第50話 正解の行方
外へ追い出された旅団は、一瞬ぼう然と現実を受け入れられないような顔をしていた。
だが、間もなく状況は動き出した――。
〈自分が格好つけて出て行ったのに、結果がこれって何なんすか?!〉
「だからだよ!兄貴だけ信じて…!」
全てが都賢秀に向けられた怒りと非難だった。
そしてレトムは最悪の事態を訴えかけた。
〈これからどうすんですか?明日には連盟のエージェントが襲撃してくるはずです…それより、能力が封印されたか本当に試してみてください。次元を一度開いて〉
しかし、都賢秀はまるで現実を否定するかのように眉間にしわを寄せ、何度もつぶやいた。
「こんなはずじゃない…違う…絶対に違う…」
〈しっかりしてください、都賢秀さん!今はそんな場合じゃない!!〉
だがレトムが必死で呼びかけても、都賢秀は考え込んだまま沈黙を守り続けた。
仕方なく46番の家に戻ると、報を受けたアルフォンスまでもが駆けつけていた。
「状況はどうだ?」
〈今回も外れました…〉
その言葉を聞いた46番とアルフォンスは、深い失望と落胆に沈んだ。だが、何よりも打ちのめされたのは都賢秀自身であり、先に彼を慰めるべきだと思っていた。
「気にすんな。まだチャンスは一度残っている…え?」
だが都賢秀は依然として沈黙し、ただつぶやくだけだった。46番は戸惑い、
「どうしたんだ、彼は?」
〈わかりません。博物館から追い出されて以来、ずっと同じ状態で…〉
と答えた。
みんなが心配し、どうにか声をかけようとしたそのとき、都賢秀がレトムを呼んだ。
「レトム…」
〈はい?〉
「石像が出したゲーム…最初のヒントは何だった?」
〈“最も光っていた的”でした〉
「じゃあ昨日のヒントは?」
〈“最も小さな的”です〉
「そして今日のヒントは、“最初に生成されたもの”だったな?」
〈はい、その通りです〉
都賢秀はまた黙り込み、皆はじれったかった。
〈都賢秀さん!状況がどれほど絶望的かお分かりですか?明日には連盟のエージェントが来ますよ!〉
しかし都賢秀は無言のまま。レトムは苛立ちをこらえきれず胸を手で叩いた。
だが都賢秀はレトムの言葉などお構いなしに、頭の中で繰り返していた。
『最初は最も光っていた…次は最も小さかった…三つ目は最初に作られたもの…』
それらのキーワードが脳裏でつながるようでつながらなかった。
やがて都賢秀は小さく口を開いた。
「…なあ、昨日、お前確か“最後尾の的が最も小さい”って言ったよな?スキャンした結果」
〈そうです。空間内の全ての的をスキャンしました。的以外をスキャンする意味などありませんから〉
その言葉が胸に強く響いた。
「“的以外をスキャンする意味はない”…そして、“固定観念に囚われるな”――」
レトムと石像のヒントが合わさって、頭の中がぱっと開けたようだった。
「おそらく結論を出すには、明日の石像の“第四のヒント”を聞くしかないな」
〈え?!〉
都賢秀の静かな覚悟にレトムはため息混じりだったが、46番とアルフォンスが寄り添い、慰めてくれた。
*****
翌朝、都賢秀はレトムと子龍を連れて博物館へ向かった。
46番とアルフォンスも同行し、深い心配を胸に彼らを見守っていた。
だが、博物館前に着いたときに彼らが見たのは、十万人は優に超える支持者たちだった。
「この人たちは、誰ですか?」
子龍の問いに、アルフォンスが答えた。
「君が次元を再び開くために戦ってくれていると知った人たちだ。薬草を取り戻すため、差し出された勇気に応えて応援してくれているんだ」
そこには市長や大統領までもが姿を見せ、都賢秀に握手と拍手を送っていた。
だが都賢秀本人はまるで見ていないかのように、ただひたすら博物館の入口だけを見据えていた。
そんな時、いつもは中にいるはずの石像が、博物館の入口でじっと待っていた。
「今日は最後の日だ…どうだ?覚悟はできているか?」
「…うん」
「自信満々な姿は頼もしい。だが、命を軽んじる態度は少し心配だ。まだ諦めるなら、今すぐ能力を戻してやってもいいぞ」
もし諦めて離脱するなら能力を返すと言ったそのとき、レトムは都賢秀を見た。だが、彼は毅然と答えた。
「無駄言はいい。ゲームを始めろ」
