる都賢秀に気付いてこう呟いた。
〈…それにしても、あの人は一体何をやってるんですか?〉
「そ、そうですね? 私にもよく…」
都賢秀は得意げなポーズ…というよりは、自分の体裁を誇示しているようにも映ったので、レトムと子龍は困惑して顔を見合わせた。
〈まだ発狂する段階ではないようですけど…どうしてそんなことを?〉
「ふっ! 言葉遣いは無礼だが、気分がいいから今回は許してやるぞ」
〈気分がいい…とは… 何かあったんですか?〉
「それはな、このワタクシが…」
レトムと子龍は「また変なことを始めるんじゃ…」と心配したけれど、この人が自分たちのリーダーである以上、聞くフリをしてあげるしかなかった。そして――
「初めて、とても正確に、安全な場所でゲートを開くことに成功したのだ…そのことを言いたかったわけだ」
身勝手に見える態度は本当に腹立たしいけれど、確かに成長している姿は褒めるに値すると感じられた。
〈おめでとうございます。ますます進歩している姿を見ていると、私まで嬉しくなります〉
「おめでとう、兄貴」
レトムと子龍が拍手をして祝っているのに、なぜか都賢秀はきょとんとした顔で二人を見つめていた。正確にはレトムを見ていた。
〈…何ですか?〉
「性格破綻AIであるお前が、どういうわけか素直に褒めてくれるとは思わなかったからな」
〈あの… AIを変なふうにする才能をお持ちなのですね。なぜ褒めてやっても大騒ぎになるのですか?〉
都賢秀とレトムがいつものように到着後の口論を始めると、寒さに堪えかねた子龍が口を開いた。
「ねえ…喧嘩するのはいいけど、まず服を買って着ませんか? このままだと凍え死にそうだよ…」
巨大な体をぎゅっと縮めて震えている子龍を見ていると、確かにこの高原の真ん中にいたら、ほんの数十分で凍死してしまうだろうという思いが強まった。
「ほんとに…でかいだけのガキって、なんで我慢がないんだ?」
自分も寒さで鼻水を垂らしながらガタガタ震えているくせに、なぜか子龍だけ責める都賢秀だった。
〈余計なこと言わないで、早く移動しましょう。お二人のバイオリズムをスキャンした結果、あと32分後に低体温症に陥る可能性があります〉
見通しの悪い雪原に立ち尽くして危惧していたけれど、幸いにも村はそう遠くなかった。
20分ほど歩いた先の村には、丸太で壁が作られ、窓もドアも小さい北国風の建物が並んでいた。しかも村はそこそこ大きく、人口は少なくとも10万人はいるように見えた。
北の国の雰囲気が漂う通りを歩きながら、服屋を探した。
「でも、どの建物が服屋なのか、どうやって分かるの? こんなに建物が多くて、一つずつ探すのも無理だし…」
これだけ規模の大きな村だと建物が多く、しかも見慣れない外観のせいで、どこが店でどこが一般家屋か判断がつかなかった。
〈あそこにあります〉
するとレトムが、あっさりと服屋の場所を教えてくれた。
「え? どうして分かって教えられるの?」
〈あの建物の看板に ‘Магазин одежды’ と書いてありますから〉
「‘Магазин одежды’って…なんて書いてあるんですか?」
〈この地の文字ですが…都賢秀様の故郷地球の北半球にあるロシア、ベラルーシ、ブルガリア、モンゴルなどで使われているキリル文字と同じ規則なので、キリル文字だと言えばいいでしょう〉
「ああ、要するにロシア語ってわけか…寒いのも当然だな」
ともかく服屋を見つけたので、中に入って急いで防寒服を買うことにした。
「すみません!」
都賢秀が店内に入り声をかけると、印象の良さそうなおばさんが出てきた。
「Здравствуйте, дорогой! Чем могу помочь?」
女性の口からは当然ながら意味のわからない言葉が飛び出した。
「わあ…こうやっていきなり俺たちを客扱いしなくなるんだな」
ロシア語らしい響きではあったけれど、まったく理解できない都賢秀は、レトムに早く翻訳器を動かすように急かした。
〈はあー… AIって大変ね…〉
「文句あるなら、韓国語の地球にだけ連れて行けよ」
〈そんなことできるはずないじゃないですか。次元が閉じた地球しか回れないし…〉
レトムが翻訳してくれたおかげで、おばさんの言葉が理解できた。
「ごめんなさいね、若いお二人…なんて言ってるのか全然分からなかった?外国から来たの?」
「今も僕らの言葉、わかりませんか?」
「あら? さっきは分からなかったけど、今はこっちの言葉に聞こえるわ!ボニヘルト語を使えるなら最初から使ってよ、なんで変な言葉使ったの?」
「私たちの国の言葉を変な言葉だって…ひどいなぁ」