都賢秀の拒絶にレトムは絶望したが、応援してくれている市民のことを思うと止められなかった。
「…覚悟が決まっているようだな。よかろう、ゲームを始めよう」
石像が腕を振り下ろすと、的が現れた――しかし今度は、動く的だった。
高速で動き回るもの、小刻みに揺れるもの、ほとんど振動にしか見えないほど微妙に動くもの…多様だった。
石像はルールを告げた。
「この中で唯一“動かない的”を撃て」
一見簡単そうだが、微細な動きのものが多く、遠目には止まって見えるものもある。静止した的を見分けるのは至難の業。
当然だが、制限時間は刻々と迫った。
レトムさえ絶望の色を濃くし、
〈都賢秀さん…今でも…〉
と、諦めるようにささやいた。
しかしそのとき、都賢秀は小さくつぶやいた。
「こいつ…まさか…身を張ってまで“動かないもの”を示していたんじゃ…」
迷いなくプラズマピストルのトリガーを引いた。
レトムが慌てて声をかけた。
〈あっ、都賢秀さん!そこじゃないって…!!〉
だが、撃った先は――**石像の胸に埋め込まれた“キューブ”**だった。
レトムが止めようとしたが間に合わず――。
「ふっ…正解だ!」
石像は微笑みながら言った。すると、その瞬間、胸のキューブが砕け散った。
その場にいたすべての者が言葉を失った。
〈ど、どうして…?〉
「単純な話さ。こいつは“的を撃つゲーム”だと言いながら、自分のキューブこそ撃てと最初から示していたんだよ」
〈え?〉
レトムには信じられない話だったが、よく考えてみれば――。
第一のヒント:青い的の中で最も光るもの ⇒ 博物館入口で最も青く輝いていたのは――キューブ
第二のヒント:もっとも小さいもの ⇒ キューブは的よりずっと小さかった(小さな拳ほどのサイズ)
第三のヒント:初めに生成されたもの ⇒ 的が生成される以前から存在していたのはキューブだけ
第四のヒント:動かないもの ⇒ 石像自身(=キューブ)だけが動かなかった
「“青い的”と言っただけで、“場に生成された的”とは一言も言わなかった。だから我々は作られた的だけに注目し、キューブに気づかなかった。だから“固定観念にとらわれるな”と言ったのだ」
〈そ、そういう…石像は、最初から私たちに“キューブを撃て”と言っていたということですか…?〉
「その通り」
石像が口を開いた。
「私の意志ではなく、頭の中に響く“声”のせいでキューブを守ってきた。しかし…患者たちの苦しみに心を痛めていたのも事実だ…」
「…だったら最初から“キューブを撃て”といえばよかったじゃないですか」
「フッ!言えないのだよ。意志で言えることではないからな。だからゲームを提示した。己が狙う対象を悟られずに導くために…やはり私の目は間違っていなかったようだ」
石像は、自らの方法で彼らを助けようとしたのだと知り、集まった市民たちは感動と感謝の涙を流した。
その瞬間、空に巨大な球状のエネルギー体が現れ、周囲へと枝のように伸びていった――
次元のゲートがついに再び開いた。
「わああああああ!!!」
勝利を確信した市民たちは歓喜の声を上げ、抱き合って喜びを爆発させた。
「壮観だな…」
石像は、自身の命が消えゆく瞬間ですら、にこやかにゲートが開く様を見つめていた。
すると都賢秀が少し首を傾げて訊いた。
「でも疑問がある。お前、自分の意志じゃないと言ったけどさ…前に俺が撃とうとしたとき、防御しただろ?でも今回は、キューブを狙っても防御しなかった。あれは何の意味があるんだ?」
石像は大きく笑った。
「ははは!元々“石像が話す”こと自体がおかしな話なんだ。理屈はどうでもいいさ!」
都賢秀は笑って、その言動を特別視せず静かに見つめ返した。
「…どうやら時間のようだな」
石像は言い終わる前に力が抜け、身体が次第に麻痺していくのを感じた。
「短い間だったが、存分に楽しめたよ、次元のつなぎ手よ…この旅に安らぎあれ――」
言葉が途中で途切れ、石像はただの石像に戻った。
名もなき石像が、自らの命を犠牲にして市民を救った。
都賢秀はその崇高な犠牲に言葉なく涙し、静かに見つめ続けた。
――その時だった。
「おじさん?」
「ん?」
背後から聞き覚えのある声。振り向くと――