「ははは! ごめんね、おばちゃんが謝るから機嫌なおしてね」
中年男性のように豪快に笑う服屋の店主を見ても、都賢秀は怒りを感じなかった。
「ここは、『ボニヘルト』という地域なんですか?」
「正確にはボニヘルトという帝国の北部にある、リリカリアンという村なのよ」
リリカリアンという村について知った都賢秀は、ここで「キューブ」の情報を得ようとして…
「おばさん、もしかして…」
〈都賢秀様〉
都賢秀が質問しようとしたその瞬間に、レトムが顔を隠してしまい、都賢秀とおばさんは驚いて目を見開いた。
「あぁ、まあ!これはなんだ?空飛ぶもち?!」
自分を「もち」呼ばわりされても全く気にしないレトムは、ただ都賢秀だけを見つめてこう言った。
〈聞く必要ないので、先に服を買って出ましょう〉
「なんで?」
レトムが「キューブの場所を聞く必要はない」と言ったことで、都賢秀だけではなく子龍も戸惑った。
〈説明は後でするから、とにかく服を買いましょう〉
「そ、そうか…」
レトムが何を考えているのかはわからなかったけれど、とにかく指示の通り、トナカイ皮のコートを2着、羊毛皮のブーツを2足購入した。
「支払いがないんだけど、これでいいのかな?」
都賢秀は671番地球のロンウェイからもらった銀貨を差し出した。すると店主のおばさんは、その銀貨を見て驚いた顔をした。
「あらまあ…これならむしろ私たちがおつりを返さなきゃいけないくらいね」
おばさんは数枚の硬貨を釣りとして返してくれたが、ここでの通貨単位を知らない都賢秀と子龍には、そのおつりがどれほどの価値か分からなかった。
「銀を渡しておつりもらったけど、これいくら分なの?」
レトムがしばらく考えて言った。
〈このお金で、お二人の一週間の食費にはなるでしょう〉
「な、なんだって?!五百ウォン硬貨くらいの銀を一枚出しただけなのに、どうしてこんなにおつりが多いんだ?」
〈113番地球の文明発展度は798番地球と比べて約10世紀ほど違うので、こちらでは銀の価値が非常に高いんです〉
「そうか…それより、なんでさっき店でキューブの情報を聞く必要がないって言ったんだ?」
〈それはですね…私があらかじめキューブを見つけてある地球だからです〉
「えっ?!」
旅が始まった当初、レトムは「事前にキューブを見つけてある地球がある」と言っていた。どうやら113番地球も、レトムがあらかじめキューブを見つけてある地球だったらしい。
「じゃあここで何してるのよ?!早く探しに行こうよ」
〈それがですね…〉
「え?場所を知ってるのに、どうして問題なの?」
〈それは…〉
レトムが答えようとしたその時、突然大きな声が響いた。
「皆、道をあけよ!!聖女様が通られる!!」
“聖女”が通るという声が響くと、自分の用事をしていた人々や通行人たちは左右に散って道を開け、そのまま地面に伏して頭を垂れた。
「な、なんだ?皇帝でも来るのか?」
古代中国風の671番地球出身の子龍は慣れた光景らしくすぐに地面に伏したが、都賢秀には見慣れない場面で何をすればいいのか分からず戸惑っていた。
「そこ!すぐにひざまずかないと、神聖冒とくで逮捕するぞ!!」
聖騎士らしい男の怒鳴り声に、都賢秀も仕方なくひざまずいた。
「それにしても、あの人たちは一体何者なんだ?ここの領主か?」
「そんな感じじゃないのかな…?」
都賢秀と子龍は、何が起きているのか分からず二人で小声で話していたところ、レトムが前に出て説明してくれた。
〈彼らはリリカ村を支配する教団の人々です〉
「…教団?宗教団体ってこと?」
〈その通りです〉
「宗教団体が村を運営しているって…そんなのあり得るのか?」
〈798番地球でもよくあることではありませんか。イランやバチカンのように、こちらでも宗教指導者が統治しているだけです〉
レトムの例えに納得した都賢秀は再び前方を見た。すると――
“聖女”と呼ばれる女性が、豪華な馬車に乗って通り過ぎていた。
宗教指導者にしてこの地方の統治者らしく、純白で華麗、かつ神々しく見える装いを身にまとった聖女は、赤い髪が印象的な女性だった。
最北端の地域に位置しているため、通常は金髪の住民ばかりだが、その聖女は赤い髪をしていて目立っていた。
遠くてよく見えないけど、「聖女というからには美人なんだろうな?」なんてのんきに考えていたそのとき…
「そ、それって…」
聖女がかぶっていた豪華な聖冠が目に入った。
そこには、都賢秀と皆が探しているあの物が、確かに埋め込まれていたのだった…
「それ、キューブじゃないか?!」
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