「やっぱりおじさんだ!ここで何してるの?!」
博物館の広場にぽっかりと開いたゲートをくぐって、見覚えのある少女が駆け出してきた。
155番地球で孤児たちを世話していた少女――リンだった。
「リン?」
「突然初めて見る門が開いたから、村長さんと一緒に来てみたんだ…」
リンの言う通り、村長と手をつないで異次元を超えてきたのだった。
「久しぶりだな、若者よ。君が次元を開いたのか?」
都賢秀は村長に礼を言いながら答えた。
「はい。私が開きました」
「普通の男じゃないと思っていたが…やはり君はすごい…!!」
「おいそこのおじさん!」
そのとき、アルフォンスが村長を見つけて駆け寄った。
「かつて師のもとで医療を学んでいた頃に拝見したことがあります。異次元の世界から薬草を取り寄せていた…あの方ですね?」
「…ああ!君も覚えていたか。聡明だった若者が今や立派な医者になったな」
驚くべきことに、その村長はかつて有名な薬草商だったという。しかもNESの特効薬に必要な薬草を供給していた人物だった。
「再会の話は後にして、まずは薬草を分けていただけませんか?薬草の供給が途絶えて、患者たちが苦しんでいます」
アルフォンスは焦りのあまり、まず事業の話を切り出した。
村長はにっこり笑い、「50年ぶりの再会なのに、性格は変わっていないな…ついてきなさい」と言い、アルフォンスを伴って155番地球へと移動した。
食料不足の155番地球と、治療薬を切望する46番地球――この二つの地球が協力すれば、確実に困難を乗り越えられるだろう。
都賢秀は、自分が初めて目にした成果を誇らしく見つめていた。
「これでもうお腹が空くことはないのかな?」
リンが微笑みながら訊くと、都賢秀は彼女の頭を撫でて答えた。
「もちろんさ。ここに“世話焼きの46番おじさん”がいるから、君たちを助けてくれるよ」
都賢秀が指した方向にいる46番は、にっこり笑って「もう心配いらないよ」と言うように応えていた。
リンは嬉しそうに大きな笑顔を見せた。
「やっぱりおじさんは私たちのヒーローだよ、ありがとう」
155番と46番、それぞれの地球で苦労は幾多もあった。
だが天宝やリンの笑顔を見て、やはりこの選択をして良かったと心から思えた。
「それじゃあ、おじさんって本当に世界を救ってたの?どこを回ってたの?」
「聞いて驚かないでな…。この俺がだぜ…」
リンとのやり取りで楽しい時間を過ごしていたそのとき――。
「次元の接続者!!マザーの意志により、貴様を逮捕する!!」
時間は限られ、連盟のエージェントたちが突如として現れた。
新たに編成された“次元のつなぎ手追撃スペシャルチーム”、リーダー斎藤 蘭と精鋭たちだった。
「こいつ、671番地球で見たあのエージェントじゃないか?」
「そうみたいですね」
「タチが悪いな…」
都賢秀が追われる中――
「もう行かせない!!」
「我らの英雄に何するんだ!!」
46番地球の市民たちがエージェントを食い止めた。
「市、 市民の皆さん…こんなことしないでください!われわれは公務で…」
「うるさい!!自分たちを見捨てたくせに今さらだ!!」
自分たちを救ってくれた都賢秀を助けるため、そして見捨てていった連盟への怒りを胸に、市民たちは抵抗した。
〈市民の方々が食い止めていてくれる今のうちに早く逃げましょう〉
「そうしよう。リン、ごめんな。でも俺、また行かないといけない」
「もう…寂しいね。でもまた会いに来てくれるよね?」
「もちろんさ」
都賢秀とリンは再会を約束して、指切りをした。
「今までありがとう、46番。元気でな!」
「こちらこそ、798番!旅が無事でありますよう祈っておくよ!」
市民たちの声援を一身に受けて、ド・都賢秀、子龍、レトムは次の次元へと旅立った。
その様子を見つめる斎藤 蘭は、歯ぎしりをしながら叫んだ。
「次元の接続者ぁぁぁ!!必ず捕まえてやるぞぉぉぉ!!」
その叫びは、ただ虚しく響くばかりだった。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
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